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曼珠沙華律遍鏡  作者: 足利ハジメ
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追放概念《ダンザイハ マジョヲ 殺ス》1

 突き刺す。何度も。何度も。

 皮膚を貫く音に、肉を抉る音に、臓物を切り刻む音に歓喜する。

 何度も。何度も。

 返り血にまみれた手が、いっそう赤く染まれと上下に暴れまわる。いつの間にか、目的は殺すことから別のものに変わっていた。

 こんなにも、狂おしいほど憎んでいるのに、解体されている人間の顔が思い出せない。どこかで見たことのある男だ。腹部以外は傷一つない。

 それでも動く。邪魔な思考はいらない。終わった肉塊を弄ぶには必要ない。

 何度も。何度も…。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 叫び声。

 気がつくと、俺は独房のベッドに横たわっていた。その寝心地は、とても快適とは言えない。

 ドア越しに、間抜けな顔をした看守がこちらを覗き込んでいる。

 看守の悲鳴が建物内に連鎖していく。まるで怒号のように、絶え間なく轟く叫喚。

 何度も。何度も。

 湿った感覚が手を伝う。体中の熱が、その一点に集約されていく。燃える指先とは対照的な、寒々しい腹の感覚。

 眩しさに手をかざす。目を閉じた時には消えていた電灯が、不快なまでに自己主張をしていたからだ。

 すると不意に、鼻先に熱が滴る。

 一滴、一滴と――赤々と。

 お世辞にも純白とは言えない、赤々としたシーツ。傍らに飛び散っているのは、細切れにされたはらわた

 視線を下げたその先は…。

 肉が削ぎ落ち、骨が削られ、内臓をぶちまけた無様な死骸。

 いや、生きた死骸か。

 なぜなら、その死骸が、死骸自身であることを認識出来ているのだから。

 喉から発せられた叫びは、怒号の一部となって掻き消えた。


 まあ、考えてみれば、それも当たり前だ。

 俺が嬉々として殺していた男。

 あれは俺だったな。

 

 囚人の耳に木霊こだまするは、魔女の断末魔。

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