魔導帝国
交易金貨を現地通貨に両替して街を後にすると、そこは荒野だった。
小山や谷の様な起伏はあるが、ほとんど草木も生えていない。
赤茶けた砂埃が、時おり舞い上がる。
朽ちた工事施設の様な物もある。
「どうして、こんな事に?ここには魔導師が沢山いるのでしょうに?」
ラーミァ・ガーランド・ナジェスとしての常識が、困惑する。
魔導師/ガーランドは、収穫による大地の欠乏を補う為に、マスに祈って、地質を調整する存在だ。
そもそも、魔導師の割高が最多の『魔導帝国』で、農業が衰退する状況が理解出来ないでいた。
「魔導帝国が、東のエデンに最も近い場所だと言う事は御存じでしょう?」
「大陸の中央山脈が、この辺りだけ低くて、昔は魔物が流れてきたとか・・」
イフィルは、棚からマフラーを出して、ミアの口元を被う様に、首に巻いた。
砂埃が口に入ってシャリシャリしていたのだ。
「その為に、この辺りの魔導師は、戦闘特化し、更に剣等の武器を作る為に、鉄工業が盛んになりました。」
統一朝廷時代は、南側(現王国)と、業種分担していたが、王子の喧嘩で国が分断し、国単位としては、食料を輸入に頼るアンバランスな経済となっている。
「国家分裂後は、外貨を稼ぐ為に、鉄工業に拍車がかかり、国全体で露天掘りによる大規模な採掘が始まって、この様な姿になったと言う訳です。」
導師教育の一環で、ラーファから聞いた事を思い出す。
この大陸は、どこを掘っても、地下5メートル程で鉄鉱石などの金属層に突き当たる。
簡単に言えば、どこでも鉄鉱石が手にはいるが、深く地面を掘り返す程、地質は鉄分や金属を含み、農地には向かない土が出てくる。
掘りあげた土は混ざり、汚染されてしまうのだ。
掘られた金属質の谷底は勿論、掘り出された土が混ざり、汚染された農地は、マスによってやがて豊かな大地へと変わるが、それには数百年を要する。
マスをかき集めて散布し、魔導師を投入しても、数十年。
導師に出来るのは、軽い素材の調整であって、金属等の変質は一朝一夕で出来る物ではない。
だから、農地での広範囲や深い掘削は、止めろと祖母から言われていた。
「ここでは、外貨を手に入れる為に、死活問題だったのですが、その方法が、更なる窮地へと自らを追い込む結果になっているのです。」
露天掘りは、広く浅く掘る一番容易な方法で、テラの大陸でも頻繁に行われていた。
当然、荒れ果てる大地も広くなる。
それにより荒れた大地も、広大になる。
かと言って、食料輸入の為に外貨を求めなくてはいけないし、その数十年を待つ間に餓死する者も出るだろう。
今更止める手段が無いのだろう。
ミアは頭を抱えて考え込む。
「無駄ですよ。既にラーファ様をはじめ、幾人もの先人が考えて解決策が出ていない。人間のエゴで人間の分を越えた事をしてしまったのですから。」
イフィルが悲しそうな顔をする。
途中、小さな農村で一泊する。
農村と言っても、王国のそれとは比較にならない。
住民が、かろうじて食べていける程度しか収穫出来ない。
勿論、金もないので、行商人から食料を買う事も出来ない。
イフィルは、僅かな予備食料と引き換えに、井戸を使う許しを得ていた。
王国では無料で入手出来る水も、ここでは貴重品らしい。
焚き火を前に、イフィルとミアは、夜空を眺める。
満月には朧がかかり、天を目指していた。
そろそろ真夜中だ。
日頃、農村の為に儀式を行ない、生活の安定を図ってきたミアは、月に祈る。
「この地の人々に、御使い様の御加護があります様に。」
横でイフィルがにやける。
この地の教えでは、月には世界創造の御使い様が居り、大地を豊かにするマスを振り撒いているのが、月にかかる朧だと伝えられている。
毎日の様に流れる星は、大地を潤す慈悲が降り注いでいると言われてた。
「導師様の願いは、きっと御使い様に届くさ。」
イフィルが、ミアの背中を、軽く叩いた。




