いざ、合宿へ!
照りつける強烈な夏の日射しが、容赦なく俺のHPを削っていく。
周りからは蝉による、真夏の大演奏会が開かれていて騒々しいことこの上ない。
道行く人の額には皆汗が浮かんでいて、その表情はお世辞にも明るいとは言えなかった。
それはもちろんこの俺も同じだ。
そもそも、夏は家でクーラーに当たりながらダラダラと漫画や小説、アニメを観るのが当たり前の生活を送ってきた俺がなぜ、今更こんなに暑い日に外を出歩いているかについては、きちんとした理由がある。......ものすごく理不尽な理由だが。
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「よし、お前ら合宿するぞ!」
「......は?」
このダメ教師は、いきなり何を言い始めるんだ?
ようやく面倒ごとが終わったと思ったのに、どうしてまた面倒なことをやらなきゃいけないんだよ。
「......だから、合宿だ!」
「意味がわかりません。そもそもなぜ文芸部で合宿が必要なんですか?」
すると、尾道先生は「何を言ってるんだ?」とでも言いたげな顔をしてこう言った。
「ここは文芸部である前に、お前らのような人間を隔離し社会復帰を目指す機関だ。今回の合宿はお前らの人格矯正訓練と言っても問題ないだろう」
「いつからここはそんなに物騒な部活になったんだよ......」
「とにかく、異論は認めないつもりなのでそのつもりで、日時は追って伝えるから楽しみに待ってろよ。では」
尾道先生はそう言い残すと部室を出ていった。
「......はぁ、で?どうするよ」
俺は部室にいる三人に聞いてみた。
まぁ、馬鹿二人に関しては顔見たらわかったので、残る一人の男に対して聞いてみた。
「まぁ、特にいいんじゃないんでしょうか?僕は生憎予定などはありませんしね。先輩はいかがです?」
「お前......わかってて聞いてるなら締めあげるぞ」
普段独りでいる俺に夏休みに出かける予定などあるわけがない。
「いえ、そんなつもりはありませんよ。......では、先輩も行くということで」
俺は返事の代わりに鼻を鳴らした。
にしても、合宿ねぇ。......なんでそんなことしなきゃならんのか。ああ、全くもって不幸だ。......どっかの主人公みたいなこと言ってるな。俺。
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そして、現在である。
今、俺は何をしているのかというと、他の奴らを待っている。
待ち合わせ場所に学校近くの公園を指定されたので、木陰に避難していのだが焼け石に水だった。
俺は基本的に待つということが嫌いだ。
時間を損している気分になるし、待つだけで疲れてしまう。
特にあのネズミの王国なんかは大嫌いだ。
何が夢の国なのか教えてもらいたい。だいたい夢の国というからには入場料なんか取らないで、タダにしろ。
と、あまりの暑さと待つことで思考が停止しかけて何やら訳の分からないことを考えていた俺の視界にようやく見知った奴を見つけた。
「あっ!先輩おはようございます」
最初に来たのは西城だった。
花柄のミニスカートに白色のノースリーブが眩しくて目を覆ってしまいそうになる。
こいつの私服は何回か見たことがあるのに、何故か落ち着かない。これも夏のせいということなのだろうか?
「お、おお。おはよう」
「えっへへ〜。先輩?私を見て何か言うことがあるんじゃないんですか〜?」
西城は照れたように笑いながら、肘で俺のことをつついてきた。
少しは褒めてやろうと思ったが、こいつのこの態度を見て考えを改めた。いかんいかん。その場の流れでうかつなことを言うと損をするのはこちらなのだ。なので、
「それよりも、お前は追試の件について俺に何か言うことがあるんじゃないのか?」
「その節は大変お世話になりました!」
鮮やかな手のひら返しである。
先程までの態度はどこへやら、頭が膝につきそうなくらいに下げている。
面白いものが見れたし、もういいかな。と思っていると、次の人物が現れた。
「師匠。おはようございます」
園咲だった。
デニムのホットパンツに、黒色のTシャツを着ていてなかなかかっこ良かった。
「おお、結構似合っててかっこいいな」
「っ!ありがとうございます!師匠にそう言ってもらえて嬉しいです!」
犬だったら間違いなく尻尾が千切れそうなくらい振ってるだろうな。それにしても、流石にゴスロリみたいな服装じゃなくてホッとしたのは心の内に仕舞っておこう。
そうこうしていると、公園の入口に白色のワゴン車が停車した。
そして、窓が開いてそこから尾道先生が顔を出して、
「おーい、お前ら揃ったのならそろそろ行くぞ!」
と言ったので、俺達は荷物を抱えて車へと急いだ。
それにしても先生が一番ノリノリだと思うのは俺だけだろうか。
......ん、雪月?もちろんいるが、男の服装聞いても嬉しい野郎なんかいないだろ?というわけで雪月の服装については割愛させて頂く。
