西城、最大のピンチ?
梅雨特有のじめじめした空気はどこかへと消えて行き、雲一つない青空がそろそろ夏が来る事を伝えるそんな今日この頃。
俺は第二文芸部の部室で読みかけの小説を読んでいた。
ついこの前に、学生の敵、期末テストとの戦いを終えた俺は、リラックスして読書に励んでいるということだ。
テストの結果に関して言えば、特に赤点の心配はしていない。
その代わり、高得点が取れた! という自信もない。
まぁ、何事も平凡が一番だってことだよ。
そんな穏やかな部室には、俺の他には雪月が一人で囲碁をやっていた。雪月に視線を向けると、タイミングが悪いことに雪月が顔を上げた。そして、そのイケメンスマイルを俺に振りまいて、「一局、どうですか?」と、言いたげな表情を浮かべた。
……あれか? 俺に相手しろってことか?
残念ながら答えはNOだっ!
俺は首を振って否定の意思を雪月に伝えた。
雪月は残念そうな表情を浮かべて囲碁の世界へと戻っていった。
俺も雪月に倣い、読書の世界へと入り込んでいった。
……ああ、何て平和な時間なんだ。一緒にいる相手がイケメンなのが許せないが。まぁ、今の俺は寛大だからな。そんなことでいちいち突っかかるほど心が荒ぶっている訳じゃない。
だが、過去の歴史からも分かるように、平和とはほんの一時しかないものだということを……。
「先輩!ヘルプです!」
突然ドアが乱暴に開けられたかと思うと、今度はスピーカーが部室に入ってきた。俺、初めて生きてるスピーカーを見た。
「どうした?ついに壊れたか?」
「酷いこと言わないで下さいよ!それよりもヤバイんです!」
「あー、はいはい、で?何が問題でも起きたのか?」
「大問題です! ……私、赤点を取ってしまいました」
「へー、良かったじゃん」
「良くないです! それに、他人事みたいな反応取らないでください!」
「いや、だって実際他人事じゃん?」
「……そこまでアッサリとした反応されると悲しくなります」
落ち込んだ様子の西城だが、赤点をとったのはまさに自業自得としか言いようがない。
「それよりも、もう一年はテスト返却されたのか?」
ふと、疑問に思い呟いていた。
俺たち二年はまだ、テストは返却されていない。てっきり全学年同様かと思っていたんだが。
「いえ、まだ僕も返ってきていません」
雪月が囲碁の手を止めて会話に参加してきた。
別にログアウトしてもいいからね?むしろ推奨します。
「私が教えたんだ」
そう言いながら部室に侵入してきた人物は、永遠の二十九歳、我らが尾道先生だ。
この紹介文知られたら、きっと俺は東京湾辺りで浮かぶことになるんだろうな。
「それはどういうことですか?」
雪月が質問を投げ掛けた。
「何故かという質問に対しては、そいつが我々教師陣が予想もしなかった点を叩き出してくれたからだよ。なので再テストしないと単位が危うい」
……こいつ、一体何点取ったんだよ。もしかして点を取ってない、何てことはないよな? ……ないよね?
「なので、お前らにはこいつの勉強を見てもらおう」
「嫌ですよ、そんな面倒なこと」
「まぁ、そう言うな。少しだけだがお礼も出すぞ」
「今やります。すぐやります。ただいま開始します!」
現金なやつだなとか言うなよ。人間、所詮は金なんだよ!
「と言っても、俺も対して頭がいいわけじゃないですよ」
「その点は問題ない。雪月がいる」
……は?ナニソレ、こいつ顔も良いくせに、頭もいいの?
一回爆発してくれねぇかなぁ。この残念変態ストーカー野郎め!
て、いうか俺はそもそも戦力扱いされて無かったんですね。
「それじゃあ、後は任せた。私はこれから面倒な職員室会議があるのでな」
そう言い残すと尾道先生は部室から去っていった。
……さて、頼まれた以上はやるしかないですかね。やらないと後が怖いし。
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「と、言うわけで、第一回補習一発合格作戦を開始します!」
「何で赤点取った本人がしきってんだよ」
何故かノリノリで西城は勉強会の音頭をとっていた。
「そして、何で俺の家でやるんだよ!」
そう、この西城のための勉強会は何故か全く関係ない俺の家で開催されることになった。
こいつらが急に押し掛けてきたため、急いで怪しい薄い本を隠したのは言うまでもない。
「それは、僕の家は親が厳しいので難しいですし、女子の家に上がるというのもどうかと思った結果、最終的に荒木先輩の自宅ということになったんじゃないですか」
「何が“なったんじゃないんですか”だ。お前らが勝手に決めて、勝手に家に上がり込んで来たんだろうが!」
「嫌ですよ先輩。結局は承諾してくれたじゃないですか」
「ほとんど事後承諾だったけどな!」
「まぁまぁ、それよりも勉強を始めましょう」
何だか納得いかないんだが。
「少し休憩しようよ~」
「……おい、まだ始めて十分も経ってないぞ」
「流石にもう少しは頑張ろうよ」
雪月も苦笑している。
「ふっ、そんな集中力の無さでは戦場で生き残れないぞ」
「っておい!お前いつの間に家に侵入してきた!」
「そんなことですか?堂々と玄関から入りましたよ?……まぁ、ちょっと人には言えない方法で侵入したんですが」
おい、こいつ小声で最後の方にとんでもないことを付け足さなかったか?
