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非日常の始まり

本日2話目です。

聖歴218年 春の1月15日 ウェンリード国 王城



どこか薄暗い大部屋の中に、複数の人間が集められている。

それら全ての者が黒いローブを身に纏い、地面に書かれた魔法陣に向かって両手をかざしていた。


部屋の壁際には燭台が幾つも並べられ、その全ての蝋燭には火が灯っておりゆらゆらとした影を作りだしていた。

明らかに光量が足りていないのだが、それでも黒いローブを着た者達の表情は目に取れる。


額には汗を垂らし、苦悶の表情を浮かべる黒ローブ達。

傍目に見ても、限界ギリギリの魔力を魔法陣に込めているのが分かってしまう。


そんな中、一人の女性が涼し気な顔を浮かべていた。


彼女は黒ローブの一員で、同じ様に両手を魔法陣へとかざしている。

手を抜いているのか?と問われれば、それは違う!と激怒するであろう。


…他の黒ローブ達が。


彼女はこの黒ローブ…ウェンリード国の宮廷魔導師達の長、筆頭魔導師なのだ。

スレンダーな体付きには評価が分かれる所で有るが、絶世のがつくほどの美女である。

どこか眠たそうな目つきで、魔法陣を見つめる彼女…を見つめる若い魔導師。

壮年の魔導師に咎められる様に睨まれ、若い魔導師は慌てて魔法陣へと視線を落とす。


その後もチラチラと顔を上げては睨まれるを繰り返し、そんな視線に気付かないのかゆっくりと目を閉じていく女性。



「…我、クリスティーナ・フローライトの名において乞い願う」



筆頭魔導師…クリスティーナ・フローライトが静かに詠唱を始める。



「…闇を祓う光を、絶望の中に生まれる希望を」



魔法陣の外側が薄っすらと光り始めた。



「…苦難を切り裂く猛き者よ!悲哀を癒やす優しき者よ!」



ついには魔法陣全体が光り始め、そこから部屋全体を照らす程の光量が溢れ出した。



「我らを導く勇ましき者よ!来たれ!〈勇者召喚〉!」



目が眩む程の光が魔法陣から溢れ、魔導師達は全員腕で視界を庇う。

それもやがて収まり、また薄暗くなった部屋の中でクリスティーナはゆっくりと目を開いた。


そこに居たのは…



ーーー



「ここは…」



不意に光に包まれた事により、腕で庇う様に目を閉じた玲音。

その姿は先程の魔導師達と似たような格好であったが、事前に把握していたかどうかで反応は大きく変わる。

つまり、玲音の方がより必死に…やや身を屈めるようにして両腕で顔を隠していた。


腕をおろし、辺りを伺う様に顔を動かした時に出たのが先程の言葉。

蝋燭のみで薄暗い部屋で、黒いローブを着た人間が周囲にぐるり。


驚くよりも先に、恐怖が出て来るのが普通の反応である。

これから自分の身に、何が起きてしまうのか?そう考えて顔を青褪めさせるのが普通だ。



「あれ?ひょっとして召喚されちゃった?」



と、このような感想が出てくるのはあり得ない。



「いや、異世界召喚の妄想は結構するけど…実際されるとビックリするね」



と、キョロキョロ辺りを見回すのもあり得ない。



「〜〜〜〜〜」

「あ、始めまして戸田玲音と言います」



と、言葉が通じない相手ににこやかに自己紹介するのは絶対にあり得ない。



「これどっち系の召喚ですか?善王系?悪王系?」



と、直接聞き始めるのは頭がおかしい。



「〜〜〜」

「悪王系の当たりスキルってのが、最近の妄想パターンなんですよー。『貴様の能力チカラを余が活用してやろう』とか言って隷属されかけて、それを助けに来た女の人がヒロインになって二人で力を合わせて…って聞いてます?」



