魂に刻まれた記憶
始まりは、黒だった。
何もない世界、何もない空間、本当に何もない真っ暗な世界。
そこで神は私に問う、何が欲しいかと問うから私は答える。
「何も無いのは寂しいから、家族が欲しい。友達も欲しい」
ならばお前には無い勇敢さと強さを持った姉と、美しさと弱さを持った弟を作ってやろう、って神は言った。
友人には全てを見通せる少年と、静かに見守ってくれる少女を友人に用意してやろう、って言った。
姉は太陽で、弟は海、少年は空気で少女は大地。だから私は夜空になれ、だって。
うん、何も無くて寂しいのより素敵だと思う。
神はすぐに作ってくれた、姉と弟と友達。
姉はすっごく熱くて、燃えてて大きかった、大きいから見上げるのが大変だった。
それに、私は夜空だから姉には触れない。
でも弟はすっごく小さかった、触るとつるつるしててひんやりしてるの。
でも私は夜空だから、すっごく手を伸ばさないと触れない。
少年は姿が見えなかった、少女も大きかったから全部見るのが大変。
だから神にお願いしたの。
「もっと、いっぱい遊べるような姿にして欲しい」
お願いしたら、私は夜空から落っこちた。
気付けば姉は燃える様な朱色で大きな角が生えてて、強そうだった。
弟は大地でころころしてる青い色の可愛い生き物になってた、あんまり強くなさそうだけど可愛い。
少年は緑色で大きな角が生えてたけど一本角、すごいはやく走れそう。
少女は黄色くって角が生えてたけど小っちゃい二本の角で、のんびりしてそうな見た目。
頭を触れば、私も角が生えてた。
弟だけ仲間はずれなんだ……かわいそう。
「みんなと一緒に居るのは幸せだけど、夜空は真っ黒で寂しいから何か欲しい」
お願いしたら、真っ白で小さい可愛い生き物と紫色でふわふわしてて空を飛べる生き物をくれた。
白い子が月で、紫の子が星なんだって。
その日から夜空はきらきらになった、きれいだね。
弟は仲間はずれじゃなくなったね、よかったね。
ずっとみんなで遊んでたら、いつの間にか世界はいっぱい緑でいっぱい色があった。
すごくきれいだから、もっといっぱい誰かに見て欲しい。
「もっと世界が賑やかになったら、もっと楽しくなると思うの」
お願いしたら、世界はすっごく賑やかになった。
みんなと同じような見た目の生物がいっぱいになっちゃった、なんだか呼び分けるのが大変になっちゃった。
だから名前をみんなで考えた、姉はマリー、弟はグラン、少年はフェク、少女はテス。
白いのはルーナ、紫はユヴェー、そして私はウェル。
みんなで遊んでたら、気付いたら私に似てる生き物が居たの。
私に似てるけど、私とは違って角は生えてなくて、尻尾も無いの。
私の目は赤いけど、色んな色があるみたい。
私は私に似ているのと友達になりたかったけど、似てるのは暗いのが怖いらしい。
私の見た目が、怖いらしい。
そんな私に神は聞く、怖がられないようにできるぞって。
「でも、それは良く無いことだと思う。だって怖いって思うのは自由だと思う、それに私のことを知ってくれたらきっとお友達になれるよ、いっぱい居るから」
そうか、って神は言って何も言わなくなった。
きっとそうだよ、だっていっぱい居るんだもん。
誰か友達になってくれるよね。
私は話し掛けるけど逃げられちゃう、でもフェクとテスとグランとユヴェーは友達出来たって。
私も友達になりたいなぁ……、って思ってたらマリーはゆっくり分かって貰えば良いって。
ルーナは別に嫌われてるなら仲良くならない方が良い、近付かない方が良いって。
でも私と見た目そっくりなんだよ、仲良くなりたいな。
夜が来て、私は町に行くの。
私は寝る必要がないから、昼間はみんなと遊ぶから夜しか時間がないね。
でも町も真っ暗でみんな寝てるみたい、見て回ってたら明かりがついてる家があったの。
だから私は扉を叩くの、とんとんって、そういえばフェクはその方法で友達を作ろうとするのは止めた方が良いって言ってた気がする。
でもいきなり入って行くのは良くないし、やっぱりとんとんってするのは大事だよ。
その家の人は扉を開けてくれたの、他の人は開けてくれないのに。
その人はすっごい毛が赤くって、なんか頭がすごい高い。
見上げようとしたら、倒れそうになっちゃうくらい大きい。
そういえばマリーは私はすごい小さいって言ってた気がする。
「本当に居たんだ……ウェルサー」
「……私のこと、知ってるの? じゃあね、あのね、お友達になって欲しいの」
「どうして友達が欲しいの?」
「いっぱい友達がいたら幸せなの、だからいっぱい友達がいたらいいなって思うから友達が欲しい、人の友達はまだいないの」
「だから俺と友達になりたいの? 本当に?」
「どうして本当かなんて聞くの? 友達がいっぱいいたら、あなたは幸せじゃないの?」
「そういう訳じゃないけど」と赤い人はもごもご言ってた。
じゃあどうしてそんなことを聞くのかな?
