神はやはり美少女に味方するのでしょうか?
翌週
眩しい朝日が恨めしい。
ちょっとは抑えろよ。吸血鬼だったら直ぐに死ぬレベルだぞ。
まぁ、それほど眩しいってことなんだよ。
春なのにとても元気な太陽を見上げて、つくづく温暖化が進んでるんだなと、実感する。
それにしても、昨日は酷かった。
何をするわけでもなく、ただ泥のように眠り続けていた。
いつの間にか、西城は帰ってるし。
気づいたらもう、夕方だったし。
何というか、物凄く駄目な休日の過ごし方だったと思う。
……反省はしないけどな!
穏やかな春の風が俺の頬を撫でていく。
なんて、柄にもなく感傷に浸っていると後ろから誰かに肩を叩かれた。
「……おっはよう!拓也」
……永遠にお休み、南条。
「何で朝からハイテンションなんだよ」
もうやめて、お前のそのテンションの高さを見てるだけでもう吐きそう。
「そりゃ、こんなにいい天気なんだもん。テンションも高くなるよ!」
「へぇ~ そうですか、私はならないので黙ってて下さい」
そう言って、俺は南条を置いていくように学校に向かった。
後ろからは「待ってよ!酷いよー」とか言ってるけど無視無視。
この時の俺は、きっと競歩で金メダル取れるくらいに速かったと思う。
……いや、盛りました。せいぜい三輪車に勝てるくらいです。
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まぁ、こんなことがあってあんなことがあって、気づいたら放課後でした。
……別に授業とか興味ないでしょ?
俺だって、必要ないなら学校なんて行ってないよ。
πrとか、いつどこで使うんだよ。
俺は文系だから数学は、足し算引き算とかけ算くらいが出来てれば充分なんです~。
そもそも、証明とかも使う場面が全く思い付きません。
……俺は今大多数の数学者を敵にしたな。
……ところで、何でπrだけは覚えているのかは、健全な男子高校生活を送ったことのある、男性諸君なら分かってもらえると思う。
…………分かってくれるよね?
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「何でお前もテンション高いの?」
放課後になり、特に予定のない俺はせめて無事に高校を卒業するために、第二文芸部に足を向けた。
部室には明らかに、今最高にいい気分です、と顔に書いてある西城がいた。
「だって一昨日いってくれたじゃないですか」
はて、なんのことだろう。
「……先輩、顔に出てます」
マジかよ。
俺って結構ポーカーフェイスが得意だったんだけどな。
それじゃあ今度からは、表情が豊かですって履歴書とかの特技記入欄に書いておこう。
……絶対バカにしてるだろって怒られそう。
「……分かってるよ。出掛ける話だろ?」
「違いますよ?」
あれ?てっきりその話だと思ってたけど。
実際、今になって面倒になってきた。
ラッキーなんて思っていると西城が再び口を開いた。
「デート、ですよ?」
イタズラに成功した子供のようにクスッと西城は笑った。
いきなり、そんな表情をされたので少し、というかかなりドキッとした。
「あ、ああ、そうだったけ?」
噛んでしまったが、しょうがない。
誰だって不意を突かれたらこうなるだろ?
だから、俺の反応は普通のはずだ。
そう、なにもおかしいことはない。
「そうですよ~、まさか忘れたとか言って誤魔化すつもりだったんですか?」
その下から覗くの止めろ。
心臓に悪い。
こいつ、先週よりもなんか積極性の方向性が変わってないか?
何というか、可愛く見せようとしてる……?
それとも、ただの勘違いか?
うーむ、やはり三次元というのは理解しがたいな。
二次元万歳!二次元なんて考えてること丸分かりだからな。
そんな風に考えてることが分かれば勘違いする哀れな男子たちも救われるのに。
ああ、神よ。どうして過酷な試練を我らに与えるのでしょうか。
「……せんぱーい、戻ってきてくださーい」
……何だよ。あともうちょっとで新たな悟りを開けるところだったんだぞ。
出来たらアラキ教団とかにしてガッポリ儲けるはずなのに。
くそっ、やはり神は我々を見捨てるというのか……!
