時間の塔に囚われて
……シェリエちゃんの日常は、最悪でした。
無視されたり悪口言われたり、お弁当捨てられたりしてて本当にムカつきます! いじめっ子ばかやろーですよ!
だってお弁当はおじいさんが朝早く起きて頑張って作ってんですよ、料理苦手なのに!
そう言えばおじいさんは、シェリエちゃんのお母さんとお父さんの教え子さんなんですよ。戦争孤児になっちゃったシェリエちゃんを引き取って、育ててくれてる。
おばあさんが病気で亡くなっちゃってから、ずーっとシェリエちゃんのご飯作ってくれてるんだぞ!
孫のようにかわいがってくれてるんだよ、おじいさんの時計屋さんは後継ぎがいないからシェリエちゃんが後継いでくれたらいいなーって思ってるんだよ。
カバン捨てられたりして、先生もシェリエちゃんを怖がっててみないふりしててムカつきます。突き飛ばしたり、……どうしてそんな意地悪できるのかな?
だってシェリエちゃん悪くない、何もしてないのに。
というか、なんかシェリエちゃんたちの常識だと戦争が終わったばっかりっぽいんですよね……。おかしいな、彩萌が知ってるのはもう一〇〇年くらいたってるのに……なんか、時間がおかしくないですか?
シェリエちゃんも言い返せばいいのにってちょっとだけ思うけど、シェリエちゃんが言い返せない理由を彩萌は知っています。
だってちょっとだけの間だったけど彩萌はシェリエちゃんだったもんね。
シェリエちゃんには一人だけお友達がいるんです、一つ上のクラスのエニョール・テラー、あだ名はエニールちゃん。
エニールちゃんは明るくて優しいけど直情型です、マイペースだからシェリエちゃんと仲良くしてくれる。
一度言い返した時にエニールちゃんに被害が行っちゃった時があったんだよね、酷い話です。エニールちゃんは逆にその人たちの本性が見れて良かったって笑ってくれたけど、シェリエちゃんはエニールちゃんに申し訳ないなって思っちゃったんだよね。
学校が終わって、本当はみんなでお掃除しなきゃいけないのにシェリエちゃんが全部押し付けられてた。
もーいじめっ子ってなんでみんな同じことするのかなー。
でも掃除は確かに面倒ですよね。
自分のクラスの掃除が終わったのか、エニールちゃんがシェリエちゃんに会いに来ました。
「シェリーなんで掃除なんか真面目にやってるの? 掃除しなかったら困るのはあのハゲなんだから別に掃除なんかしなくても良いじゃない」
「……でも汚いと、嫌でしょ」
「わたしは別に汚くても気になんないけど、シェリーが気になるなら手伝うけど」
そういうとエニールちゃんはシェリエちゃんの箒をちょっとだけ乱暴に奪い取って、ちょっと箒ではいた。
「はい掃除終わりー」って言って、箒を掃除箱に入れてた。
うーむ汚くなってきたらなってきたで、シェリエちゃんが文句言われそうだけど大丈夫なのかな。多分シェリエちゃんそれをめっちゃ気にしてるよ、掃除箱じーって見てるもん。
「シェリー帰ろう」
そう言ってエニールちゃんはシェリエちゃんの腕を引っぱって、カバンを持って行きます。
シェリエちゃん意外と背が高いな……、エニールちゃんより大きい。
学校の外に出た、あっ……シェリエちゃん追いかけてた時は気付かなかったけど、彩萌たちが閉じ込められた時計塔が見える。
「あぁエニョール、今日も弱者を取り巻きにしてボス気取り?」
「アンタ弱い子の味方してないと自分を輝かせられないもんね! かわいそーな引き立て役のシェリエ・クアノーズ・ヴァニマ」
「そういうアンタたちは弱い者イジメをしてないと自分を輝かせられないかわいそーな悪役でしょ? 開始早々でやられちゃうタイプの悪役よね!」
「……エニール」って呟きながらシェリエちゃんが言い争う気満々のエニールちゃんの服を掴みます。
あんまり騒ぎを大きくしたくないんだろうね、でもシェリエちゃんも少し言い返した方が良いよ。
いじめっ子って言うのは不意の一撃に弱いんですよ、たぶん。
「……じゃあそんなヒーローさん、勇気を見せてよ。時計塔には悪魔がいるらしいよ」
「はあ? 悪魔? 悪魔ってあれ、怒ると羽とか生えてくる魔族?」
