表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なまえのないうた  作者: pu-
第一章 おかしな少女とへんてこな歌
4/40

3.拒絶する世界

 当然のことながら運動神経も抜群にいいヴェントだ。その背中は、制止する間もなく消えてしまった。

 しばしの間のあと、二人はほぼ同時にそれぞれ少し異なった意味を持つため息を吐く。


(何が『これもアシストだろ?』だよ……)


 ちらりとファルステールは横目でルノを見る。すると、妙に意識をしてしまう。アシストというよりも、どちらかと言えばキラーパスだ。


「んもう。渡すものがあったのに……」

「渡すもの?」

「うん。これ」


 困り顔のまま、手に持っていた濃度の薄い青の〝魔石〟(オクルタ・ユヴェール)を差し出す。

 と、石はほんの僅かだか色を薄め、淡い青光を発しながら〈複写〉の紋様が宙空に浮かべた。

 その紋様がバラバラに崩れる。そして、新しい形を形成し始めた。ルノが望んだ姿に。

 ほぼ一瞬にして、一枚の紙が現れた。


「う~ん。あんまり上手くいかなかったかな?」

「いや、充分だよ!」


 それでも石の消費率に満足していないのか。ルノが首を傾げながら、「明後日に行われる実技訓練の内容事項ね」現れた紙をファルステールに手渡した。


「この前、ラーフォ先生が言った内容と変わりはないみたいだよ?」

「まぁ、さすがに明後日だしね。急な変更はしないでしょ。いくらあの人でもさ」


 なんて苦笑いするファルステールが手に持つ資料を、ルノが覗き込む。

 その距離。彼女の肩が触れるか触れないかという近さ。密着には程遠いが、それでも喉から心臓が飛び出そうなほどの驚きであった。

 下手に意識をしてはいけない。平常心を保たなくては。ファルステールは自らに言い聞かせながら、ぱらぱらと明後日に控えた訓練内容が記された書類を目に通す。



『■日時:六月二八日(土)・十三時(琥珀の庭園(スクツェーノ)内時刻)

 ■場所:〈星域(せいいき)〉外・旧メグメル皇国シーフィネハ城跡近辺

 ■内容:〈魔法少女(マギスティーノ)ファルサコロソ〉による行動訓練

 ■参加クラス:邀撃科第一等生徒A~Cクラス・全五三名

 ■担当教師:統括担当・ラーフォ・セプデクオク ・インスラル・ナウデクナウ

 ・他教師六名 ・軍関係者二名

 ■使用〈魔法少女(マギスティーノ)〉:・〈アクタコヌス〉 ・〈ファルサコロソ〉八機

 ■備考:ビックゲストが来るかもよ❤』



 資料を読みながらも、ちらちらと盗み見していたファルステール。

 と、ルノと瞳が合う。


「ん? どうしたの?」


 なんて言われ、ファルステールは考えもなしに咄嗟に喋る。


「ルッ、ルノさんはさ、〈星域〉の外に出たことある?」

「えっ? まさか」

「だよね。うん」


 ファルステール達がいる、ここ。学園ツィトロンも存在する〈星域〉琥珀の庭園(スクツェーノ)は、その昔ラグナロク大陸と呼ばれていた場所にある。

 だがしかし、今ではその名は存在しない。

 その存在を『拒絶』されたのだから。


 今から約四〇〇年、人類は世界の全てに『拒絶』された。〈星域〉以外の全てを。

 何の前触れもなく訪れた『天吏(リフューゾ)』という、その異常(きょぜつ)現象(・・)

 それは人類を『拒絶』する存在にして、世界の意志が具現化したもの。

 人類が世界に『拒絶』されたと同時に発生した存在にして、神の不在証明そのもの。

 それによって、何千年にも渡って人類が築いた、ありとあらゆる文明をこの世界に『拒絶』される。

 現在、〈星域〉の外側には人類が存在していた名残の一片すらない。在るものは、『ラグナロク大陸と呼ばれていた大地』だ。


「ルノさんは、不安?」

「……うん」

「……だよね」


 ぽつりと呟き……ファルステールは電光石火の速度で後悔する。『何、情けないことを言っているのだ、俺!?』と。

 先程の返事とともにふっと浮かべたルノの微笑みの隙間に、不安を垣間見る。だからだ。また、考えもなしに言葉を紡いでしまった。


「ま、でもさ。〈魔法少女(マギスティーノ)〉に乗っている以上、心配はないよね」


 世界に『拒絶』される理由など分からない。ただ分かることは、世界に一歩でも出れば、たちまち存在を『拒絶()』されてしまう。

 そして、人類の敵対者にして『世界』の代行者である『天吏(リフューゾ)』に対する数少ない手段が、〈魔法少女(マギスティーノ)〉。

 世界に対し、〝魔石〟(オクルタ・ユヴェール)以外の攻撃手段は全て『拒絶』されてしまう。


「でも確か、訓練中に襲撃されたこともあるって、先生も言っていたよね?」

「らしいけど……でもさ、それは学園創設当時のことでしょ? 今では〈創天球儀(トゥタルバム)〉の精度も向上しているから、〈星域〉近辺の出現予測もできていることだし。『気を抜くな』っていう注意の意味合いの方が大きいと思うよ」


 それに万が一の状況のために八機もの〈魔法少女(マギスティーノ)〉が配備される。

 また、ここ二〇年は『天吏(リフューゾ)』襲撃の記録は一つもない。負傷者こそ稀に出るものの、訓練中に死人が出たという記録は半世紀以上ない。


「うん。そうだよね――ありがと、ファルステールくん」


 笑うが、不安が拭えたわけではないよう。

 他に彼女に言葉を――そう考え、焦る最中、


「あっ、いた!」


 沈みかけた空気を変えたのは「ファルステールくん、探したんだよ」息を切らせるヴァルマ・トリデクドゥ、彼女の声。

 正直、助かったと思い、自己嫌悪する。

 それでもファルステールはそれに縋った。


「俺に何か用?」

「ラーフォ先生が、ファルステールくんを呼んでくれってさ」

「何かしたの?」

「いやいやいや!」


 小さく、悪戯っぽく微笑むルノに、諸手を振るファルステール。内心、いつもの明るさが戻ったことにほっとしている。


「ま、ラーフォ先生(・・・・・・)だから(・・・)……頑張って」


 それはまるで死刑宣告だ。

 なんとなく、呼ばれた理由がそれほど重要なものではない(ファルステールにとっては)と察する。

 だからであろう、ずんと身体が重くなる。

 行きたくはないと、全神経が拒絶をしている。

 しかし、ふければより恐ろしい顛末が待っているはずだ。

 何せ、ラーフォ教師のご指名(・・・)なのだから。


「じゃあ、頑張ってね」


 にこやかに手を振るルノ。そこにはほんの少しだけ、これからファルステールに降りかかる災難を楽しんでいるように見えた。

 それでも魅力的だと、小さく手を振り返しながら再確認をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