嵐の前の静けさ
目が覚めると、もう昼頃だった。
まだ、眠りたいという頭を黙らせて、起き上がる。
すると、まるで俺が起きるのを待っていたかのようにチャイムが鳴った。
この時間帯で我が家を訪れるのは、一人しかいないよな。
「結構、早かったな」
ドアを開けて迎い入れる。
「折角の先輩との登校イベントですからね」
幸いなことに、西城は元気そうだった。
……てか、登校イベントって俺はいつから乙女ゲームの攻略対象になったのかな?
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まぁ起きれたとはいっても、まだ頭は覚醒していなくて、朝昼兼用の飯を西城と食いながらだらだらと過ごしていた。
でも流石に学校に行かなくてはいけなくて、身支度を済ませて、ずるするとまるでゾンビのように俺と西城は学校へと向かった。
さて、ここで俺は一つの重大なミスを犯すことになる。
このペースで行けば、学校に着くのは午後一時だろう。
うちの学校は校庭を見下ろせるように校舎が建っていて、校舎に入るためには校庭横に整備された通路を通らなくてはいけない。
もちろん、校舎からはこの通路は丸見えだ。
さぁ、察しの良い方ならもうお分かりだろう。
よくわからん男と、学校でトップを争うくらいの美少女が昼近くに登校してくるんだぞ?
案の定、学校は大パニックに陥ったとさ。
ああ、またクラスでの居場所が無くなっていく……。
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さて、午後の授業はクラスの連中からのまるでレーザーのような視線に耐えて過ごすことになった。
特に男子の視線がヤバイ。
そのうちコンパスでも飛んでくるんじゃないかと、内心びくびくしていた。
にしても、こういうときの男子は醜いな。
推測で物事を判断するから、間違いが起きるんだ。分かったら俺の事を睨まないように。
そんなことを思っても伝わるはずもなく、俺はHRが終わると同時に一目散に教室を飛び出した。
「はぁ……はぁ……」
教室から全力で部室まで走ってきたので息が苦しい。
こういうとき、運動していない男子である俺は少しキツい。ただ運動できない男子ではないのでそこは間違えるなよ?
走ってきたからまだ部室には誰もいない。
俺はまだ治まらない心臓を落ち着かせるためにイスに座った。
そのタイミングでドアをノックする音がした。
……嫌がらせかな?俺が座った瞬間にノックするとか、何その地味な嫌がらせ。
だが、無視するわけにもいかず俺はドアを開けるべく席を立った。
俺はてっきり西城がやって来たのかと思っていたが違った。
「どうも、失礼します」
入ってきたのはあのムカつくイケメン、雪月だった。
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「で、お前は何の用だ?」
俺は向かい側に座っている雪月の方を見ながらお茶を啜った。
因みに、尾道先生がいつの間にか部室に置いておいた湯沸し器と各種お茶パックで作ったものだ。
他にも、湯飲みがいくつか置いてある。
……完全に先生の私物化してるよな。この部室。
「いえ、その後の事をご報告した方が良いかなと思いまして」
「ほう、良い心がけだな」
俺としてはどうでも良いことこの上ないんだが。
むしろ心の奥底にし舞い込んでおいてくれ。
「はい、それでですね。その子とはまだ上手くいったということではないんですが、その子と近くで過ごすことが出来るようになりまして」
流石イケメン(笑)手が早いな。
なんならそこら辺の不良と同じくらいに手が早い。まぁ本当の不良なんて見たことないんだけど、俺が今まで見たことあるっていったら頑張って不良を演じてるような残念なやつらばっかだからな。
本人を前にして言うわけないが。
まだ、西城は来ないみたいだな。
「上手くいったようなら良かったよ」
心底どうでも良いけどな。
そもそも人の事なんか興味ない。
「はい、本当にありがとうございます。それでまたアドバイスをお願いしたいんですが」
「嫌だ、断る」
「何でですか!?」
「面倒だから」
それ以外に理由があるか?そもそも俺に恋愛相談をすることが間違いだ。何度でも言うが、俺は他人に興味ないんだ。
…………西城は例外だけどな。
「そこをなんとかお願いします!」
こいつしつこいな。面倒くさいけどこのままほっとくと、いつまでもここにいるだろうしな。…………はぁ、マジでめんどくさい。
結局、雪月の熱意?に押し負けて、俺はしぶしぶ雪月の相談を受けることにした。
近頃思うんだが、俺って押しが強いやつに弱いと思う。
「それで?今度は何に悩んでるんだ?」
すでにお茶はすでに二杯目だ。
因みに緑茶な。選ばれたのは綾鷹じゃないからな。
ふと、時計を見る。そろそろ西城が来る時間帯か。
「次はどうやったらもっと仲良くなれるのかと悩んでいるんです」
何なの?こいつコミュ症なの?
