演技派クズ男
説明回の為長くなりました。
ギャグ要素が入ってきます。
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「記憶喪失、ですね……。」
「………記憶が?そんなっ!涼ちゃんが?」
意識が戻った後、色々な検査を受けて疲れ切った俺はベッドで横になりながら、ソファで話し合っている担当医の先生と、俺の母親だと言う女性の姿をぼーっと眺めながら考える。
俺はどうやら記憶喪失になったらしい。
いや、記憶はちゃんとある。
18年間生きてきた記憶がちゃんとある。
楽しかったことも苦しかったことも覚えている。
家族のことも友人のことも。
……もちろん、刺されて死んでしまったことも。
でも俺は生きていた。
正確には分からないが、俺は"萩原涼也"という男になってしまったことだけは確かなようだった。
萩原涼也は長いから涼ちゃんと呼ぶことにしよう。
……涼ちゃんは事故に遭ったらしい。
中学の卒業式に向かう通学途中で、横断歩道を渡っていた子供を庇い突っ込んできた車に轢かれたようだった。
そして俺は不審者に刺されて死んでしまった…はずだったのに、何故か涼ちゃんとして一命を取り留めた。
どういうことか見当もつかない。
魂とかそういう話なのだろうか?
答えの見つからない、不可解すぎることを考えていたせいで頭が痛くなってきた。
女性2人の話し合いは続いている。
痛みで思うように体が動かせず、俺は考えるのをやめて話を聞く。
「記憶はっ!記憶は戻るのでしょうか……?」
「……絶対に戻るとは断言できません。」
「そんなっ…!!」
「ですが、息子さんの記憶が戻りそうな場所や物などを見せることで戻る可能性はあります。」
母親だという女性が泣いているのが見える。
辛そうに、苦しそうに泣いている。
気持ちを押さえるように、堪えながら。
……何故か酷く心が締め付けられた。
この体が"涼ちゃん"の体で、彼女が"涼ちゃん"の母親だからなのだろうか。
俺は居ても立ってもいられなくなった。
体に走る激痛など構いもせずにベッドから起き上がり、ソファに座っている女性に近づく。
困ったような悲しそうな顔をしながら優しく抱き締めて耳元で囁いた。
「……母さん、泣かないで。……………お願い。」
俺は大丈夫だから、と。
泣きたい時には思いっきり泣いていいよ、と。
そんな想いを込めて背中を優しくさする。
……自分の胸で思い切り泣いてくれるかは、その人と自分がどれほど深い関係性なのかによる。
と本に書いてあった。
「っ!涼ちゃっ!…うわぁぁああああん!!」
母さんは最初、突然抱きしめられてどうしていいのか戸惑っていたが最後は子供のように泣きじゃくった。
……成功してよかった。
困った顔や悲しそうな顔はもちろん演技だ。
自他共に認める優しい男だからな。
暫くの間思い切り泣いた母さんの顔は少し赤くなっていたが、どこかスッキリした様子だった。
「あの……涼ちゃん?そろそろ離して欲しいな〜なんて。それに傷、まだ痛いんでしょう?」
「…………もうちょっとだけ。」
何か声が聞こえるけれど、離すつもりはない。
母さんの頭をゆっくり撫でながら、優しく甘い声で答えた。
ここで離して何が男だ。
…俺の体に当たる二つの柔らかな膨らみをもっと堪能しない限り絶対に離すつもりはない。
(……D、いやEカップくらいあるか?)
なんて事を考えていたら、突然。
「……涼ちゃん、お願い。離してくれないと、お母さん……も、う。」
「もう?」
「ん、ん……っ」
耳元で甘い声が聞こえ、驚いて体を離す。
「え?えっと?…………母さんどうしたの?」
「……りょう…ちゃ…ん。」
いきなりの様子の変化に混乱し、女医の先生に助けを求めたが顔を背けられてしまった。
(どうすれば良いんだこの状況!!??!!!?)
結局、母さんは本日2度目の気絶をした。
そのあと、俺は先生に今後のことを聞いた。
起きた母さんは明日早朝から仕事があったため家に帰って行った。
離れたくないと泣いていたが。
先生の話によると退院は怪我が治り次第になり、早くても1ヶ月はかかること。
高校の入学式には間に合うか分からないこと。
これからの入院生活や、リハビリのこと。
―そして、この世界のこと。
ここは、地球だが俺のいた地球とは違うパラレルワールドのような所だった。
世界的に男性の数が少ない。
この国の男女比率は約1:20。
どうやら人類が存続の危機に瀕しているヤバイ状況らしい。
原因はまだ解明されておらず、徐々に男児の出生率が下がり始めてきてしまい、その分女児の出生率が上がって比率の偏った世界になってしまっているらしい。
…日本で例えるのならば、現在約1億7000万人が暮らしているがそのうち850万人しか男性がいない、ということだ。
そして、国から補助金が出ているおかげで男性は学校に通う必要も就職をする必要もなく、一生遊んで暮らせるような環境が整えられている。
……入院に関しても、お金は一切要らないらしい。
その代わりこの世界のほとんどの国の成人男性は種族存続のため、精子提供が義務付けられている。
男性が健やかにのびのびと生き、精子提供を続けられるように国から毎月多額の補助金が支給される制度があるみたいだった。
また男性は家で専業主夫をするのが当たり前の社会で、働く男性はごく一部の人間しかいない。
主に働くのは女性らしい。
TVで国会中継を見ていたら、ナイスバディの素敵なマダムが厳しい答弁をしていて驚いた。
しかもそのマダムは総理大臣だった。
ニュース番組やバラエティ番組には女性芸能人しか写らず、街の中継映像にも女性しかいない。
なぜ男性がいないのか疑問に思い聞いてみたところ、男性は家に引きこもるのが一般的らしい。
まだまだ聞きたいことは沢山あるが、消灯時間になってしまった。これについては仕方がない。
部屋の明かりが消えて、電子音のみが響いている。
布団を頭までかぶり、今日のことを振り返る。
とてつもなく濃い1日だった。
刺されて、死んだ。
だが、何故か生きていた。
……この世界は色々とおかしい。
でも、生きたい。
死にたくない。
……死ぬ恐怖をもう二度と味わいたくない。
決めた。
このおかしな世界を満喫しよう。
ちゃんと親孝行もしよう。
"涼ちゃん"の体を使わせて貰います。
俺は俺なりに幸せに生きます。
…あわよくば可愛くてちょっと恥ずかしがり屋な女の子を遊びまくりたいです。
気が付けば涼也は、夢の世界を漂っていた。
次話からギャグ全開フルスロットルで飛ばします。