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婚約者は記憶の中で  作者: くうふく
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序章



 どうして。


 目の前の光景に視界が歪む。

 愛する婚約者とクリーム色の髪を持つ少女。学園の持つ美しい薔薇の庭園で、二人は仲良くベンチに腰掛け話している。こちらからは何も聞き取れないが、二人の間に流れる空気はどう見ても恋人同士のもの。二人はぴったりと寄り添うように座っている。


 本来であれば私の場所なのに。

 辛くて、悔しくて、じわりと口の中に血の味が広がる。握り締めたてのひらがじくじくと痛い。整えられた筈の爪によって、等間隔にてのひらに傷跡をつける。

 婚約者であるはずの彼は、幼い頃は氷のようだと言われるその表情を解かし優しい微笑みを向けてくれていたのに、今は他の方と同じ様に一切微笑んではくれないのだ。優しい言葉もない。会えば義務のように挨拶をしてくれるが、その瞳は私を決して映してはいない。

 けれど、彼女の隣にいるときは穏やかな優しい表情になり、彼女に向ける表情は春が来たように華やぐのだ。


 どうして。なにがいけなかったの。私は貴方の隣に立てるよう自国や国政、歴史について勉強した。貴方に相応しい人格者であろうとどんな方とも仲良くなれるよう努力した。ダンスも初心者にだって教え込めるくらいものにしたし、魔術も少しだけど扱える。見目だって、社交界で話題になる程気を使ってきた。これ以上何を望むの。


 私を見てと叫びたい。私を求めてと喚きたい。それなのに行おうとすると頭が酷く冷静に私の行動を押さえつける。

 私がいくら彼らを引き裂こうとしても、きっと意味を成さない。私がいくら彼の前に立ち塞がろうとしても、きっと婚約者の瞳はクリーム色の少女しか映さない。


 それでも彼らの仲を引き裂きたいと思ってしまった。だから、彼女に忠告した。貴族の振る舞いとして相応しくないからという免罪符を盾にして。婚約者のいる人に不必要に近付いてはいけないと、不用意に触れてはいけないと、無意味に二人きりになってはいけないと。

 しかしそれは彼女には届いていないらしく、彼女は当然のように彼の隣で微笑む。


 辛い、悔しい、頭がぐらぐらとする。いっそ彼らの間に割って入り、二人に対して怒鳴ってしまいたかった。しかし他ならぬ私自身が私の醜態を拒む。恋に溺れてなんて理由で人に弱みを見せるわけにはいかない。彼の隣に立つ人間が色恋で心を動かされてはいけない。

 将来の自分が現在の自分の首を絞めていて、今の私は雁字搦めで動けない。


 これ以上彼らの姿を見たくなくて、気付かれないよう立ち去る。


「……助けて」


 私の悲鳴は、誰にも届かない。



******



 引きずるようにして寮に戻り、自室に戻り、出発の準備を終えた鞄から一冊の本を取り出す。目印にと折り曲げておいたページに目を通し、術を頭に叩き込む。


 大丈夫、こんなもの、歴史書と比べたら絵本を覚えるようなもの。


 何度も何度も読み、覚え終えるとその本に手をかざし呪文を呟く。本が淡く光り、“元の姿”に戻る。何の変哲も無い、恋物語の一冊に。私が初めて手にした時のように。あとはローザに頼んで図書館に返して貰えばいい。



 はぁ、と息を吐く。今から私は何をする?自分に問いかける。問いかけて、頷く。

 私の気持ちは変わらない。



 ————こんなにも辛いのならば、いっそ忘れてしまえばいい。




 私はそっと目を瞑った。




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