第二文芸部への来訪者
教室からは騒がしい声が響いてくる。
昼休みだからか、机を囲んで様々な話に華を咲かせている。
まるで、青春ドラマのワンシーンのようだが、ただ単にうるさいだけだ。
さて、そんな俺はいったいどこにいるのかというと、第二文芸部の部室にいた。
いや、別に教室に居場所がないってことじゃないからね?確かに肩身が狭いけど、あるにはあるんだ。嘘じゃないからな。
俺がなんでこんなところにいるのかは理由がちゃんとある。
尾道先生から「昼休みに部室に集合、来なければ死刑」と言うどっかで聞いたことのあるフレーズをHRが終わった後に言ってきた。
チャイムが鳴ってから直ぐに来たはずなのだが、既に部室には西城と先生が座っていた。
…………君たち、授業は?
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「で?俺たちを呼んだ理由はなんですか?」
「放課後に相談に来る生徒がいる。君たちにはその生徒の悩みを解決してやってほしい」
う~ん、なに言ってんのかな?俺がおかしい訳じゃなくて、この人がおかしいんだよね?
「顔に出てるぞ」
だから、なんで分かるんですか?俺、そんなに顔に出ます?
「まぁ、いい。この部活は何でも屋と言ってもいい。ジャ○プ風に言うと万事屋だな」
要するにだだの雑用じゃねぇか!
そもそも、ジャ○プの方は戦ってるし。
俺、木刀なんか持ってないよ?
「まぁ、とにかくよろしく頼む。君も誰かの相談に乗れば対人コミュニケーション能力が向上するかもしれないしな」
本当かよ。てか、そもそも必要としてないんですけど。
「先生、質問なんですけどその生徒って女子ですか?男子ですか?」
今まで不気味なほど静かだった西城が初めて発言した。
…………ちょっと、西城さん?「女子ですか?」って言ったときのあなたの目、本当に怖かったよ?なんでそんなに警戒してるんですか?
「…………ああ、安心したまえ。女子ではなく男子だ」
「……そうですか」
そう言うと、西城の目から黒いオーラのようなものが消えた。
……覚えておこう。西城は怒らせると恐ろしいということを。
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「で?お前が相談者か?」
「はい、よろしくお願いします」
放課後になり、部室で待っていると本当に来た。
見た目は……ムカつくほどのイケメンだ。けっ、何だよイケメンって。カッコよければそれでいいのかよ!?
くそっ!女子たちよ。目を覚ませ!大人にな
ったら性格が良いやつと一緒になった方が絶対長続きするからな!
「あの~、続けてもいいですか?」
おっと、あまりにもムカついていたから居ることを忘れていたよ。ハッハッハッ、どうぞ?続けやがれ!
「どうぞ」
俺がなにも言わなかったので、西城が代わりに言った。流石、西城!そこに痺れる憧れるぅ!……まぁ、嘘だけど。
「学年は西城さんと同じ一年です。クラスは言った方がいいですか?」
「いや、別に言いたくないなら言わなくても良いぞ」
「ありがとうございます。あっ!名前を言ってませんでしたね。雪月 颯太と言います」
よし!覚えたぞ。気を付けろよ?明日から下駄箱に釘が入ってるかもしれないからな。
「それで?相談事は?」
「…………その、笑わないで欲しいのですが」
何?痔に悩んでるとか?だったらボ○ギノール買ってきてやろうか?
「実は、恋愛相談をしてもらいたいんです」
…………う~ん、こいつ殴られたいのかな?
こんなにイケメン(笑)なのに、恋愛に不自由しているというのか?ふざけんなよ。だったら俺みたいなやつらはどうすればいいんだ?
……まぁ、俺が誰がと付き合うとか想像できないけどな。
「へぇ~、雪月くんってカッコいいのに恋愛で悩んでるんだ」
やはり女子からしてもカッコいいのか……。
「いや、そんなにカッコいいわけじゃないよ」
……こういうときの謙遜が一番ムカつく荒木拓也です。
「いいからとっとと本題に入ろうぜ?なんでお前は悩んでるんだ?」
この質問には少し間が空いた。
だが、覚悟を決めたようにその無駄に整った顔をあげるとこちらを見つめてきた。
なに?もしかしてホモとかそういうパティーンですか?
「…………好きな人がまったく僕に振り向いてくれないんです」
「とりあえず、表に出るか?」
「なんでですか!?」
だってこいつなめてるだろ?そんなことでいちいち悩んでたら、思春期の健全なる男子たちは悩みまくって、ストレスでもれなく全員禿げるわ。
「とにかく、僕は悩んでいるんです。どうしたらその子が振り向いてくれるのか、なにかアドバイスを貰えませんか?」
「と、言われてもまともに恋愛したことないしな」
「先輩、恋愛したことないんですか?」
「あるわけないだろ。そういうお前はあるのか?」
「私は現在進行形で一方的な片想いですけどね」
じっとこちらを恨めしそうに見てくるな。
しかし、墓穴掘っちまったなぁ。
やはりいつかはこの問いに対して俺なりの答えを出さなきゃいけないんだろうな。
この前は親友で誤魔化したが、確かに西城は俺にとっては親友でいてほしいし、それ以上の関係性になりたいと思う自分もいる。
だが、そこまで俺は西城と釣り合ってるとは思わない。では、釣り合ったらどうなるかと言われると、それも何とも言えない。
う~ん、どうにも考えがまとまらない。
すると、視線を感じて前を見ると雪月がこちらを真剣に見つめていたが、直ぐに元の状態に戻った。…………気のせいか?それともやはりホモなのか。
やめてくれよ?俺にはそっちの趣味はないんだ。
とにかく、俺はさっさと帰りたいんだ。
適当なことを言ってお帰り願おう。
何よりこいつのキラキラ光る顔をみてるとムカムカしてくるからな。
どっからこのキラキラ出てきてんだよ。あれかな?Blu-rayだと、とれるのかな?
「……そうだな。だったら積極的にいってみたらどうだ?お前は顔は整ってるんだ。だから相手もイチコロだと思うぞ?」
おっと、確かに顔は整っているが俺は男は好きじゃないからな。
すると雪月はぶつぶつと「積極的……」と呟いていた。
だが、次の瞬間には元通りになっていた。
「……わかりました、積極的にいってみようと思います。相談に乗ってくださりありがとうございました」
そして、雪月は「失礼します」と言って部室を出ていった。
おい、塩撒いとけ!
「カッコいい人でしたね」
西城が雪月が出ていった扉を見つめていた。
「……お前はああいうのが趣味なのか?」
「なに言ってるんですか、私が好きなのは先輩だけですよ」
「………………」
俺はなにも言わなかった。というか西城、その分かってますよっていう顔を止めろ。見ていて腹が立つ。
あーっ、この見透かされた感じ嫌いだ。
でも、そんなに嫌いでもないと思う自分もいるからどうしょうもない。