助けに来る『ヒロイン』は、大概カスミである。



いや、違う…話がそれた。

玲音の悪癖が暴走した結果、話しかけて来た魔導師の男が苦笑いを浮かべて少し体を引いている。


なお、ここまでの会話は双方ともに通じていない。

にもかかわらず、ペラペラと喋りかけていた玲音はやはり頭がおかしいのかもしれない。

勢いに負けて、魔導師の男はそのまま後ろへと下がって行った。



「〜〜〜〜〈翻訳〉」

「…え?」



代わりに、前へと出てきた美女…クリスティーナが玲音に手をかざすと、玲音の身体が淡い光に包まれた。



「始めまして、勇者様。私はウェンリード国宮廷魔導師筆頭、クリスティーナ・フローライトと申します」



以後お見知りおきを、と手が差し伸べられた。



「は、始めまして。戸田玲音…いや、レオン・トダです」



思わず見惚れてしまいそうになる気持ちを必死に抑え、差し出された手を握る。



「レオン・トゥーダ様ですね、早速で申し訳ありませんが謁見の間へとお越し頂けますか?」



自己紹介と握手を終えて、クリスティーナが扉の方を手で示しゆっくりと歩き先導する。



「いや、トゥーダじゃなくてトダ…え?トダって発音難しい系?」



有りがちな名前だと思うんだけど、と玲音…レオンは日本語に慣れているからそう思ってしまう。


しかし日本語と言うのは、一文字にかなりの情報が詰め込まれた言語だ。

暴論になるが、戸田の二文字を英語に変換すると『DOOR・RICEFIELD』になる。

戸と田に関連性が一切見えてこない、それをくっつけているのだから苗字というのは不思議なものである。


こちらの世界で言えば、薬鍛冶ドラッグスミスとでも名乗られた気持ちになるのだろう。

なので意味は考えずに音だけで判断するしかない、そのせいで耳馴染みの無いトダよりもトゥーダとして認識されるのも仕方の無い事なのだ。


と、レオンが妄想して一人納得していると。



「申し訳ありません、トダ様。…ちょっと噛んじゃいました」

「噛んだだけかーい」



今までずっと半目で無表情だったクリスティーナが、少し恥ずかしそうに頬を赤くしているのを見て…レオンは軽くツッコむだけに留めておいた。



ーーー



「おお!よくぞ、よくぞ参ってくれた。この時をどれほど待ちわびていた事か、ささ勇者様こちら来て下され!」



謁見の間に入ると、数段高い所に据えられた玉座に座っていた男性が立ち上がり…降りてきた。



(なるほど、フェイントか…やるな)



来いと言っといて自分から来る王を見て、何やら納得した表情を見せるレオン。

別に王の方に深い意味はなく、ただ感極まってしまっただけだろうが…。


何故かレオンの中で、王の評価が一段上がった。



「勇者様よ、此度呼び出した理由は他でも無い。実は…ん?おお、すまんな。じゃあ、ちょいと失礼するよ…実は、この世界は魔王の瘴気によって闇に閉ざされておる」



王の方から近寄って来たもので、王は立ったまま話しだした。

立ち話もなんですから…とレオンが軽く、王を玉座の方へ誘導すると座ってから話を再開した。



(ふむ、フレンドリーで且つ権力を誇示しない。いい意味で威厳が無い王だ)



軽くでは有るが背中を押したにも関わらず、何も言わないどころか軽く謝罪までする。

レオンの中で王の評価は鰻上りだ。


…ただ感極まってるだけなのだが。



「それで、その魔王と言うのが『異世界』からやってきた者でかなり特殊な能力を持っておる。ただの魔物であるならば、兵や冒険者達の力を合わせれば何とかなると言うのに…」

「…つまり異世界から来た者は特殊な能力に目覚め、それを悪用して魔王を名乗ってる者が居る。そう言う事ですね?」



まるで名推理をした探偵かのように、顎に手を当て目つきを鋭くするレオン。

ぶっちゃけ、ただ聞いた事を復唱しただけだ。



「そして、それに対抗する為の戦力を同じ『異世界』から召喚した…と」

「おお!分かるか、勇者様よ!」



鋭くさせた目を閉じ、ウムウムと頷くレオン。

ここまでの説明と状況を考えれば誰でも分かる推理に、王は大袈裟に驚きレオンは得意げな表情を浮かべる。


ノリの良い二人である。



「分かりました、戸田…いや、レオン・トダ。この能力チカラを存分に奮って、この世界の為に魔王を排除いたしましょう!」



どの能力チカラ

と、聞きたそうにしているのはこの謁見の間まで先導してくれたクリスティーナのみである。

王や謁見の間に控えていた兵士達は、目に涙を浮かべ万雷の拍手をレオンに送っていた。


ノリの良い奴らである。

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