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友達がいらない俺に告白してきたやつがいるんだが  作者: 夢木 彼方
荒木拓也の普遍的な夏休み......?
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先行き不安



旅館の玄関へと荷物を運んでいくと、そこには和服をピシッと着込んだ若い女性二人と作務衣を着た五十代くらいの強面のおじさんが出迎えていた。


女性はいいとして、おじさんはそんなに怖い顔して接客業務まるのか? 子供とかガチ泣きしてそうで心配なんだけど。

と、俺がいらぬ心配をしてるとおじさんが口を開いた。


「ようこそ、蒼海(そうかい)荘へ」


おじさんの声は周りの人間を萎縮させるような声をしていた。俺は幼い頃、親父に叱られた懐かしい記憶を思い出していた。親父の声も恐ろしかったが、優しい声をしていた。どこかこのおじさんの声は親父に似ている。何故だろうか? 親戚の集まりには俺が小さかった頃。つまり、親父たちがまだ生きていた頃にしか行ったことは無いしな。


まぁ、世の中の親父なんてものは皆似たような考えを持ってるしな。......娘のことになると我を忘れることとかな。


「騒がしくなると思いますが、どうかよろしくお願いします」


俺らを代表して先生が挨拶をしていた。ここだけ見るとまともな大人に見えるんだけどなあ。本性を知っている俺としては違和感があり過ぎて、もはや別の人間に見えるレベル。......多重人格者とかそういう設定ないよな? アラサーというとんでもない爆弾を抱えてるのに、さらに設定追加されても俺はついてける自信が無いぞ。


その後、俺達は仲居さんに案内されて部屋まで連れていってもらった。案内された部屋はド派手な印象ではなかったが、落ち着きのある雰囲気に包まれていた。そう、まるで実家のような安心感。......まぁ流石に実家はここまで立派な家じゃないけどな。


俺と雪月が同じ部屋で他の女性陣が隣の部屋になった。一部屋しかなくて女性陣と同じ部屋でリトのようなハプニングを体験する可能性はなくなったが、雪月と同じ部屋というのもなんだか気持ち悪い。別にリトのようなハプニングを期待していた訳じゃないからな。おい、そこ!疑いの眼差しを俺に向けるのをやめろ。危うくどこぞのヒッキーみたいな目になっちゃうだろうが。


と、荷物を開けていたら雪月が、


「先輩、僕は温泉に浸かってこようと思うのですがご一緒にいかがでしょう」


いつもなら男と、しかもこいつと風呂に入るなんて怖気が走るくらいだが、夕飯までは時間がまだあるし、温泉に来るのは久しぶりなので少し楽しみにしていた。なので俺は風呂に行くことを告げて、支度をすると雪月に続いて部屋を出た。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー


脱衣所についた。大きさは思っていたよりも大きかった。観光シーズンになるとたくさんのお客さんが来るのだろうか。と、俺が考えながら服を脱いでるともう雪月は裸になっていた。そして、雪月は腰周りにタオルを装備していなかったので、俺はもろにエクスカリバーを見てしまった。


oh......これは片手剣ではなくて大剣かな?あれ?俺はいつの間にサーヴァントを召喚したのだろうか?召喚されるならもう少し可愛いサーヴァントが良かったです。


だが、それを別にして、俺は後輩に向き合って正座をして、頭を下げた。




「......先輩、いやこれからは大先生と呼ばせてくれ」



「何言ってるんですか?先輩」


雪月の少し呆れたような声が脱衣所にむなしく響いていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー


俺が自信をなくしながら浴場に入るとその大きさに驚いた。四、五十人くらいは余裕で入れそうな浴槽に洗い場、サウナに果ては露天風呂まで。......なんだが古代ローマ人でも出てきそうな雰囲気なんだけど。フルーツ牛乳でも準備しとくか?


俺はかけ湯を浴びてからゆっくりとお湯へ足を浸けていく。熱くもなく冷たくもないちょうどいい温度が雪月のエクスカリバーを見て傷ついた俺の心を癒していく。べ、別に俺のエクスカリバーだってまけてないんだからね!......我ながら下らないこと考えてるな。


「......ふぅ、気持ちいい」


最近の疲れが体から抜け落ちていくような感覚。馬鹿な後輩のせいで俺は疲れなくてもいいことで疲れていて、体はもうぼろぼろだ。......対してぼろぼろでもないけどな。その代わり疲れていたというのは本当だ。こんな良い旅館に連れてきてもらって先生には感謝せねば。ありがたや〜、ありがたや〜。


俺がまったく有り難みのこもっていない感謝の念を先生に送り付けていると、人ひとり分空けて雪月が湯に入ってきた。

髪に水がまとわりついて頬は赤くなっており、無駄に艶かしい。男のこんな姿見ても喜ぶのは女かホモだけだから。俺、ホモじゃないから!


