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聖女さまは戦闘職をご希望です。  作者: 飛狼
第一章 聖女覚醒
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◇聖女様、お目覚めの時間ですよ? (7)

 にこやかな笑顔を浮かべていたアレクだったが、ちらりとメリルの後ろにいたアンジェラへと視線を向けた。


「おぉ、そこにおられるのが噂のモンテグロ家のご令嬢、アンジェラ姫ですか。ふむ、噂に違わぬ美しさですね」


 そう言うと、するりと流れるような動作で近寄ると、素早くアンジェラの手を取った。そして、メリルが止める間もなく、腰を屈めその甲にそっと唇を重ねたのである。


「ア、アレク様! こ、困ります!」


 貴族式の正式な礼ではあるが、アンジェラ自身は自らその意志を示せない身。さすがにメリルも看過できずに、焦ってアンジェラとアレクの間に体を割り込ませる。その後、庇うように背後へとアンジェラを隠した。

 だが、アレクの突然の行動には焦ったものの、メリルがもっとも驚いたのは、その速さにあった。歳相応にメリルにもドジな所は有るが、アンジェラの護衛を兼ねるため、それ相応の戦闘訓練を積んでいた。それは、モンテグロ家に雇われるただ一人の騎士であるハンクに、どこに出しても恥ずかしくないと太鼓判を押されるほど。それなのに、アレクに対してはなんの反応も示せなかったのだ。だから眉を寄せ警戒感を一段階引き上げて、アレクを睨んでしまう。

 そんなメリルの様子にも、アレクは気にも止めず「ふふん」と鼻で笑うのである。


「さて、マレー教授も、今回は困った催しをしたものだ。学園外での授業なので、他の教授の方々も困惑していたよ――」


 突然に話を切り替えるアレク。その瞳はもはやメリルたちに向けず、噴水の向こう側へと向けられ、ひとりごとのように呟いていた。

 思わず「?」と困惑し、メリルとサリーの二人は顔を見合わせた。そして、釣られるようにして二人も噴水の向こう側へと視線を向けた。


 噴水の向こう側、少し離れた場所には樹木の残骸のような物が見える。その前では今ちょうど、大型のゴーレム車が乗り入れ、数人の助手らしき人たちが何やら準備を始めていた。


「あぁ〜やっぱり〜。あのゴーレム車は、実験用の機材を積んでたのよ〜!」

「……あそこが、『巨人の腰掛け』……ん?」


 メリルはいつもアンジェラの世話をしていたため、帝都内を出歩く事もなかった。だから噂に聞く、『巨人の腰掛け』も初めて見たのである。だからサリーのように、さっきぶつかりかけた大型ゴーレム車を目敏く見つけるよりも、後ろの樹木の残骸の方に気を取られたのである。離れているのでよく分からなかったが、確かにあれが一本の樹木の根元の痕跡であるなら、相当な大きさになるであろうと、容易に想像できる物だった。その事に驚いていると、手を繋いでいたアンジェラが、一瞬、ギュッと握りしめてきたのだ。

 メリルは吃驚してアンジェラを見つめるも、そこにはいつもの無表情なままぼぉとしているアンジェラがいるだけだった。


 ――今のは、気のせいだった?


 アレクの突然の登場や初めて見る『巨人の腰掛け』に、少し興奮し過ぎたかしらと、メリルはかぶりを振る。

 そして、メリルたち二人が『巨人の腰掛け』の周囲に目を向けている間に、アレクの視線は今度は集まる生徒たちへと向けられていた。


「――見たところ集まっているのは、一、二年生が大半のようだな。さすがに、上級生は不穏なものを感じ取ったか」


 アレクの呟きに、思わず反応するメリルとサリーである。


「不穏~!」

「何か問題でも?」


 メリルにとっては、今回の特別野外授業はアンジェラの評価にもつながるもの。例え、魔法歴史学科だけとはいえ、評価Aが貰えることは大きい。だからこそ、アレクの呟きの中にある「不穏」との言葉は見逃せないものだったのだ。

 そこでようやく、アレクの視線がメリルたちに戻された。


「たとえ何かの実験のためとはいえ、成績に関わらず無条件で高い評価を与えるなど許されないことだ。学園の品位を落とし、そして何よりも生徒自身のためになるとも思えない。だからこそ、僕ら生徒会が様子を見にきたのだよ」


 参加しているメリルたち二人を諭すように言い切るアレクからは、先ほどまでの軽薄さは影を潜め、その表情はきりりと引き締まり純粋な真摯さが浮かび上がっていた。


「おろ~、会長さん、ちょっと恰好良いかも~」

「もう、サリーったら……」


 呆れるメリルだったが、聞こえていたのかアレクは満更でもないようで、直ぐににへらと相好を崩した。やはり、少し残念なイケメン男子である。


「僕は生徒総代として不正は……おっと、動き始めたようだ」


 噴水の周りに集まっていた生徒たちが、『巨人の腰掛け』の前で始めていた準備に気付いたのだ。『巨人の腰掛け』に向かって一人が歩き出すと、それに釣られるように皆がぞろぞろと歩き出していた。


「ふむ、何が飛び出すものやら……」


 そう言うと、アレクも他の生徒たちにならって歩き出す。メリルたちも、慌ててその後を追いかけた。

 と、そこへ新たな純白の制服を着た生徒が、どこからともなく現れた。アレクと同じく金髪ではあるが、その髪は短く刈り込まれ、アレクとは真反対にその面立ちは四角く体格もがっしりとしていた。見た感じは、いかにも武闘派である。近くにいるメリルたちに頭ひとつ下げる余裕もなく、慌しくアレクに近寄ると、何やら耳打ちをしていた。


「……なに、管理事務所が……ちっ、まさか……本気なのか……すぐに連絡を走らせろ!」


 メリルたちに漏れ聞こえてくるのは、少々不穏なもの。

 新たに現れた上級生らしき白服は、慌ててどこかへ走り去って行く。


「君たち、少々まずいことになったようだ。しばらくは、僕のそばから離れない方が良いと思うよ」


 くるりと振り返ったアレクの表情が一変し、今までのどこか余裕のあった物腰がなくなり、焦りと共に怖いぐらい真剣な表情を浮かべていたのだった。

 

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