「そっちじゃなくて、悪霊のほう! 時計塔に住んでるらしいよ、だから時計塔の中にある物なんか持ってきてよ」
「なに、アンタたちそんな噂信じてんの?」
「……実際に見てみればわかるんじゃない? 私たち行ったけどヤバかったよね」
「なんかすっごい気分悪くなったもん、絶対なんかいるってー」
んー……エニールちゃんは「持ってきてやるよ!」って意気ごんでたけど、なんか悪い予感がします。
閉じこめられちゃってたって言うのもあるけど、他にも悪い予感がします。
いじめっ子二人連れて、時計塔に行くの。
うん……、悪い予感しかしない。
エニールちゃんは怒り過ぎてて気づいてないけど、シェリエちゃん不安そう。
「シェリーはここで待ってて! 私がなんか持ってくるから!」
エニールちゃんが時計塔に入って行っちゃった、そしてちょっとしてからいじめっ子二人は言うんです。
「アンタも行けよ」
「こんなとこで突っ立ってないでさ、仲良しなエニョールとデートでもして来たら?」
きゃははって感じで笑いながら、シェリエちゃんを押すんです。
気が弱いシェリエちゃんは何も言い返せずに、押されちゃいます。
どんって感じで突き飛ばされて、ばんって扉を閉められちゃう。……閉じこめられちゃったね。
「……封印でもしちゃおうか?」
「えー、それは悪質ー」
悪質ー、とか言いながらなんで鎖持ってんの?
え、止めなよマジで悪質とかそんなレベルじゃないよ!
「明日には迎えに来てあげるからさー、もうちょっと大人しくなってよねー」
「ちょっと……っ、開けなさいよ! 卑怯者!」
マジかよ、マジかよ。
えっ……どうしよう、どうしようって悩んでてもこれ記憶だから何も出来ないんだけど……。
えっ、なにこれいじめって怖い。悪魔より怖いよ。
「中の様子、見れるよ……」
「……見なきゃダメ?」
「ダメじゃないよ……、義務ない、から」
グラーノさんの手が優しい……、でもまだエニールちゃん生きてる……。
どうしてエニールちゃんが死んじゃったのかとか、気になるところもある。
どうしてエニールちゃんにそっくりな子に閉じこめられちゃったのかとか、気になる。
でも、彩萌は見たくないような……怖い。
そもそもシェリエちゃんの記憶を全部見て、分かることかどうか分かんないし……。
「私が、見て来ようか……?」
彩萌が何も答えられないでいると、グラーノさんは彩萌の頭を撫でてから時計塔の中に入ってった。
なんか幽霊みたいだね、カラーゴーストだから幽霊みたいなものか……。
彩萌は体育座りして、時計塔に寄りかかって空を見上げます。
真っ白だ、この世界は白黒だ。
グラーノさんだって見る必要ないのに、彩萌のわがままにつき合わせちゃった。
見るなら自分の目で見なきゃいけないのに、彩萌無責任なことしちゃったなぁ……。
グラーノさんごめんなさい、エニールちゃんもシェリエちゃんもごめんなさい。
無責任にも過去を覗き見てごめんなさい。
この時計塔は出来たばっかりみたいで、つたがからんでいませんでした。
しばらくすればグラーノさん戻ってきた。
「時計塔の悪魔、は……ランタンだった」
シェリエちゃんの記憶が終わるのか、絵具に水をたらしたみたいににじんでいきます。
彩萌は無責任にも泣いてしまっていたみたいで、グラーノさんがハンカチで拭いてくれた。
海の底に住んでたのに、何でハンカチ持ってるの。
「……帰ろう、もう、終わったから」
「グラーノさん……ごめんなさい」
「辛い時は……、誰かと、分け合うんだよ。だから……っ大丈夫……それに、これは……事故だよ」
時計塔の扉は、魔力を反発するやつみたいだよってグラーノさんが教えてくれた。
彩萌が魔女っ娘スティックで扉を叩こうとしたから反発しちゃって、シェリエちゃんの中に入っちゃったらしい。
だから彩萌ちゃんが悪いわけじゃないんだよってグラーノさんは言ってくれたけど、シェリエちゃんの記憶を見ようって言ったのは彩萌だからね……。
もしシェリエちゃんが起きたら、謝ろう。
無責任なことしちゃってごめんなさいって、謝る。
――アヤメちゃんの魔法日記、八十三頁