「はぁ、まぁいい。人数が多いことに越したことはないからな。お前は何か人に教えられる教科はあるのか?」
「………………………………」
何故か先程の勢いは何処へやら。すっかり大人しくなった園咲に俺はとてつもなく不安を感じた。
「な、なぁ、もしかしなくてもお前やりやがったな?」
「……………………」
もはや、言葉はいらなかった。表情が最悪の答えを告げていた。
「しょ、しょうがないじゃん!数学なんかいつ使うのさ!他の教科は大丈夫だったんだよ。数学が全部悪いんだ!」
ーーこいつ、言ってることがすでに馬鹿な子特有のことを言っちゃってるってこと理解してねぇんだろうなぁ。
「ま、まぁ、それよりも勉強を続けましょう」
雪月が軌道修正を図るが、
「いえ、休憩しましょう」
「私も賛成!」
馬鹿二人が言うことを聞くはずがなかった。
……というか、園咲よ。もうキャラ崩壊については突っ込まなくてもいいかな?
結局、馬鹿二人に押し切られる形で俺はテレビゲームの準備を始めていた。
何が男女共同社会だよ。今の世の中見てみろ。権力や実権を握ってるのは大抵徐々にだぞ?特にクラスの決め事になるとそれが顕著に現れる。なんだよ文化祭で、皆がこの料理にしようって言ったらクラスの中心人物の女子の一言。
「私、この料理嫌いなんだよね〜」
......知るか!
なんで客に出すのにお前の好みでまた考えなきゃいけねぇんだよ。
そして、なぜそいつの一言で「......あっ、じゃあやめよっか......」ってなるんだよ!お前らどんだけ自主性がねぇんだよ。
おっと、去年の文化祭の愚痴はほっといて、そんなこんなでゲームの準備が完了した。
俺が今回用意したのは、大乱闘クラッシュシスターズ。
民天堂から出ているキャラのオールスターバトルだ。
新しく出たやつでは八人まで同時に対戦できるので、大人数でやるにはピッタリのゲームだ。
「それじゃあ、私は桃姫でいきます!」
「ふっ、我は緑の衣の勇者だっ!」
「それでは、僕はこの青いヘルメットの人を」
こうして、第一次第二文芸部大乱闘が開催された。
ん?俺のキャラ?もちろん、ピンクの悪魔だ。
......それにしても、もう完全に追試対策の勉強会になってないんだが、こいつら大丈夫なのだろうか。
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「っだ〜!また負けた!」
「先輩、強すぎです」
「僕は、もともとこういうゲームは得意ではないのですが、さすが先輩ですね」
「ふっ、これからはきちんと敬うがいい」
皆に褒められたら俺は天狗になっていた。
そりゃもう、窓から射し込む色合いがとっくのとうに優しい陽だまりの色から物悲しさを誘うオレンジ色に変わっていることに気づかなかったくらいに天狗になっていた。
さて、ここまで来たらもう後のことはわかるだろ?
結局、勉強は何一つ進むことはなく、全員焦りながら一夜漬けをすることになった。
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「......マジで眠い」
そして、馬鹿二人の追試の日。俺は部室で瞼が降りてこないように格闘していると、
「な、なんとか合格しました〜」
「......同じく合格です」
フラフラになりながら部室に馬鹿二人が入ってきた。
「そうですか......それは良かったです」
雪月が少し疲れたような表情を浮かべながら微笑していた。
「まぁ、お疲れ。......というか、そもそも赤点なんかとんなよ」
「それは少し厳しいですね」
「うん」
「即答するんじゃねぇ!少しは努力しろ」
只でさえ眠くて頭が痛いのに、こいつらと話してるとさらに頭が痛くなってくる。
ため息をつきそうになったその瞬間、ドアが勢いよく開かれた。
入ってきたのは尾道先生。
「どうしたんですか?」
先生は教室をぐるりと見渡して、俺らに向かってこう言い放った。
「よし、お前ら合宿するぞ!」
「......は?」
いきなり何言い始めるんだ?このダメ教師は。
ものすごく更新遅れました。
待っててくれた方々は本当にすいませんでした。
どう話を進めればいいのか悩んでいたと言うのもありますが、忙しくて全然書くことが出来ませんでしたが、今回から再開できそうです。
次回はなるべく早く更新する予定ですので、どうか温かい目で見てください。




