近くて遠い距離
さて、夜の十一時。
俺は飯を食い終わり、風呂にも入りリラックスしてソファにだらしなく寝転がってテレビを見ていると突然、携帯が音楽を鳴らし始めた。
うわぁ、本当にかかってきた。
躊躇して電話をとるのが少し遅れた。
だが、もし緊急性のあるやつだったらまずい。
しぶしぶ俺は電話にでた。
「なんだよ」
『遅いですよ~、もう寝ちゃったのかと思ったんですよ?』
もう少しかかってくるのが遅かったら寝てたな。
「そんなことより出たのか?」
『いえ、今のところは。そもそも昨日出たのが深夜二時くらいですからね、先輩にはそこまで付き合ってもらいます』
「えっ、俺も明日学校あるんだけど」
『こうなったら一蓮托生です!先輩覚悟を決めましょう』
嫌に決まってんだろ。なんで俺まで巻き込まれてんだ?
しかし、俺には西城の電話を切ることは出来なかった。
いや、一回切ったんだがすぐに電話がかかってきた。
その時点で俺は諦めたね。
『なんで切っちゃうんですか!?』
「いや、眠かったから」
睡眠不足は美容の敵だからね。
アニメ見てて思うんだけど、なんで主人公とかヒロイン、モブに至るまで肌にニキビないの?君たち思春期でしょ?せめて一人くらいいるだろ。
それともあれか?仕様ですか?
『もう少し付き合ってくださいよ』
「…………」
もうどうでもいいや。
ーーーーーーーーーーーー
その後、深夜二時くらいまで電話は続いた。
女子の電話は長いというが、まさかここまでとは、恐るべし。
流石に深夜一時くらいを越えた頃になると、意識は朦朧とし、自分が何を言ってるのかもあやふやになっていく。
たまに夜更かしするときがあるが、そのときのテンションのパターンは二つに分かれる。
一つはただ眠いのだが意地で起きているとき、もう一つは異常なテンションになるときだ。何でだろうな、普段なら絶対しないようなことまで平気でやっちゃうんだよ。夜中なのに大声で歌ったり、踊り出したりたいして面白くもないアニメ見て興奮したり、皆もこういうのあるよね?
さて、ここで問題は起きた。
『っ!』
電話の向こうから息を飲む音が聞こえた。
ここで俺の意識は覚醒した。
なんか覚醒とか言うとちょっと中二病ぽいよね。
眼帯とか、白い髪の毛とかすごく憧れる時期が俺にもありました。
「どうした?」
『今、チャイムが鳴りました……』
電話に意識を集中させると、微かにだが確かに聞こえる。
…………マジかよ……。
本当に現れやがった。
「とにかく下に降りるな。部屋のドアに鍵は付いてるか?」
『はい、付いてます』
「だったら鍵をかけて部屋から出るな。このまま俺と話してろ」
緊急の時ほど冷静に行動しなくてはいけない。
とりあえず、今の西城に出来そうな事を指示していく。
「おい、大丈夫か?」
『ええ、なんとか』
「それと、何があってもこの電話は通話状態にしとけ。カーテンも開けるな。部屋に明かりもつけるな。いいな?」
すると電話越しにごそごそといじる音がする。
よし、とりあえずこれでいいだろう。
変態撃退特集読んでおいて良かった。何で週刊紙とかどうでも良いようなことも面白そうに書くんだろうな。……いや、それが仕事だからな。流石プロ。
しばらくすると電話の向こうから怖がっている気配が感じた。
『先輩、私どうなるんでしょうか』
声が震えていた。
あの西城が本当に怖がっていた。
きっと今にも泣き出しそうになっているのだろう。
……いったいどこのどいつだ?西城をここまで怖がらせるやつは。
絶対、犯人にはいつの間にか握りしめていたこの拳を受けさせてやる。
覚悟しろ。
…………絶対に許さねぇ。
犯人にもムカつくが、ほとんど何も出来ない、今の俺にも腹が立つ。
親友が怖がっているのに、側にいて励ますことも出来ない。
へっ、何が親友だ。笑わせる。
ああ、くそっ!本当に腹が立つなぁ……!
「……大丈夫だ。俺がさせない」
『……何ですか?それ、マンガの台詞みたいですね』
西城が元の西城に少しだけ戻ったように感じられる。
残念なことに、今俺が出来ることはこれくらいだ。
ひとまず、俺は西城が怖がらないように話しかけ続けよう。
それしか今の俺には出来ないんだ。こういうとき某猫型ロボットのピンクのドアが欲しい。それがあったら今すぐにでも駆けつけることが出来るのに……。
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その後も西城に話続けて、気がつくと窓の外が明るみ始めていた。
よくアニメとかだと、雀がチュンチュン鳴いてるけど、普通はカラスが鳴いてるからな。
まぁだから何だよってことなんだけど。
……それにしても、完徹なんて久々だぞ。
この前やった、アニメ二十四時間マラソン以来だな。
ネットで神と呼ばれる過去の作品を見たんだがやべぇな。柄にもなく泣いてしまった。
あの○でも泣かなかった俺が過去の作品で泣くなんて……。やはり先入観で決めつけたらダメだな。
「……ふわぁ、やべぇ眠い。もう大丈夫だろ?」
『ええ、大丈夫そうです。ありがとうございました。先輩』
「別にこれくらい大丈夫だ。それよりも今日は俺、学校遅れていくからよろしく」
『ちょっ、先輩ズルいですよ、私も遅れますので一緒に行きましょう』
あー、ダメだ。もう何も考えられない。
いつもの俺だったら絶対に断っていただろう。
だけどな。本当に眠かったんだ。
だからもう、勝手にしてくれ。
俺は緊張の糸が切れたようで、そのまま布団に倒れ込んだ。
いつも読んで下さりありがとうございます。
この第二章はもう少し続きます。
どれくらいなのかはまだ私自身もわかってないです(笑)
それでもよければ、最後まで読んでもらえると嬉しいです。