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聖女さまは戦闘職をご希望です。  作者: 飛狼
第一章 聖女覚醒
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◇聖女様、お目覚めの時間ですよ? (6)

 幾つもの噴水口から飛び出す水流は、リズムを刻みながら交互に水飛沫を辺りに撒き散らす。周囲には、そんな噴水を興味深そうに眺める者や、縁石に腰掛け友人達とお喋りに興じる者など、大勢の学園生徒が集まっていた。噴水広場は、制服の青一色に埋め尽くされていると言っても良いほどだった。


 掲示板の張り紙に示されていた集合場所は、公園中央に位置するその噴水広場。

 メリルとアンジェラの二人にサリーを加えた三人が、そこへ息を切らして走り込んできた。そしてその勢いそのままに、荒い息を弾ませあたりを見渡す。


「ひゃぁ~! ……どう~?」

「まだマレー先生は来てないみたい」

「助かった~!」

「本当に……途中で鐘の音を聞いた時は、遅刻したかと思ったものね」


 ぐるりと噴水の周りを見回しても、まだマレー先生の姿は見えなかった。それに、数人ずつで集まりのんびりと歓談している生徒たちからは、まだ何も始まっていない様子が見て取れて、メリルはそのことにホッとした。


「それにしても、かなり集まってるわね〜」


 サリーが周りをキョロキョロと眺めて、感心したように言う。


「本当ね。軽く百人は越えてそう」


 学園の生徒数は、全学年を合わせても約七百人。その六分の一近くが集まっている事に、メリルは目を丸くする。駅舎のホームでは、指で数えれるほどしか生徒の姿を見掛けなかった。だから、これほどの生徒数が集まっている事に驚きだった。その事をサリーにたずねると、


「だからぁ〜、皆は自家用のゴーレム車で送られたりするんだってば〜。この時間は一日で一番に混んでる時間だからね〜、魔導列車を利用してる生徒は少ないと思うよ〜」

「そうなの?」

「そうそう〜。この時間は工房で働く職人のおじさんたちで、魔導列車は一杯だからね〜。あたしでもおじさんたちの汗臭い匂いに揉まれるのは遠慮したいもの〜。メリルちゃんたちは、よく乗ってきたわね〜」


 サリーが顔を歪めて「うげぇ」と吐く真似をする。そのコミカルな様子にクスリと笑って、「職人のおじさんたちも酷い言われようね」とメリルは返した。そこでもう一度あたりを見渡し、首を傾げる。


「それでも、この人数は多すぎない?」

「それは〜評価Aだからね〜」

「確かに……」


 メリルは呆れたように集まった生徒たちを眺めるものの、自分たちも評価に釣られてここまで足を運んだ事を思い出し、誰もが考えることは一緒かと苦笑いを浮かべた。そして、これだけの数の生徒に、果たして本当に評価Aが貰えるのかと、メリルは不安を覚えるのである。


「でも白服はいないみたいだよ〜」


 額に手のひらを水平にあて、サリーがまたコミカルな様子でキョロキョロと噴水の周りを眺める。

 サリーの言う白服とは、貴族家の生徒たちのことである。学園も建前は、身分性別を問わず、帝国中から将来有望な生徒を集めるとの看板を掲げるが、さすがに高位の貴族家の生徒と一般の民の出である生徒を一緒くたに教えるのは憚れる。だから、そこには明確な線引きが成されているのである。貴族は貴族同士で、民は民同士でとクラスも別けられ、その線引きは生徒たちが身に着ける制服にまで及んでいた。一般の民の出の生徒たちは青、そして貴族家の生徒は純白の制服へと別けられているのであった。もっとも、アンジェラだけは男爵家の事情もあり、それになにより、メリルが側にいなければ一人では何も出来ない。そのため、一般のクラスへと別けられていたのである。


 サリーの指摘に、メリルも改めて眺めてはみるものの、確かに集まっている生徒の中に白色の制服は見当たらない。


「本当ね。確かに、貴族家の生徒は――」

「我々が、このような馬鹿げた騒ぎに参加する訳がなかろう」


 メリルが返事をしてる途中、そこへ被せるようにして突然に声が届いたのだ。


「え、誰?」


 メリルとサリーが声がした方へと顔を向けると、そこにいたのは――長身にスラリとした姿形。鼻筋は通り、顎のラインは女性かと思えるほどほっそりとした整った顔立ち。陽に輝く金髪は、波打つように軽くウェーブがかかり風になびく。どこからどう見ても非の打ち所のない美男子が、そこに佇んでいた。しかし、髪をかきあげる仕草がいかにも気障ったらしく軽薄な雰囲気を漂わせ、それが全てを台無しにしていた。そこにいたのは、少し残念なイケメン男子だった。


「うげ、白服!」

「ちょっ! 失礼よサリー!」


 間延びした語尾を忘れるほで驚くサリーの口を、メリルが慌てて塞いだ。

 そう、その残念イケメン男子は、生徒たちの中に見当たらなかった純白の制服を身に着けていたのである。


「やぁ、君たちは一年生だね」


 サリーの失礼な態度にも気にするでもなく、朗らかに笑う残念イケメン男子。


「僕の名前は、アレクサンドル・アミノ・ゴーゴリ。そうだな、僕のことはアレクとでも呼んでくれ」


 貴族らしくなく気安く話しかけるものの、それがまたアレクの場合は似合わず軽薄さに拍車をかけてしまう。やはり、残念なイケメン男子なのである。

 しかしメリルは、この男子生徒の容姿や態度よりも、ミドルネームを名乗った事に、ぴくりと反応してしまう。というのも、帝国ではミドルネームを名乗れることイコール、領地持ちの貴族家の証でもあるからだ。名前の間に挟むミドルネームとは、その貴族家が治める領地の名称。アレクの場合は、アミノ州を治めるゴーゴリ家のアレクサンドルとなるのである。メリルが引き取られたモンテグロ家は、領地を取り上げられた名ばかりの男爵家。ミドルネームそのものが消失して久しい。幼い頃よりその事を、現モンテグロ男爵から愚痴としてよく聞かされていたメリルは、だからこそミドルネームの方に反応してしまうのである。

 だが、そんなメリルよりも、サリーの方が激しく残念イケメン男子の名乗りに反応していた。

 

「げげっ、生徒会長!」

「いかにも、この僕は生徒総代を任されている」


 そう言って、また気障ったらしく髪をかきあげ、「フフン」と自慢げに鼻で笑うアレクだった。


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