夜中の攻防戦
その後も、夜になると西城と電話をした。
その日以降も窓をドンドンと叩いたり、チャイムを連打する音が電話越しに聞こえてきた。
だが、俺には何も出来ずに電話をして励ますことしか出来なかった。
別に情けないと笑ってもいいぞ。事実だしな。
しかし、いつまでもなにもしていない俺じゃない。ここからは俺のターンだ。
ーーーーーーーーーーーー
「張り込みですか?」
そう、俺は夜に張り込む事を決意した。
本当はだいぶ前に、この案は思い付いていた。
しかしこの訳の分からないイタズラも、たった二、三日くらいしたら収まるだろうと楽観的に考えていた。
それにこの県では、夜十一時以降外を出歩くと下手したら補導されかねない。
だからそこまで積極的に動くことが出来なかった。
だが流石に限界だ。俺も電話に付き合ってあまり眠れていないが西城の方がもっと酷い。
隈はもう化粧をして誤魔化さないといけないくらいになっているし、この頃笑顔も見ることがなくなっていた。
だからとっとといつもの西城に戻って欲しかった。いつものバカみたいな西城じゃないとこっちも調子狂うからな。
「それじゃあ、今夜から決行するぞ。……毎日来てるわけだからすぐに決着はつくだろうが」
俺は決意新たに宣言した。やっぱり決意表明とかって大事だと思うんだよね。
「よろしくお願いします」
西城は頭を下げていた。その声には以前のような明るさは無くなっている。
……やっぱり調子狂うなぁ。
ーーーーーーーーーーーー
深夜二時頃。
西城に家の住所を教えてもらい、近くの路地に隠れている。
日中ならすぐにバレるだろうが、今日は曇りで闇が辺りを支配している。なので暗めの服で固めた今の俺は早々見つかる心配はない。
むしろこっちが不審者として通報されるレベル。
今、西城は部屋にいるみたいだ。ここからは西城の家がよく見えるので分かる。
その時、歴史が動いた。
……じゃなくて、背後から物音がした。
警察に見つかったと思い、さっと振り替えると、帽子にマスクに長袖ジーパンの明らかに不審者と呼んでもいい人物が立っていた。
「…………」
「…………」
両者突然の事に無言で向き合っていた。
何て言うんだろう、例えるならば、近所であまり仲が良くなかった知り合いとばったり会ったような気まずさ。
…………まぁ俺にはそんなに知り合いいるわけないんだけどね!
その時、月明かりが射し込み俺の方を照らした。
その瞬間、俺の顔を見た不審者は動揺したように慌てて踵を返し颯爽と走り出した。
「…………ちょっと待てやぁぁぁ!」
いきなりの事で少しの間呆然としていたが、はっと我に返ると俺も不審者の後を追いかけた。
しかし、俺は普段運動をしていない男子。
あまり持久力がないんだ。
普通に走っていたらまず追い付けないだろう。なので俺は走りながら携帯を取りだしマップを起動した。マップを横目で確認しながら前を行く不審者が曲がる角を予測しその先に回り込むように細い道を走り抜ける。
物陰からそっと道を覗くと、不審者は俺を撒いたと思ったのか足を止めた。膝に手をつき、ハァハァと荒い息を吐いている。そりゃそうだろ、マスクして走ったら息苦しいに決まっている。
「さぁ、鬼ごっこは終わりだ」
俺は後ろから近づいていった。
ビクッとしてから、ゆっくりとこちらを振り返った不審者。
僅かに見えるその目は驚愕で見開かれていた。撒いたと思った男がいきなり出てきたらそりゃ驚くだろうな。
その瞬間、俺は飛びかかった。
相手が武装しているかもしれないとかそういうのは考えてもいなかった。
ただ目の前のこいつをぶちのめす事だけしか頭になかった。
不審者をアスファルトに叩きつけるようにして馬乗りになる。
そうして反撃される前に、一発ぶん殴った。
苦しげに不審者は「うっ!」とその痛みに呻いた。
俺も初めて人を殴ったのでその痛みに驚いた。拳がじんじんと痛む。
その一瞬の隙を不審者は見逃さなかった。
振り払うように体を揺らして俺と不審者の位置は入れ替わる。
しまった……!
不審者は俺の顔をお返しとばかりにぶん殴った。頭が揺さぶられるような感覚を伝えて思考が停止する。
……やべぇ、意識が持ってかれる。
薄れ行く意識のなか俺は西城の事を考えていた。
俺がここでやられたら西城はきっと悲しむだろう。自惚れでもなく俺はそう思う。
しかも、俺がやられたら西城はどうなる?絶対に酷い目に合うに違いない。
ここで言ったら伏せ字だらけになるようなことをされるに決まってる。
…………そんなの、許されるわけねぇだろ……!
その瞬間、俺の意識は急激に覚醒し始めた。
きっとアドレナリンでも大量に出ていたのだろう。体の痛みも感じなくなっていた。
今の俺の姿はマンガやアニメに出てくるような主人公のようにカッコよく輝いてはいないだろう。でも、親友を助けるためなら、どんなにカッコ悪かろうが、汚かろうが関係ない!
俺が静かになった事で油断していたのだろう。いきなり振り落とされて反応が少しだけ遅れた。
そして立ち上がりかけていその腹を目掛けて俺は鳩尾に拳を叩き込んだ。
流石の不審者もこれには耐えきれなかったようで、ドウっと不審者は仰向けに倒れこんだ。
「……ハァハァ、へっ、見てみろ。俺はやったぜ!」
まだ起き上がるかもしれないと警戒していた緊張が解けて、俺は繋ぎ止めていた意識を手放した。
向こうの方で「……先輩!!」と呼ぶ声がしていたがきっと気のせいだろう。
初めての戦闘シーン?でした。
私はあまり戦闘描写が得意ではありません。まぁ他のも上手いとは言えないのですが(笑)
普段あまり感情を露にすることのない拓也ですが、このお話でどれくらい親友に対する思いが強いのか分かっていただけたら嬉しいです。上手く伝わらなかったらすいません、私の文才がないんです。
またよければ次回も読んでみてください。
それと、この物語が何と一万pvを越えました!
たかが一万という方もいるかもしれませんが、私はとても嬉しいです!これも読んでくださる読者が居ての事です。本当にありがとうございました!