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聖女さまは戦闘職をご希望です。  作者: 飛狼
第一章 聖女覚醒
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◇聖女様、お目覚めの時間ですよ? (8)

 『巨人の腰掛け』と呼ばれる大樹の残骸の前には金属製の台座が据えられ、その上にはどこで手に入れたのか、ひと抱えはありそうな大きな魔結晶が載っていた。しかも台座や魔結晶には沢山のケーブルが接続され、傍らに置かれている数多くの計器類などの機材へ、更には後ろの大樹の残骸へと繋がっていたのである。それ以外にも魔導アンテナや、何の用途に使うのか判断がつきかねる機材が所狭しと並び、そこに繋がるケーブルも蛸の足さながらにあちらこちらへと伸びていた。

 そこに設置された魔導器機類は、帝立とはいえ一介の教授個人が揃えるにはあまりにも数が多い。それに設置した機材の間を慌ただしく行き交い操作する者も白衣を着た男女が四人、灰色の作業服を着た男たちが二十人以上はいるのである。実験の規模としても大きすぎるのだ。まるで、国家規模の大プロジェクトかと思えるほどだった。

 集まっている生徒たちはそれらを眺め、「おぉ!」とどよめき感嘆の声を上げる。特に親が魔導研究関連の職業に就いている生徒からは、その苦労を知っているだけに「一体どれほどの資金が」と、目を見張る思いだったのである。


 生徒たちが見守る中で実験の準備が整い、白衣に身を包んだ三人の男性と一人の女性が台座の前に並ぶ。と、中にいた男性のひとりが一歩前へと出た。その初老の男性こそが、今回の特別野外授業を開講したロバート・マレー教授その人だった。

 白髪混じりの頭髪はろくに手入れもされず、絡みあったまま肩まで伸ばされた蓬髪。眉間には深く皺が刻まれ、掛けられた眼鏡の奥からぎょろりと目を剥いて生徒たちを睨む。そこには強烈なまでの意志の強さを感じられたが、この風貌である。良く言えば研究一筋。だが、どこからどう見ても、その風貌は狂魔導科学者マッドマジックサイエンティストそのものにしか見えない。

 本来の魔法歴史学とは、これまで世界中で勃興と滅亡を繰り返してきた魔法文明の魔法そのものに焦点をあて、現在に至るまでの変化と流れを記録し後世へと伝え、尚且つこれからさらに発展するであろう魔法工学に役立てようとする学問。要するに、今まで歴史の狭間に埋もれた魔法理論に再び脚光を当てようというのだ。しかし、そうそう上手い話がある訳もなく、捨てられた理論には捨てられるだけの訳がある。だから今は、記録を残す事に主眼をおいた、どちらかといえば文系よりの学問なってしまっていた。学園に入学してくる生徒は、実技系である魔法学や開発系の魔導工学を学びにきた者が殆ど。だから魔法歴史学は、それほど人気のある学問ではない。はっきりいえば、社会に出てからは何の役にも立たず、ただ進級のための点数稼ぎとしか、生徒たちは思っていないのである。

 だが、そんな魔法歴史学において、マレー教授は異端児であった。異常なまでに古代文明、その中でも特に古代における魔法に拘ったのである。今では魔法科学の学界からは変わり者とつま弾きにされ、その横柄な態度から嫌われる存在でもあった。


 その狂魔導科学者マッドマジックサイエンティストことマレー教授が傲岸不遜に胸を張り、集まった生徒たちを眺め回す。

 生徒たちは現れたマレー教授の迫力に圧倒され、息をするのも忘れたかのように静まり返った。


「生徒諸君、我が呼びかけに集まって頂き、まずは謝意を」


 謝意をと言いつつも、頭を下げる訳でもなく僅かに顎を引くだけで、逆に苦虫を噛み潰したかのように顔をしかめる。


「未だこれほどの生徒が、魔法歴史学の道を志そうとは驚きだわい」


 と、生徒たちを睨み付け吐き捨てるように言う。はなからそんなことを思ってもいない。ただの皮肉なのだ。

 生徒たちはといえば、思わず視線をそらしていた。ここに集まる生徒は、殆どが一、二年生。マレー教授が受け持って教える事はまずない。そもそも学園の生徒に、直接講義を行うことすら無いのである。全ては、後ろにいる助手兼弟子の三人が生徒への授業を受け持っていた。だから生徒たちも、マレー教授のことを噂でしか知らなかったのだ。今は場違いな場所に来てしまったと、完全に及び腰になっていた。しかし、魔導学園に入学してくるだけあって、中には空気を読めず自己中心的な生徒はいるものだ。それなりの魔力を有して、学園に入学するまでは周りからちやほやされ、多少はうぬぼれ増長もしようというもの。しかもここには百人以上の生徒がいて、気も大きくなる。最初はマレー教授の迫力に負けていたが、逆にそれが生徒たちの反抗心に火をつけた。数人の生徒が手を上げ意見を言い始めると、生徒全員がざわつく。


「マレー先生! 本当に評価Aを全員が――」 


 が、続きの『貰えるんすか』の言葉は宙にかき消えた。

 それは途中で、マレー教授が「ふん」と鼻を鳴らし、ギロリと生徒たちを睨み付けたからである。意見を言っていた生徒は、声にならず口をぱくぱくと動かし、他の手を上げていた生徒は慌ててその手を下ろした。生徒全員が、マレー教授のひと睨みで首を竦めて、また沈黙してしまったのである。


「まぁ良いわ。お前たちの微弱な魔力でも、実験の役には立つからな。そのようなつまらん事は、後で後ろの助手どもにでも聞け」


 まだ一、二年生とはいえ、将来は魔導士或いは魔導工学士になる卵である。それが百人以上もいて、マレー教授に完全にいすくめられていた。



 メリルたち三人とアレクは、そんな生徒たちの一番後方に並んでいた。


 ――くっ、これは?


 メリルもまた、小刻みに全身が震え体を満足に動かすことが出来ないでいた。

 が、しかし――


「ほうほう~、マレー先生ってこういう人でしたか~。これはまた強烈なキャラですね~」


 と、横から語尾が間延びした、いつものサリーの声が聞こえてくる。メリルは顔を横に向けることさえ出来ないのにだ。視線だけを動かし左を眺めると、サリーは「ほうほう~」と口を尖らせいまにも鼻歌でも奏でそうな様子なのである。

 すると、今度は右からも、


「問題はあのマレー教授が、どこまで関わっているかだ」


 と、アレクの声が聞こえてくる。

 右に視線を向けると、アレクが気難しい表情で腕組みしていた。

 その上、すぐ横で手を繋いでいるアンジェラも、いつもと変わらずぼぉと佇んでいる。


 ――えぇ! 私だけぇ!


「あれ~、もしかしてメリルちゃんは動けないの~」

「……」

「あはは~、マレー先生が放った魔力波動に抵抗できなかったんだ~」


 笑いながらサリーが右手の人差し指をメリルに見せた。そこには小さな赤い石がはめ込まれた銀色の指輪が付けられていた。


すみません。

変なとこで切れてます。

限界ヤバいもう寝ます。

それにしても、聖女さまはいつになったら目覚めるのやら……。

作者が一番『聖女様、お目覚めの時間ですよ?』と叫びたい!


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