「......それにしても、いい湯ですね」


「......それについては同感だ」


まったりとした時間が俺達の間を過ぎていく。そんな中、雪月が口を開いた。


「......先輩は、西城さんに告白されたんですよね」


「いきなりなんだよ」


「いえ、僕は先輩の考えを聞きたくて」


「......聞いてどうにかなるのかよ」


「少なくとも、その答えによって僕はいろいろと心の整理がつきます」


「......別に、そんなことはどうでもいいだろ。それよりも風呂を楽しめよ。せっかくの合宿だろうが」


俺の回答を聞いて、雪月は視線を湯船に向けていた。その表情は髪に遮られてよく見えなかった。しばらくして「......そうですよね。さっきのは忘れてください」と言ってきたので、この話は終わりとなった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーー



風呂では微妙に気まずい空気になったが、風呂を上がって部屋に戻る頃には雪月はいつも通りに戻っていた。......あくまで表面上だが。


部屋に戻るなり、隣の部屋から西城と園咲が部屋にやって来て、「ご飯の時間ですよ〜」と言って食堂へ向かって走り出してしまった。こら!廊下は走ってはいけませんよ。お嬢様!


雪月はそんな女子達を微笑みながら見送り、「では、僕達も行きましょうか」と言ってきた。先程のことは気にしていないのか、それとも触れて欲しくないのか。


人と積極的に関わりたいと思わない俺には雪月が今、何を考え、思っているのか微塵も分からなかった。




まるで、宝石箱のような晩飯を食べ終えた俺は、二度目の風呂に浸かるため脱衣所を訪れていた。

温泉というものは気分で入るものだと、どこかの小説に書いてあったことを思い出した俺は、その教えに則りまたここへやって来た。 雪月は「少し外を見てきます」と言って何処かへと行ってしまった。少し気まずさを感じていた俺にとってはありがたかった。


さて、風呂に入る準備もできたし。いざ、出陣!


意気揚々と大浴場に入ってみると、俺以外には他のお客さんは見当たらなかった。


「マジか、こんなに広い浴槽を俺一人で独り占めとか贅沢すぎるだろ」


とはいえ、そこで勿体ないからと言って部屋に戻るのも馬鹿らしいので、風呂のルールに従い、かけ湯をしてから湯船に浸かった。


やはり、風呂に入ると落ち着くのは日本人故なのだろうか?

中には風呂は嫌いだ! と言う人もいるだろうが、大抵の人は風呂は好きなはずだ。......と、俺は思う。


風呂に入っていると、頭の回転が速くなる気がするからだ。これはあくまで俺の主観的な感覚だから人によって違うだろうけど。そんな中、今俺の中で最も悩んでいる事は、


「西城のこと、だよなぁ」


正直、男として控えめに言っても可愛いと言えるレベルの女の子から告白されて嬉しくないと思うのはホモか人間不信に陥ってるやつくらいだろう。


だが、俺は友達や親しい人間は必要とはしていないのだ。そもそも、俺は人間というイキモノを信じていない。それは俺自身に対してもだ。そんな自分にさえ自信を持てない人間が他の誰かを信じることが、その身を委ね、委ねられる関係を築くことが果たして出来るのだろうか? ......そんな答えは、考えなくても明白だが。


それでも、俺はあいつに『親友』になると言ってしまった。宣言してしまった。


あの時は、親友というものは友達とは言わない。と、子供騙しも良い言葉で自分を正当化していた。それほどまでに俺は自分の考えに対して揺らいでいた。だから苦し紛れにあんな言葉を吐いたのだ。


結局、西城の告白に対してもそのままだ。その後で雪月のストーカー事件があったから有耶無耶になっていて保留しているだけだ。俺はその状況に対して甘えて、だらだらと惰性的に今の今まで来てしまった。


このままでは西城に対しても、そして、まだ西城のことが好きで仕方が無い雪月に対しても失礼じゃないのか?




......だが、他人は自分にとって関係がない俺にとってそんなことを考えるのは間違っているのではないのだろうか?



「......あーっ!訳分からん!」



俺は頭ごと湯船に浸かるように潜った。考えていること、しなくてはいけないこと、そのすべてを思考の渦の奥底に沈めるように、俺は肺が降参の旗を上げるその時まで湯の中に沈み続けていた。


このまま、全部沈んでしまえばいっそ楽なのにな。






お待たせしたくせに、短いですがご容赦を。


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