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「それで?一体俺らはどこに向かってるんですか?」
車に乗り込んで一時間後、流石に目的地が気になってきた頃である。都市のビル群は既に彼方へと消えていき、辺りは青々と茂った木々しか見えない。
ちなみに、今起きているのは俺と先生と雪月のみだ。
最後列の阿呆二人組は、仲良く身を寄せ合いながらすやすやと穏やかな寝息をたてて夢の中だ。
「それはついてからのお楽しみというやつだ」
尾道先生はハンドルを握ったまま前を向いているが、その口元は楽しそうに笑っていた。
......うーむ、不安しかないんだけど。
まぁここまで目的地も聞かずに付いてきた俺も馬鹿だったしな。すべては神の意志に任せよう。......神なんて信じてないけど。
「僕はこういうイベントは初めてなのでワクワクしています。いったいどのようなことをするのでしょうか」
「まぁ、どちらにしろ疲れることには変わりないだろ」
「そうでしょうが。......それでも僕は楽しみです」
やはり、こいつは少し変わってるな。まぁ、好きなやつと話すことが出来なくてストーキングするようなやつだしな。そんなやつがマトモであったら俺は世間というものを疑いかねない。
「よし!それでは目的地まであと少しだ。ここで気分を盛り上げるために私のお気に入りの曲をかけよう」
そう言うと、尾道先生はCDを取り出してヘビメタを大音量で流し始めた。あまりの音の大きさに俺と雪月は耳を塞いだが、全くもって意味をなさなかった。
「せ、先生!五月蝿すぎやしませんか!?」
「〜〜♪」
駄目だ。気分がアガって俺の声が届いていない。雪月に至っては諦めたかのように目を閉じてその身をシートに委ねている。
俺も早々に白旗を上げることにして目を閉じることにした。
この場合、寝るというよりは気絶すると言った方が正しい気がするのだが。
そうしているうちに俺の意識も遠のいていった。......それにしても、あの馬鹿二人は最後まで目を覚まさなかったな。馬鹿なのか、それとも大物なのか......。俺は前者だと思うけどな。
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「おい、着いたぞ」
尾道先生に呼ばれて俺は眠りの渦から呼び戻された。
寝ぼけ眼を擦りながらめを開けると、目の前には夕日に染まった広大な海が広がっていた。
既に西城と園咲は浜辺に降りて「うわー!海だー!」と叫びながら走り出している。......お前ら高校生だよな?見た目は大人精神年齢は子供とか勘弁してくれよ。どっかの名探偵も苦笑いするわ。
「......まさか、ここで合宿を?」
「そうだが、まずは旅館に荷物を置いてからだ。男は荷物運びを手伝ってくれ」
尾道先生がそう言うと雪月がキビキビした動作で後ろから荷物を取り出して運んでいく。雪月の行く先を見ると立派な旅館がそびえ立っていた。イメージ的には夜逃げした母の娘が居候先でお婆ちゃんの旅館に行って、そこで働くアニメみたいな雰囲気だった。
......我ながら例えがヘタクソ過ぎて涙出そう。
と、まぁ簡単に言うと趣がある昔ながらの旅館だった。
そして、ものすごく高そうなんですけど......。
俺は不安になって先生に尋ねた。
「あの、先生。この旅館ってどのくらいかかるんですか?」
すると先生は悪い笑みを浮べた。どうしてこの教師はこんなにも悪い笑顔が似合うのだろうか?本当に教職員か?
「無論、問題は無い。全て正式な活動費として学校に申請を出しておいたから心配するな。......それにここの旅館は一度来てみたかったんだ」
おい、このクソ教師。最後にボソッと付け足したけど俺には丸聞こえなんだが。それどっかの知事みたいに問題にならないだろうな?
そんな疑惑に満ちた俺の視線に気づいた先生は気まずそうに咳をしてから、
「ま、まぁとにかくお前も手伝えよ?」
と、誤魔化した。
もう、いろんな意味でこの教師はダメな気がする。
遠い目をしながら海を眺めていると隣に西城がやって来た。
「先輩、楽しみですね!」
それはもう、心の底から楽しそうに笑いながら西城は笑った。
なんだかこいつの阿呆面を見てたら全部が馬鹿らしく思えてきた。
「はあ、そうだな」
俺は波に揺れる水面を眺めながら、いったいこの合宿でなにが起こるのか、柄にもなく少しばかり楽しみになってきた。こういう特別な場所に来るとやはり、誰でも子供のようにはしゃいでしまうものなのだろうか?
まぁ、折角の夏休み。それも海だ。たまにはこういう場所で心休まる時間を過ごすのも悪くない。
とりあえずは、雪月の手伝いでも始めることにしよう。
さて、前回から少し早い投稿です。
時期的にもピッタリのお話なのではないでしょうか。
というわけで、夏休み編。スタートです!