「本には……、ウェルサーは子供を浚う悪魔だって書かれてたから……聞いたんだ」
「……そういう名前の生き物が居るの? コドモのお友達はまだいないの、コドモは何処に行けば会える?」
「じゃあ……迷信なんだね、じゃあウェルサー……君は本当は何なの?」
「夜空だよ」
どういう意味かって赤い人は聞くけど、だって夜空は夜空だもん。
私は夜空だもん、それ以上にどうやって答えれば良いの?
なぜか赤い人は困ってて、私も困っちゃった。
「……君は、聖書に書かれてた精霊なの?」
「セイショ……セイレイ……どこで会えるの?」
「とりあえず君が何も知らないのは分かったよ……」
赤い人は家に入れてくれた、その家はなんかいっぱいあった。
それは本って言うらしい、いろんな事が書いてあるんだって、人は不思議な物を作ってるんだね。
赤い人はセイショを私に渡した、中を見てみろって言うから見たけどなんかグネグネだね。
素直にそう言えば、文字も読めないんだってびっくりしてた。
赤い人は文字を教えてくれた、私も本を読めるようになった。
精霊は私のことだったみたい。
「なんかよく分かんないけどありがとう、もう朝になるから帰るね」
「それは上げるから、もう家に来ない方が良いよ」
「なんで? 私たちもうお友達だよね?」
「……そうだね、もう友達だね。でもね……町にはもう来ない方が良いよ、君は嫌われてるから」
そう言われると、なんだか悲しくなる。
ルーナにも同じこと言われたけど、やっぱり嫌われるのは悲しいね。
ちょっと悲しそうにしたら、赤い人はなんか謝ってた。
「俺は嫌いじゃないよ」って言ってたけど、それは考えてなかった。
だってお友達だもんね。
「じゃあもう会えないの?」
「そんなことは無いと思うけど、だって友達なんでしょ? 俺が遊びに行くよ」
「家に来るの? すっごい遠いよ、森を越えて海を越えて山の一番高いところだよ」
「……ごめん、無理」
「じゃあ、私が引越しする。町の近くに家立てるね、だから遊びに来てね」
「止めた方が良いと思うな」って赤い人は言ってたけど、私はそうすることに決めたの。
だって初めての人間の友達だもんね、友達は大事にしないといけないんだよ。
友達は大事にしないと、いけなかったのに。
気付いたら赤い人は動かなくなってた、死んじゃったんだって、フェクが言ってた。
多分私の所為だね、私が遊びに来ない方が良いよって言われてたのに遊びに行ったからだね。
悪魔と仲良くしてたから、殺されちゃったんだって、何でそんなことするんだろうね。
まあ私も剣で切られたことあったけど、私は痛くないから平気だったけど人間は痛くて動かなくなっちゃうんだね。
友達は嬉しいのも悲しいのも、一緒だよってテス言ってたのに。
私は痛くない、そういえば私の新しい友達もいつか死んじゃうんだね。
でも私は死なないんだね。
「ウェルは馬鹿だから、変なこと考えてるなら止めた方が良いよ、ぼくは反対だよ」
赤い人のお墓ってやつを作ってあげてたら、ルーナがそんなことを言ってた。
「それにぼくは言っただろ、仲良くならない方が良いって、近付かない方が良いって、ぼく達は他の生物とは違うんだ」
「……でも、やっぱり悲しい、私も他の生き物と同じになりたい」
「止めてよ、今ウェルは悲しいだろ? ウェルが居なくなったらぼく達だって悲しいんだよ」
「でもディーテさんはこれからずっとこのお墓で一人なんだよ、死んじゃったけどそれって寂しくて悲しいと思う」
