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聖女さまは戦闘職をご希望です。  作者: 飛狼
第一章 聖女覚醒
28/35

◇聖女様、お目覚めの時間ですよ? (27)

「お嬢さまのことは、私が命を賭けてでも――」

「メリル! それはもういいですわ」


 必死の形相で口を開いたメリルを、その言葉の途中で、アンジェラは微笑みと共にばっさりと切り捨てた。途端に「ガーン」と、感嘆符の付きそうな表情で崩れるメリル。

 その横では、サリーが何か言いたそうにアンジェラを見詰めていた。


「何かしら、サリー」

「え〜と、アンジー……ちゃんで良い〜?」

「今さらね」


 ころころと笑って見せるアンジェラに、ホッとした表情を浮かべたサリーが、今度は空を指差した。


「あれは〜、アンジーちゃんが呼び出したの〜?」

「そうですわ。わたくしが編んだ魔法陣で間違いありません」

「おぉ、魔法陣〜?」


 目を輝かせたサリーが、尚も色々と尋ねようとするも、それを察したアンジェラが手をあげて制止した。


「詳しい話は後にしましょう。それよりも、あれは……ゴーレム?」


 アンジェラの視線の先にあるのは、此方へと迫る魔導機兵。

 それは転生前の聖女ラナイア時代には、見たこともない巨人。強いて似たものをあげるなら、それがゴーレムだった。

 しかし、聖国で魔法使いと呼ばれていた者たちが生み出していたゴーレムは、ただの石塊いしくれが人らしき形をしていただけだった。中には鉄鉱石を素材にしたアイアンゴーレム等もいたが、目の前の巨人には遠く及ばない。そこにいたのは、巨人がフルプレートの金属鎧を纏ったような姿。その動きも、アンジェラの知っているゴーレムとは比べるまでもなく滑らかで速い。しかも、魔導列車と同じく脚部下から風を送り出し、浮力を得て滑るように此方に向かって来るのだ。その迫力たるや凄まじく、見た目はまさに鉄巨人なのである。

 帝国では年に一度、国内の士気を高め諸外国に国威発揚を示すため、大通りで軍事パレードを行う。その際には、各種兵装の魔導機兵が勢揃いして行進する。

 男爵家でも、家族総出で見物に出かけたりするのだが、意識下に封じられていた覚醒前のアンジェラは、はっきりとは覚えていない。

 だから初めて見た魔導機兵に目を丸くしていたのだ。


「あれは~、型番までは分からないけど、対地殲滅用の重装魔導機兵『玄武』シリーズだよ〜」

「玄武? ……ですか」


 少々マニアックな知識を披露するサリーに、よく分かっていないアンジェラは、不思議そうに小首を傾げた。

 そんな事を喋ってる間にも、アンジェラたちに迫る魔導機兵『玄武』。それを、三方向からアレクたちが攻撃していた。


「【雷波招来らいはしょうらい】!」

「【紅炎蛇咬プロミネンススネーク】!」

「【土盾乱陣アースシールドディスオーダー】!」


 フレイヤからは雷が、アレクからは蛇を象った炎の塊が魔導機兵へと放たれる。そして、魔導機兵が移動する足下からは、行く手を阻むかのように何枚もの厚みある土壁が隆起した。

 だが、放たれた魔法――雷や炎蛇は全て弾かれ、足下の土壁も簡単に粉砕されていくのだ。

 アレクたちの攻撃など歯牙にも掛けず、魔導機兵は突き進むのである。

 『聖地不殺の魔法陣』は、あくまでもその対称を人に限定された結界魔法。だから、魔導機兵には結界は適用されていない。が、帝国が誇るだけあって、各種魔鋼を組み合わせた合金で作られた本体ボディーは頑強であり、表面を覆う障壁もまた強固なのだ。個人の能力では、どう足掻いても太刀打ち出来ない存在なのである。


「ちっ、僕たちでは牽制にもならないのか」


 舌打ちと共に、アレクの表情が歪む。

 アレクにしても、アンジェラの結界がどこまで施されているのかは分かってはいない。しかし、どちらにせよ魔導機兵には、自分たちの力が及ばない事は分かっていたことなのだ。だから、牽制して幾らかでも勢いを殺ごうとしたのだが、それも叶わず歯痒く思うのであった。

 しかも魔導機兵の両肩部からは、二基の火砲がり上がり周囲に火弾を撒き散らし出したのだ。更にその火弾は速射式の連弾。結界のお陰で傷を負う事はないかも知れないが、分かっていても自然と体は反応し、逆に牽制されてしまう始末なのである。


「く、エースの狙いはアンジェラ?」


 その進行方向からエースの狙いを読み取ったアレクは、魔導機兵の先にと目を向ける。

 と、そこには不敵な笑みを浮かべるアンジェラの姿があった。アレクは己れの力の至らなさを思い知り、もはや後はアンジェラに託すしかないと考えるのだった。

 もっとも、当のアンジェラには不敵な笑みを浮かべた積りもなく、アレクが勝手にそう感じていただけなのだが。


 そのアンジェラの傍らでは、メリルとサリーが大いに慌てていた。

 さすがにアンジェラの魔法でも、魔導機兵の攻撃には耐えられないと思ったからなのだが――毎秒五十発も発射される火弾が雨あられと、アンジェラたちに降り注いぐ。


「ひゃぁ〜!」

「お嬢さまぁ!」


 メリルは庇うようにアンジェラを抱き締め悲鳴をあげる。サリーも同じく悲鳴と共に、アンジェラに抱きついていた。

 それは当然の行動ともいえた。通常なら、例え守護の指輪ガードリングで守られていようとも、原形も残さず肉片に変えられてしまう状況なのだから。誰もが死を覚悟したことだろう。

 しかし――。


「メリル、サリー、大丈夫ですわ。この程度ならまだ、わたくしの無敵魔法を打ち破る事は叶いませんのよ」


 アンジェラが二人を落ち着かせるように、あえて穏やかな声で話しかけた。


「本当に……」

「大丈夫〜?」

「えぇ、大丈夫ですわ」


 その言葉の通り、降り注ぐ火弾は全て、結界の表面に幾つもの波紋を残し吸収されていくのだ。


「うっそ〜……」


 その様子に二人して驚き、言葉を失っていた。

 だが、余裕の表情を浮かべるアンジェラだったが、内心では若干の冷や汗を流していた。というのも、魔導機兵の攻撃を受けきる自信はあったものの、その速射性能と威力には驚いていたのだ。

 何故ならそれは、聖国時代の大魔法使いや賢者と呼ばれる存在、或いは邪神の眷族たる魔人たちが扱う魔法の威力と遜色がなかったからである。

すいません。

長くなりそうだったので、二話に分けました。


次回は遂に決着の予定です。

できるだけ早く投稿刷る積り……。


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