「……勝手に行く場所決めちゃいますよー」
「はい、すいませんでした」
勝手に決められてえげつないくらいに高いところに連れていかれたら、たまったもんじゃない。
「……まずは先輩は何か希望ありますか?」
「家から出ない」
最初は行く気でも、時間が経つと面倒になって結局行かないってことない?
まぁ、ただ単に俺が出不精なだけなんだけどな。
「だったら私が決めます」
「……まぁ、特に希望は無いが高いところは止めてくれよ?金が足らんからな」
そう、この世は金さえあれば何でも出来るんだよ!!
ってどっかのマンガで読んだ気がする。
「別に心配しなくてもそんなに高いところには行きませんよ」
「じゃあどこに行くんだ?」
ここで西城はゴホンと咳払いをして得意気に宣言した。
「ネズミの王国です!」
………………ああ。
カップルで行ったら、あまりの待ち時間の長さで話が続かずに、気まずくなって別れてしまうという、例のテーマパークだろ?
夢の国とか言っときながらリア充をブレイカーしまくるとか、マジで尊敬します!どうかその技を世界中の非リアにも伝授してください!
リア充撲滅運動を私は応援しています。
「別にいいけどさ、あそこ人も多いし、並ぶのだるいし面倒なんだよな」
カップルが別れることでも有名だが、人がゴミのようにいることでも有名だ。
クリスマスの最寄り駅の様子なんか、マジで死人が出るくらいに人がゴミのようにいた。
「いいじゃないですか、並ぶ時間が長ければ長いほど先輩と話す時間が長くなるってことじゃないですか」
……ほう、そういう風に捉えるのか。
だが、俺には会話を持たせるほどのコミュ力はない!
「先輩、声に出てます」
「……えっ、マジで?」
「マジです」
恥ずかしいよー、穴があったら入りたい気分ってこんな感じなのかよー、もうそのまま引きこもろうかなー。
そうしたら出掛けないですむ。
「まぁ、話題については私で色々考えておくんで大丈夫です」
……………………なんか俺って男としてどうなの?
色々と西城に、リードしてもらってばっかりなんだけど。
「それじゃあ、今週の日曜日に行きましょう!」
「…………でも、金が足りるかどうかなんだよな」
実際、仕送りなどで生活をしている俺には、この出費は正直キツイ。
「話は聞かせてもらった!」
「うおっ!」
いきなり声がして驚いたが、ドアの前にいつの間にか尾道先生が立っていた。
「二人は今週の日曜日にネズミの王国に行くんだろ?ならこのチケットを持っていけ!」
そう言って、先生が差し出したのはネズミの王国のペアチケットだった。
なんか、よくゲームとかで都合よく主人公たちを助けるNPCみたいだな。
「先生、どこでこんなの手に入れたんですか?」
西城が気になったのか先生に質問していた。
「……ああ、これは町内会の福引きで当たったのだが、私には行く相手がいないのでな、持て余していたところだ!」
部室の空気が一瞬で暗くなった。
心なしか窓から見える空が灰色に見える。
遠くからカラスの鳴き声が、虚しく響いてくる。
「ま、まぁそういうことだ。楽しんでこいよ!」
まるでそこから逃げるように走り去っていった。
ガチのダッシュじゃねぇか。
今回は出番があったけど、可哀想な先生に敬礼!
「と、いうことで先輩?もう逃げれませんよ?」
どうやら神は西城に、味方したようだ。
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こうして、俺は日曜日に出掛けることとなった。
……まぁ、楽しそうな西城を見れただけでも大いに価値があるか。
そう、自分を納得させて俺は鞄から読みかけの文庫本を取り出した。
…………一応は活動もしないとな。