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聖女さまは戦闘職をご希望です。  作者: 飛狼
第一章 聖女覚醒
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◇聖女様、お目覚めの時間ですよ? (16)

 そこに現れたのは、天に向かって伸びる光。空を突き抜け、いったいどこまで伸びているのか、既に目視では確認できない。その直径も『巨人の腰掛け』に比例した巨大な円柱だった。

 圧倒的ともいえる迫力と存在感を示し、周囲の空気をびりびりと震わしていた。


「こ、これはもしかして魔力? ……まさか?」


 かすれた声で、アレクが呟く。

 アレクが驚くのも無理はなかった。

 『巨人の腰掛け』からあふれだしほとばしる光、それは魔力光と呼ばれるものだった。魔力は圧縮して密度を上げると、仄かな燐光を放つ。それが魔力光。だが、これほどの魔力光を、アレクは見たことも聞いたこともなかったのだ。

 アレクの後ろでもまた、サリーが心ここに在らずといった様子で呟いていた。


「うっそぉ……本当に……古代の……」


 サリーの場合は、更にその驚愕の度合いは酷いものとなった。

 祖父は隠れた名工と呼ばれ、家は魔導工房を経営している。サリー自身も赤子の頃より、傍らに転がる魔導具を玩具がわりに手に取り遊んでいた。祖父からは、子守唄のように魔導工学の知識を聞かされてもいたのである。だからこそ、現在の帝国における魔導工学の発展を、自分の事のように喜び誇りに思っていた。目の前に現れた魔力光に、それら全てを覆された気分だったのだ。

 これが古代の魔導装置で産み出されたのが事実であるなら、今現在、帝国全土で運用されている魔導列車も、個人が足がわりに使うゴーレム車や飛空挺も、その他の建築、製造関連で用いられる魔導機材の数々までもが比べるまでもなく児戯に等しく感じられ、これほどの魔力を人の手で作り出せるのと、目に映る光景が信じられない思いだった。

 巨大な光の柱は、それほどの存在だったのである。

 しかし、メリルは二人とは少し事情が違った。


「くっ! これはきつい。アンジェラお嬢様、ご無事ですか?」


 あくまでも、赤子の頃から一緒に育ち面倒を見てきたアンジェラの事が大事。もはや仕える主人というより身内に近い。その感覚は、手のかかる愛すべき妹といった所だろうか。

 だからアンジェラの体を抱き締め、無事かどうかをたずねない訳にはいられない。というのも、『巨人の腰掛け』からあふれる魔力はとどまる事を知らず、更に濃密な度合いを高めていたからである。

 過度の薬は体に悪いの例えの通り、大量の魔力も人の精神には悪影響を与える。周囲に漂う魔力は、徐々にではあるがその密度を高め、息苦しさを感じられるほどだった。もはやそれは、先ほどマレー教授の放った『威圧』に近い。それも数倍は威力の増した『威圧』なのだ。

 守護の指輪ガードリングに守られて尚、気を抜くと意識が飛びそうになるメリルだった。が、それを必死の思いで繋ぎ止める。今はアンジェラを残して、気を失う訳にはいかないからである。だが、当のアンジェラは不思議な事に、平然と佇んだままだった。


 徐々に周囲を圧していく魔力濃度。

 実験に参加していた生徒の中には、目を覚ましていた者もいた。

 枯渇していた魔力も回復し、ようやく意識も取り戻したのに、またもや気を失うはめとなったのだ。生徒たちにすれば踏んだり蹴ったりである。だが、今から起きる事を知らないでいられたのだから、ある意味では幸せだったのかも知れない。


 既に、この場に立っている者は数えられるほど。

 それはアレクやメリルたち四人とマレー教授たちだったのだが、トッドを除いた助手の二人からも悲鳴があがる。


「きょ、教授! こ、これ以上は……」

「あがぁ! 無理です……」


 その場で膝を突き、そのまま意識を飛ばし崩れていく。


「むぅ……ユグドラシルが暴走しておるのか……」


 さっきまで喜色満面で自慢げだったマレー教授も、高まる魔力濃度に顔を歪め少し焦りの色を浮かべていた。


「トッド! 器機を今すぐ止めよ!」


 しかし、慌て始めた教授とは裏腹に、指示を受けるトッドはどこか楽しげな笑みを浮かべる。そして、さっき教授がユグドラシルを作動させた機器の前に、立ちはだかるように陣取っていた。


「生生、おめでとうございます」

「何を言っておる、トッド」

「先生の理論が証明されたので、まずはお祝いの言葉をと思いましてね」

「今はそんな事より、早くユグドラシルを……このまま暴走すれば、この帝都が吹き飛ぶぞ!」


 それでも動こうとしないトッド。その顔には、今までには無い嘲笑が浮かぶ。


「トッド! お前は何を考えておる!」


 トッドの態度に苛立ったマレー教授が、強引にそこからどかそうと腕を伸ばした。その手を、トッドが乱暴に払う。


ッ! ……あがががが……」


 とたんに、マレー教授の表情が強張り、額や頬に大量の脂汗が浮かびあがった。そして、全身を小刻みに震わせ、その場にうずくまる。

 教授の腕に、細長い針のような物が突き刺さっていたのだ。


「どうですか先生、魔力波妨害短針マジックジャマーニードルの味は?」

「ギギギ……トッド……お前は……」


 苦しげに表情を歪めつつも、マレー教授がどうにか顔を上げてトッドを睨みつける。


「ほう、魔力値が高い者ほど苦しいはずなのですが、魔力波妨害短針マジックジャマーニードルを打ち込まれてなお、まだ口を利けるとは驚きですね。さすがは学園でも暴君と徒名される先生だ」


 助手であったはずのトッドが、マレー教授を見下し乾いた笑いをあげるのだった。

すみません。

……までいけませんでした。

ですが、次回は確実に……のはずです。

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