俺は主人公じゃない
昼休み
俺は教室で手早く昼飯を済ませて、学校内をうろうろしていた。
特に教室にいる意味もないし、だったら腹ごなしと暇潰しを兼ねてみようという魂胆だった。
「……ん?」
その現場を目撃したのは全くの偶然だった。
自販機でパックのジュースを買ってから、体育館裏のベンチが並ぶ場所で日向ぼっこでもしていようかと思い、足を運んでみると、そこには園咲がいた。
ただし、周りを複数の女子が取り囲んでいる状況だったが。
俺が何してるんだ? とボーと眺めていると、取り囲んでいる女子の一人が園咲を突き飛ばした。
園咲はそのままよろめいて倒れてしまった。そんな園咲を見て周りの女子たちは助けもせずに、ただ甲高い声をあげて笑うだけ。
そのうち満足したのか、その女子集団は笑いながらその場を去っていった。……最後まで小者臭が凄かったな。
そして、園咲も制服についた汚れなどを払ってから、うつむいてとぼとぼと校舎へと歩いて行った。
俺は何をしていたかって? ……何もしてなかったよ。何もせず、手を差しのべることも、声をかけることも、何もせずにただ傍観していた。
アニメなんかでは、主人公たちはここでカッコよく女の子を助けたりするんだろう。それか助けることはできなくても、後で声をかけたりしてフォローしたりするんだろう。
だが、俺はそんなことは出来ない。俺は主人公じゃない。カッコいい助けかたなんて他の主人公候補がやるだろう。
だから、俺は助けない。動かない。
……なのに、こんなにムカつくのは誰に対してなのだろう。
あの女子集団達へなのか。
それとも何も反抗しない園咲へなのか。
……または、この現状を見て、何も行動を起こさない大バカやろうに対してなのか。
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「……で、何しに来たんだ?」
俺は放課後になると部室には向かわずに、職員室へと向かった。
今俺が抱えている疑問に答えられるのは尾道先生しかいないと思ったからだ。
「あんたなら教えてくれると思ったんだ」
「おいおい、高校生なんだから主語を言え」
頭痛を押さえるようにこめかみに手を当てて、やれやれと頭を振る尾道先生。……その姿を見て、イライラが込み上げてくるがここは我慢だ。ここで俺が話の腰を折ってたら意味がない。
「園咲がいじめられてるのを見た」
俺が改めて話すと尾道先生は悲しそうに瞳を伏せた。
「……そうか。それで? お前は何が聞きたいんだ?」
「園咲のことについて」
俺は即答した。
何故、園咲は女子たちにあんな目に合わされているのか、そしてなんであいつはあんなことされておいて何も反撃しないのか。
いつものあいつなら「ふっ、低脳な奴らめ、我が魔法にて灰にしてやろう……!」とか言いそうなのに。
「部室にけしかけたのはあんただろ。だったら訳を知ってるはずだ」
俺が真剣な眼差しでじっと見ていると、尾道先生は諦めたように両手をあげた。
「……分かったよ、話してやろう。ただし、むやみやたらに話回るんじゃないぞ」
釘を押すように尾道先生は言ってきたが、あいにく俺には話して回る趣味はないし、そもそも話す相手がいない。
だが、ここで冗談言っても仕方ないので、俺は頷いて先を促した。
「……まず、あいつはなんであんな格好してると思う?」
「は? ただ単純に中二病だからじゃねぇのか?」
「まぁ、その可能性も否定しきれないが」
ばつが悪そうに、言葉を濁す尾道先生。
言った俺が言うのもなんだけどさ、少しは否定してやれよ。
「あいつはな、ハーフなんだよ」
……は?
なにそれ、あいつハーフだったの?
「じゃああいつの目の色はカラコンとかじゃなくて?」
「ああ、正真正銘本物だよ」
「……あいつがハーフだってことは分かった。でも、そこからどうして女子にいじめられるようなことになるんだよ」
「まぁ、その事については本人から聞け。これ以上はプライバシーに関わる」
そして、俺は先生に急かされるように職員室を追い出された。
……ここまで踏み込んだ以上、もう今更後戻りなんてカッコ悪いことは出来ない。
俺に出来ることなんでたかが知れてるが、それでも、何か出来るかもしれない。
物語の主人公のように、綺麗に物事を解決できないかもしれない。
だが、このまま見てるだけなんてのは、気にくわない。
まず出来ることは、園咲を探しだして話を聞くことだ。
……俺ってやつはこんなに他人に対して行動できるやつだったか……?
俺は苦笑しながら、顔をあげた。
そして、俺は園咲を探し出すため、走り出した。
次回、園咲編最終回予定ですので気長にお待ちください。
更新予定日は恐らく日曜日になりそうです。