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聖女さまは戦闘職をご希望です。  作者: 飛狼
第一章 聖女覚醒
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◇聖女様、お目覚めの時間ですよ? (1)

 石畳に埋め込まれたミスリルラインに誘導されて、流線形の美しい車両ボディを銀色に輝かせた魔導列車が、風を巻いてホームへと滑り込む。と同時に、車両下部に取り付けられたエアスカートの内側から、


 ――プシュー 


 と、けたたましい音を掻き鳴らして大量の空気を吐き出した。そして、魔導列車に連なる各車両が、ゆっくりとプラットホームの床面へと降下した。

 この魔導列車とは、カインツ帝国の魔導工学技術の粋を集めて製作された、魔力を用いた動力装置。魔石結晶の魔力によって得られた重力軽減と風の魔法により、浮力及び推進力を得ているのである。魔力伝導率が最も良いミスリル鉱石を、地面に埋め込むように敷設ふせつされたミスリルライン上で、ちょうど人の腰の辺りの高さまで浮かび上がった魔導列車が滑空して進むのだ。そしてこのミスリルラインは、ここ帝都のみならず帝国全土に血脈のように網羅され、その上を走る魔導列車は帝国臣民の移動手段、帝都で暮らす人々の足として欠かせないものとなっていた。


 まだ早朝ともいえるこの時間帯。まるで獲物を見付けた蟻が巣穴から飛び出すかのように、魔導列車からは大勢の人々がわらわらと吐き出される。すぐにもプラットホーム上は、肩が触れ合う程のひしめく人々に占領されていった。これは帝国全土から臣民が集まる帝都では、いつもの見慣れた朝の光景。仕事先へと向かう人々がホームに群れ集い、出口へと川の如く淀みなく流れていくのである。軽く三百万を越える人口を抱える帝都の、早朝における風物詩ともいえる風景でもあるのだ。

 だが、この日は少し違っていた。何時もなら視線を前に向けたまま足早に出口へと向かう人々が、ある者は歩みを緩めてまで一点に目を向けていたのである。

 その皆の視線の先にいたのは、まだうら若き少女が二人。身に着けているのは、上下共に青を基調とした衣服。下は膝が隠れる程度のスカートに、上のブレザーの胸元からは白いブラウスが覗いている。そのレース柄の襟元には、えんじ色の棒ネクタイが可愛らしく結ばれていた。

 そう、彼女たちはこの朝も早い時間帯、この近辺では見掛けるのも珍しい女子学生だった。しかも、その制服から帝立アグラリア魔導学園の生徒だと容易に推察された。アグラリア学園とは、帝都内でも超がつくほどの有名な学園。帝国全土から、魔力を有する将来有望な若者たちが集められる学舎まなびやであり、帝国内でも1、2を争うエリート校なのである。

 だが、人々が注目する理由は、それだけでは無かった。今日は何故か、先ほどから学園の制服姿をした生徒たちがちらほらと見受けられて、「何故ここに?」と皆が驚いていた。そんな生徒たちの中でも、彼女たち二人に皆の注目が集まっていたのである。

 何故なら――。



「――『戦勝記念公園前』。お降りの際には、足元にご注意下さい――」


 そんなアナウンスがプラットホーム上に流れる中、僅かに恥じらいを含んだメリル・タイラーの表情が、少しだけ紅潮すると自然に俯き加減になっていく。しかしそれは、仕方のない事だった。彼女はちょうど十五歳なったばかり。少女から大人の女性へと脱皮する思春期の真っ只中なのだから。

 周囲を行き交う人々から興味本位に向けられる、まじまじと見つめてくる視線を感じて、羞恥心に胸が張り裂けそうになっていた。だからだろうか、プラットホームのある建物の出口から一歩外に出た瞬間、ホッと気を緩めてしまい足元の段差につまずいてしまった。


「あっ!」


 メリルの後頭部でポニーテイルに結んだダークブラウンの髪が、激しく宙に揺れる。

 つまずいた拍子に、

 

 ――ダン!


 と、派手な音を鳴らして盛大に転んでしまったのだ。


「い、痛ぁい……」


 勝ち気そうな顔立ちを痛みに歪め、吊り上がり気味だった眉尻をハの字に下げて、ぶつけたお尻を撫で擦る。だがすぐに何かに気付いたように、慌てて後ろを振り返った。

 それは今まで、もうひとりの少女と手を繋ぎ、先に立って歩いていたからだった。


「お、お嬢様!」


 焦った調子で駆け寄るメリルの先には、同じように尻もちをつくアンジェラ・モンテグロの姿があった。


「お怪我は有りませんか?」


 メリルがたずねるも、奇妙な事にアンジェラからはなんの答えも返ってこない。それを気にするでもなく、メリルはアンジェラの全身を念入りに確かめる。その間もアンジェラは、されるがままに宙の一点を見詰めたまま身動きひとつしないのである。それどころか、痛みを感じていないかの如く、その表情すらぴくりとも動かさない。これこそが、周囲を行き交う人たちから注目を浴びる理由だった。

 アンジェラは、端正な顔立ちに輝くほどに美しい金髪。十人の男性がいれば、その十人の男性全てが振り返るほどの美貌なのである。だがしかし、その表情からは一切の感情が抜け落ち、まるで人形のようであった。その様子は、目を見張るような美しさだけに、逆に不気味なものを感じる程なのである。

 だから周りを行き交う人々は、一度は視線が通り過ぎた後も見てはいけないものを見たかのようにギョッとして、もう一度振り返り凝視してしまうのであった。


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