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聖女さまは戦闘職をご希望です。  作者: 飛狼
第一章 聖女覚醒
23/35

◇聖女様、お目覚めの時間ですよ? (22)

 実の所、聖女ラナイアが【転生陣】を使った後に意識を取り戻したのは、アンジェラとして生を受けた時だった。

 最初はゆったりと揺蕩たゆたう揺りかごのような物に包まれ微睡んでいた。それは久し振りに味わう安堵感でもあったのだ。やはり聖女として気を張っていたのもあったのだろう。安らかな微睡みに身を任せていたのだが、それは突如として差し込む強烈な光と共に破られた。視界ははっきりとせず、同時に息が詰まる。突然の呼吸困難である。どうして良いか分からずパニックとなったアンジェラ(ラナイア)は、堪らず魔力を全身に巡らせたのだ。それが功を奏したのか、呼吸自体は行えるようになった。しかし、転生体で行きなり魔法を使ったのが悪かったのか、彼女の精神は深層意識の更に底へと落ちてしまったのである。何度か深層意識界にダイブを行い、表層意識へと這い上ろうとするも、直ぐに押し戻されてしまう。

 アンジェラ(ラナイア)にとっても、今回の秘術の行使は初めての経験。魂と精神、精神と魔力、そして人としての意識への繋がりは、まだよく分かってはいないのだ。ただ、混乱してまだ幼い体に魔力を巡らした事により、そのバランスが崩れて今の状況に陥っているのだとの想像はついた。ならばと、アンジェラ(ラナイア)は魔力自体を深層意識へと手繰り寄せ始めたのである。それは根気のいる作業だった。長い年月をかけ、ゆっくりと細い糸を手繰り寄せるように、徐々に自分の精神を意識界の上層へと浮かび上がらせていく。その間に表の世界から入ってくるのは、夢を見ているような断片的な情報だけだった。当然のことながら、表の世界と繋がる肉体自体は、自分の意思でコントロールする事ができない。肉体に宿る本能のみで動いている状態だった。

 ようやく表層意識に手をかけたと思った時に、またしても事件が起きた。

「く、苦しい! だ、誰か助けて!」

 と、誰かが助けを求める声が聞こえてきたのだ。いや、それは声ではなかった。まだ表へと完全に出ていないアンジェラ(ラナイア)に誰かの想いが伝わってきたのである。しかもよく知ってるの、苦しさに抗うように発せられた想い。

 断片となって届けられる表の情報。その中にはいつも彼女がいた。にっこりと笑い、善なる暖かい想いをいつも伝えてきてくれる。彼女がいなければ、深層意識の底に閉じ込められ、あまりの孤独感にアンジェラ(ラナイア)は気が狂っていたかも知れないのだ。

 だから、どうしても助けたいと願った。助けなければいけなかったのだ。少しでも恩を返すために。

 成長したといっても、まだ幼い体。それに転生した体で、どこまでの魔法を扱えれるかも分からない。それにまだ完全には意識が表面には出ていないのだ。それなのに魔法を行使すれば、もしかするとまた深層意識へと落ちるかも知れない。

 それでもアンジェラ(ラナイア)は、新たに得た幼い体で魔法陣を編んだのである。そのを助けるために。

 まだ満足に動かない体を動かし、どうにか助け出すことには成功した。その後の治療も行った。それはアンジェラ(ラナイア)とっても、奇跡のようなものだった。

 そして――予測していた通り、またしても深層意識の底へと落ちたのである。でも、やり遂げた事により、心は満たされ心地好い安堵感には包まれた。とはいえ、また一からやり直しかと思うと、うんざりとなるのも仕方のないものだった。だから、表に出れたらそのに文句のひとつも言ってやろうと思ったのだ。しかし、それが新たな活力となり、彼女にとっての希望ともなった。

 それからはまた根気のいる作業の繰り返しだった。

 だが、しばらくしてまた新たな出来事が起きた。

 心安らぐ懐かしさを感じたのである。地脈から魔素マナを汲み上げ、聖樹が魔力へと変換する。その懐かしい魔力を感じたのだ。一度は聖樹と意識を重ねたアンジェラ(ラナイア)。未だに魂は繋がったままなのだ。その魔力を辿る。細い糸は太く変わり、加速度的に表層意識へと這い上がる速度も増していく。

 そして遂に――歓喜の瞬間ときが、アンジェラ(ラナイア)の元に訪れたのである。


                       ◇


 皆の注目を浴びて、どう答えたものかと焦るアンジェラ。そこにいつも聞き慣れていた声が、すぐそばから聞こえてきた。


「お嬢さま?」


 メリルが心配そうな表情で見上げていたのだ。その顔を見た途端に、アンジェラは思い出したのである。


「そうそう、メリルには言いたい事が山ほどあったのですわ」

「えっ」

「…………元気になって良かったわね」


 訳が分からず不思議そうに見詰めてくるメリルに、にっこりと微笑みかけるアンジェラだった。

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