ガードが緩そうな女
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前半・購買員のお姉さんのおはなし
後半・涼也のおはなし
「はぁ〜。」
「溜め息つきたい気持ちも分かるけど、もうすぐお昼休憩だから頑張りな!」
佐藤舞乃、24歳、独身。
国立常安病院の購買員として働き始めて約2年。
病院内の施設なので給料はそこそこ良いのだが、出会いが全くと言って良いほどない。
常安病院は、国立ということもあり男性の受け入れ数も多いし専用フロアも完備なので評判は良いのだが。
(男性と少しでも接点持つためにこの病院に就職したのに…!!)
病院の患者さんと、なんて妄想もしてみたけど現実では起こるはずがない。
男性が病室から出ることが少ない。
……というか、2年間見たことがない。
「はぁ〜…。良い男いないかな。」
「良い男ねぇ。いないでしょうね。いたとしても真面目すぎて舞ちゃんは選ばれない気がするけど?」
「はっきり言い過ぎ!まあ、愛想悪いのはわかってるけどさ。じゃあどういう女が選ばれるのよ?」
「ニコニコしてて、ガードが緩そうな女のほうがモテるに決まってるじゃない。」
「う、確かに。」
はっきりとした物言いで弱点を突いてくるのは看護婦の彩華さん。
年が近いこともあって就職してすぐに仲良くなった。
「じゃあ、そろそろ仕事に戻るわね。もうちょっとだから頑張りなさいよ〜!」
「うん!彩ちゃんもね!………はぁ。」
溜め息しか出ない。
男性と接点持つどころか、生まれてから一度も男性と喋ったことがない。
長女で、よくしっかり者と言われる。
別にしっかりしたくてしてるんじゃないのよ?
四年制大学を出て真面目に生きてきたのはいいけれど、このまま男性と触れ合えることも喋ることすらも出来ずに適齢期を逃す予感がする。
………悲しくなってきた。
「お願いします。」
「ありがとうございます。こちら一点で126円になりま…………。」
いつも通りの接客をしながらふ、と顔を上げてお客さんを見て卒倒しそうになった。
………男!
しかもイケメンで美少年……!
改めて考えてみると女性よりも全然低い声だった!
思考の波に囚われてて、気がつかなかった!
驚きのあまり動けずにいると、男性の手が私のおでこに触れ、顔が近い距離にあった。
熱?熱なんてないよ?
もしかして、死期が近づいているのか?
…もしかして、この男性は本当の天使か?
ああ、でもこのまま死んでも悔いはないな。
男性に触れられるなんてご褒美を貰ったのだから。
死を覚悟してその時を待ったのだが、おでこに当てられていた手が頬に少しだけ触れて離れた。
「っ!!!!」
あぶねぇ!!逝くんじゃなくてイくところだった。
下半身どころか全身が熱い。
その後、微笑みとともに「頑張って」のエールを送られた私は購買の過去最高売上を更新したのだった。
―――――――――――――――――――
「ふんふふふふん〜♪」
呑気な鼻歌が聞こえる。
もちろん歌っているのは俺だ。
なんたって気分が凄く良い!
あの照れた表情、震えた声!
え?性犯罪者予備軍?違うよ?
ただ、恥ずかしがってる女の子が好きなだけ。
……なんかこう、グッとくるものがある。
それにさっきの購買員のお姉さんみたいな年上の真面目そうな女性をドロドロに甘やかして可愛がるのがたまらなく好き。
と、この話は置いておいて。
鼻歌を歌っているせいなのか、すれ違う人達はうっとりした表情で見つめてくるし、転びそうになったおばあちゃんを支えたら杖を放り投げて走り去っていったのには驚いた。
にしても、この病院広すぎる。
一向に談話室に辿り着けない。
………もしかして迷子になった?
いや、"談話室はこちら"の矢印看板を見て歩いてきたんだからそんなことはないと信じたい。
ただ、そろそろ休まないとまずい。
まだ怪我が治っていないし、だんだん痛みが大きくなっているような気がする。
「……どうしよう。」
来た道を引き返して病室に戻るのも考えたが、戻るよりも談話室の方が距離的に近い気がした。
……気がしただけなのだが。
予想通り、談話室の方が近かった。
といってもだいぶ長い距離を歩いたけれど。
非常にまずい。
怪我が痛い。痛すぎる。
治っていないのに無理をしすぎた。
ふらつく足取りで談話室と書かれたドアを開けた。
……そこで俺の意識はブラックアウトした。
次回、涼也死す!
嘘です、退院します!