尾道教諭の悪質な罠
「……はぁ」
俺は放課後、図書室の前に来ていた。
本当はそのまま直帰してやろうかと思ったが、教室を出ると西城に捕まりそうになり、とりあえず避難先としてここに来ていた。
べっ、別に好きで来たわけじゃないんだからね!
××××××××
「失礼しまーす」
この学校に入学してから初めて図書室を訪れた。
生徒が二、三人勉強しているだけで他には人影が見当たらなかった。
すると奥の部屋から尾道先生が出てきた。
「おっ、逃げずにちゃんと来たか。関心関心」
「ほとんど不可抗力ですけどね」
「まぁ、経緯はどうであれ君が来たことには変わりはない」
そう言うと、尾道先生は奥の部屋に入っていった。
ついて来いということだろうか。
ここまで来てこのまま帰るのもどうかと思うので、俺は尾道先生の後について行った。
中には入ると長机が一つに教室にあるようなイスが五脚。壁にも何脚か立て掛けてある。
向かい側の壁一面にどデカイ本棚が備え付けられていて大量の本が収まっている。
「あっ、先輩やっと来た!」
それにしてもすごい量だ。読み終わるのにいったいどのくらいかかるのか、検討もつかない。
「で、先生。いったい第二文芸部って何をするんですか?」
「だから、先輩ってば!」
「第二ってことは本家の文芸部はどこいったんですか?」
「あのな、荒木。少しは現実を認めろ」
……分かってたけどよ。少しくらいは夢を見てもいいじゃないか。
「てか、なんでここにこいついるんですか!?」
「ああ、西城は私が連れてきた。こいつもお前と一緒に第二文芸部に入ってもらう」
「そういうことで、これからよろしくです。先輩!」
俺は頭の中が真っ白になる感覚を初めて知った。
すべての思考を止めてなにも考えたくなかった。
尾道先生は俺を嵌めやがったのだ。
「私としてはクラスでのお前の孤立は見ていてあまり良いものではない。それにこのまま社会に出たとしたらとてもお前の事が心配なんだ」
「だからってなんでこいつなんですか?」
「西城の積極性とお前に対する好意があれば少しは変わるかもしれないと思ったんだ」
積極過ぎるだろ!?
……まぁ、心配と言われてしまえば反論は出来ないが、この件に関しては別だ。
「すいません。先生の気持ちは嬉しいですがこれは俺の問題です。それに、俺は好きで一人でいるのであって現時点でなにも問題はないです」
「だから、ここで失礼します」
そう言って俺は教室を後にしようとした。
でも、そうは問屋が卸さなかった。
「それらしいことを言って誤魔化しても無駄だ。もしこのまま帰るのなら、単位をやらんぞ」
「ちょっ、教師としてそれはどうなんですか!?」
「いいか?世の中にはこんな言葉がある。……バレなければ問題ない」
「あんた最低だよ!」
「おいおい、教師に対してあんた呼ばわりか、偉くなったな。まぁいい、それより帰るのか?帰らないのか?」
そんな事言われてしまったら帰るに帰れないじゃないか。
「……はぁ、分かりました。先生のお話を聞きます」
「それでよし。西城もそれでいいよな?」
「もっちろんです!先輩と居られるならたとえ火の中水の中!」
「勝手に行ってこい!!」
××××××××
……はぁ、結局。俺はこいつから逃れることは出来ないのかもしれない。
でも、俺は諦めないぞ。必ずこいつを何とかして見せる!
……というか、先生完全に俺に対して嫌がらせしたかっただけじゃ……?