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帝国の商会

関所を抜けたミアは、思わず声をあげた。


「こんな近くに街があるなんて!」


帝国領側は、王国側とは一変していた。

国境関所の王国側が、駐屯地と森だったのに対し、帝国側は駐屯地と並ぶ様に、大きめの街があった。



街の部分は石畳で舗装されており、近くの通りには沢山の商店が並ぶ。

店の周りには沢山の人々が、商品を物色し、人集りや行列が出来ている所も少なくない。

通りは、常に馬車が行き交い、要所要所に停車場もある。

荷物を積んだ台車がちょこまかと動き回る。


イフィル達の馬車は、幾つかの通りを過ぎて、小さい通りの倉庫へと向かう。

彼は、棚から書類を出すと、出てきた倉庫番に馬車の上から書類の裏面を見せた。


「あぁ、そう言う事ね。」


ミアが納得していたが、出された書類は発注書で、裏面に商会のマークが大きく刻印されていた。

同じマークが、倉庫の入り口にも掲げられている。

倉庫番が、書類の刻印を見て、倉庫の入り口を開け始めた。


通りに馬車を止めて、御者台を降り、書類を見せてから倉庫の入り口を開け、御者台に戻って馬車を倉庫に入れるのでは、時間も手間もかかる。

通りで荷物の確認をするなど、近所迷惑以外の何物でもない。


馬車は、一時停止位で、通りから姿を消す。


「いつもの行商人と違うんだね?」


倉庫に馬車が入ったあと、倉庫番が扉を閉めながら話して来た。


「いつもの方が、体調を崩した様で、代理を頼まれました。少し遅れてすみません。」


イフィルが御者台から降りながら返答をする。


「奴は大丈夫なのかい?もう歳だからねぇ」


倉庫番は心配しながら倉庫内の鐘を鳴らす。

基本的に、商品の搬入出は、屋根のある倉庫で行う。

馬車から降ろす時に、雨風の影響を受けない為だ。

濡れて痛む商品も有る。


鐘の音で出てきたのは中年の女性。


「おや、いつもの爺さんじゃないんだね?死んじゃったのかい?」

「いや、軽い病気らしいですよ。」


なかなか口の悪い女性だ。

イフィルは女性に発注書を渡しながら、答えた。


ミアは馬車の荷台を開けて、農産物の詰まった木箱を引摺り出す。持ち上げるなど無理だ。

馬車の扉まで引き摺られた木箱を、倉庫番の男が、次々と用意された台車に乗せてゆく。


「これと、これは、入手出来ませんでした。ジャガイモは予定より多く準備できました。後は、ほぼ発注書通りです。」


女性が、下ろされる商品の種類と量を見ながら、発注書にチェックと数字を書き込んでいく。


「カブは、どこも品薄なんだね。ジャガイモが多いのは助かるよ。じゃあ、奥で。」


女性はイフィルを誘って、倉庫の事務室へと向かう。

単価は、価格帯が発注書で決められているので、精算をするのだろう。


倉庫番は、台車に乗せられた木箱を側面の棚に積み上げてゆく。

ミアは、代わりに出された、空の木箱を馬車に積んでゆく。

取引用の木箱は、規格が決められていて、共有し、使い回す事で、設備投資を切り詰めている。


「導師様に、なんて仕事をさせるのよねぇ?」


作業を終えたミアは、馬車の荷台で陣取るゼルータに小声で話しながら、水瓶でタオルを湿らせ、汗を拭った。

打ち合わせと作業の説明は、ちゃんとしておいた。

年齢的に、役柄の逆転は無理だし、取引能力的にボロがでる。

仕方ないと解っていても、愚痴は出るのだ。


「お嬢ちゃんも行商人を目指すのかい?」


積み上げ作業を終えた倉庫番の男性が、声をかける。


「いいえ、私は街娘なんですが、今回は小遣い稼ぎでお手伝いを。」

「通りで、華奢な体つきだ。まぁ、無理せず稼ぎな!」

「ありがとうございます。」


体力面、応対の不慣れ、知識不足を補う『設定』だ。

倉庫番は、冷たい果実水を差し出してくれたので、馬車の荷台から降りて、ありがたく頂く。

この様な『設定』が無ければ、女の子を行商に同行させるのも、力仕事をさせるのも、稀だ。


帰ってきたイフィルは、荷台の扉を確認し、倉庫番に合図して御者台に登る。

倉庫番は、入ってきたのと反対側にある扉を開けて、外を覗き込み、馬車に合図する。

小さな倉庫では、馬車が方向転換出来ないので、反対側に出口が作られている。


「「また、宜しく!」」


双方が挨拶をする。

出口側の扉近くには、商会のマークは無く、どの商会の倉庫か判らない。

こうして、一方通行にしないと、倉庫番が二名必要になるのだ。


「これから、どうするのですか?」

「停車場で一休みしながら、軽食をとって、帝都へ『お貴族様から特注の儀式刀の発注依頼で大商会に』向かいます。」


勿論、嘘の建前で、野良行商人に、その様な仕事は回って来ない。

貴族は御抱え商人に依頼する物だ。御抱え商人からも、安い野良行商人に仕事は来ない。

御抱え商人と仲の悪い業者との取引に野良行商人が密かに使われる事も、無くはないが。


「では、レストランで地元の名物料理を食べましょう!」


ミアの提案に、イフィルは首を横に振る。


「駄目です。帝国の食事は割高ですし、それでなくとも、ここは観光地価格並みなのですから。」


確かに、この価格差が有るから、農産物が帝国に売れるのだし、王国側でも関所付近は割高だった。

コストパフォーマンスを考えれば、ここは観光地ではないし、国の名物料理を割高な所で食べる意味もない。


「もう少し進んだら、地元料理を味わいましょう。」


停車場に着くと、馬車の横で火をお越し、いつもの料理を作り始める。

見れば、周りからも煙と料理の臭いが漂う。

なかなか独特な香りもする。


「この香りは?」

「あぁ、別の国の特産品で『香辛料』ですね。帝都まで行けば、食べられますし、手に入ります。武器の注文より、香辛料の方が商売的には良いかも知れません。」


地図を見せてもらったが、香辛料の国は、王国とは反対側なので、帝都より向こう側に行かないと入手出来ない。

王国からの行商人は、大抵が、この関所近くで取引をして引き返すので、香辛料の入手は少ない。

しかし、需要が無い訳ではない。むしろ貴重品扱いされ、高価である為に、御抱え商人か、家持ち行商人ぐらいしか扱えないらしい。

町中の食堂でも、使い始めた店が出てきたので、手間賃を安くすれば、野良行商人でも仕事になる。


「香辛料が有れば、この料理も、もっと美味しくなるでしょうから。」

「うん!香辛料にしましょう。」


甘味と旨味は、女性を虜にするらしい。ミアが賛成した。


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