イケメン(笑)なのに好きな女子に声をかけることが出来ないとかどんだけピュアなんだよ。
その整った顔を俺によこせよ。
それにしてもどうやったら……ねぇ。
「何と言うか、お前って残念なイケメン(笑)だよな」
「酷いですね!?」
俺は事実を言っただけだ。
「とにかくこの面倒な相談を終わらせるか」
「面倒とか言わないで下さいよ!」
うるせぇな、どんだけ元気なんだよ。
俺はほとんど寝てないから頭に響くんだよ。
その時、部室のドアが開いた。
中に入ってきたのは、眠たげにまぶたを擦る西城だった。
心なしか西城が入ってきた時、雪月は嬉しそうだった。やはりこれほどのイケメンでも美少女を見ると嬉しくなるのだろうか。
「あれ?この前相談に来た人ですよね?」
「こんにちは、お邪魔してます」
ええ、本当にお邪魔ですね。
「ああ、また相談があるんだとよ」
「へぇ~、そうですか」
……お前、すげぇどうでも良さそうだな。
大抵女子の『へぇ~』はその話題は私にとってどうでも良いですよ、というアピールに他ならない。
やっぱり女子って怖いね!
「話を戻すが、仲良くなる方法はな」
「……方法とは?」
何故か心なしか身を乗り出してこっちに近づいて来てるような……。
ええい、俺はホモじゃない、俺はノーマルだ!
なるべく距離を離すように、イスを机からずらしつつ答えた
「それはだな…………特にない」
「……………………え?」
「いや、折角答えたんだから何か他のリアクションはないのかよ」
「相談しといてなんですが、他にも何か方法があるんじゃないんですか!?」
「いや、だってそもそも俺は友達がいらない人間だから人と仲良くする方法なんか分かるわけないだろ」
だから、最初に言ったんだ。俺は嫌だってな。
…………おい、俺の事を可哀想なものを見るような目で見るのを止めろ。うっかり家帰ったら泣いちゃうだろ。
「とにかく、依頼完了。さぁお引き取りください」
そうして俺は雪月を立ち上がらせようとする。
触ってみて分かったがこいつ意外に鍛えてんのな。結構がっしりしていた。
別にときめいたりしてないからな、マジで。
「ちょっちょっと待ってくださいよ、だったら西城さんは何かアドバイスありませんか?」
すると西城は何か考えるような素振りをしてから。
「とにかく話して頑張ってみてください」
笑顔で告げやがった。
もはや雪月はうなだれていた。
そして諦めたように立ち上がりこちらに向き合った。
「……また何か進展がありましたらご報告させてもらいます。今日はありがとうございました」
そうしてトボトボとまるでリストラ宣告をされたサラリーマンのように雪月は第二文芸部を去っていた。
その背中は哀愁を漂わせていて、見ているこっちが辛くなるようだった。
……流石に可愛そうだったかな?
まぁそう簡単に物事が上手くいかないってことをあいつも学んだだろう。マンガでも言ってたぞ。
イケメンの醜態ほど笑えるものはない。
正しくその通り。それだけで俺は腹の皮が捻れるほど笑うだろうよ。
「何と言うか、ドンマイって感じですね」
さらっとひでぇ事言うな、こいつ。
「それにしても、今までなにやってたんだよ」
「えーと、ですね~」
何だ?いきなり歯切れが悪くなったな。…………怪しい……。
「何だよ、気になるだろ」
「その、南条先輩と話してました」
「何話してたんだ?」
「ちょっとした世間話ですよ」
まだなんか怪しいが、このまま問い詰めてもはぐらかされるだけだろう。それにしつこい男は嫌われると言うしな。俺はそういうのはしっかりしている男だと自負しているからな。
それにしても、気になるな。何で南条は西城と話してたんだ?……この前の寝不足のこともあるし、ちょっと警戒しといた方が良いかもしれない。まぁ考えすぎかもしれないが。
てか、世間話するくらいには仲良くなってたのか?いつの間にそんなに進展していたんだろう。やはり女子というのは謎に包まれている。
「まぁいいか。そろそろいい時間だろ?帰ろうぜ」
「そうですね。帰りましょう」
……?何だか少しだけ元気が無かったような。あまり寝てないから眠いのか?
とにかく早く帰るに越したことはないだろう。
そうして俺は鞄を背負って部室を出た。
出たところで西城が思い出したかのように俺に話してきた。
「それじゃ、今夜も電話お願いしますね?」
………………あ、忘れてた……。
いつも読んで下さりありがとうございます。
次回は20日の朝か夜頃に投稿します。