「馬鹿じゃないの、何変なこと言ってるの、だってそれはただの死体なんだよ……ウェルはぼくを捨てるの?」
捨てるわけじゃないけど、でもやっぱり一人は悲しいと思うの。
私も一人は寂しかったし、悲しかったよ。
神が来るまでずっと一人だったから、分かる。
「死体でも、なんでも……これはディーテさんなんだよ、私の友達なんだよ……。今すぐに死ぬなんてことはしないけど、私も寿命のある生き物になったらいつか死ぬよね? そうしたらこのお墓に入れば、ディーテさんは一人ぼっちじゃなくなるよね?」
「君は馬鹿だよ、永遠に比べたらそんなの一瞬なんだよ、今すぐと変わらないんだよ、責任なんて感じなくっても良いんだよ!」
「ルーナはユヴェーが居るし、フェクにはテスが居る、グランにはマリーが居るから大丈夫でしょ?」
「大丈夫なわけあるか! ユヴェーもフェクもテスもグランもマリーだってウェルじゃないんだよ! 友達も大事にしなきゃいけないかもしれないけど、家族だって大事にしないといけないんだよ! ウェルは本当に馬鹿だよ、おかしいよ」
「じゃあディーテさんも家族だよ、私にいろいろ教えてくれたし……かばってくれた」
「ウェルは頭がおかしいよ、馬鹿だよ」っていつも冷静なルーナが泣いてた。
おかしいのかな、でもやっぱり一人は悲しいし寂しいよ。
だってディーテさんは私が殺したんだよ、私の所為なんだよ。
私のわがままで死んじゃったんだよ、私やっぱり馬鹿なのかな。
「でもやっぱり、寿命のある生き物になりたい」
「ウェルなんて大嫌いだ……、赤いのばっかり贔屓して、見た目が似てるだけじゃんか」
「ディーテさんは私をかばってくれたんだよ、私は切られても殴られても魔法を掛けられても痛くないのにかばったんだよ、ディーテさんは痛いのに」
だから私、寿命のある生き物になるよ。
聖書には輪廻って言うのがあるって書いてあったし、きっとまた会えるから大丈夫だよ。
そうだよ、いつかまた会えるよ。私は信じてるよ。
だって私は縁と夜の精霊って聖書に書いてあった!
だから、大丈夫だよ。……すごい馬鹿でごめんね。
――すごい長い夢を一瞬で見た気がします。
どんな夢を見たのか、一瞬で忘れちゃったけどね!
目を開けばフレアマリーさんの顔が見えて、しーちゃんが彩萌の上に乗って覗きこんでるのが見えた。
起き上がれば、なぜか龍の巣に白いのが……あれ? なんでむーちゃんいるの?
「馬鹿じゃないの、どうしてそんなに馬鹿なの」
「えっ……あ、ごめんね?」
「死ぬ可能性があったんだよ、どうして彩萌ちゃんってそんなに死にたがりなの、おかしいから」
「でも彩萌が死んだらむーちゃん嬉しいんじゃないの? 剥製に出来るんだよ?」
「馬鹿じゃないの、どうして彩萌ちゃんはそんなに馬鹿なの? 馬鹿すぎて気持ち悪い、最悪」
酷い言われようです……、これでも彩萌は昔よりはお利口さんになったつもりだったのに。
でもむーちゃんに心配をかけちゃったんだね、ごめんね。
「ちゃんと寿命まで生きてから死ねば良いじゃん、なんでまだ長く生きられるのに死のうとするの? 頭のどっかに欠陥があるんじゃないの?」
もしかしてむーちゃん泣いてるの?
やっぱりむーちゃん優しいね、本当に馬鹿でごめんね。
でも今は生きてるんだから良いじゃん、許してよ。
なんでむーちゃんが居るの? って聞いたらフレアマリーさんが呼んだらしい。
彩萌がもし大変なことになったらってことで呼んだらしい。
二人ともありがとう、心配かけてごめんね。
――アヤメちゃんの魔法日記、九十六頁




