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アヤメちゃんの魔法日記  作者: 深光
始まる為のエンディングノート
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時間を止めて

 重たい体を起こします、窓の外は全部が白黒だったけど晴れてるのが分かります。

 私は、私は叶山彩萌なの……? わたしは、わたしは。

 壁に立てかけてあった鏡を見ます、尖がって長い耳、まん丸でギョロってした目があって、薄い黄色の髪をしてる。

 わたしは……わたしは、なんなのでしょう?


「シェリエ、もう起きてるかい?」


 優しそうなおじいさんの声が聞こえます、なぜかわたしはとても悲しくなります。

 どうして悲しいのでしょう、……たぶん、わたしは学校が辛いからです。

 そうだ、うん。わたしはシェリエ・クアノーズ・ヴァニマ、正真正銘の魔人で純血種です。

 そうだ……わたしは魔人なんだ。まじりっけなしの魔人です。

 だから耳がこんなに尖がってるんだ……、ゆううつ……です。


「シェリエ……? どうかしたのかい? どこか具合が悪いのかい?」


 扉の外でおじいさんがわたしに声をかけてくれます。

 わたしは出来るかぎりの元気な声でおじいさんに大丈夫だってつたえます。

 ちょっとだけ、おじいさんは心配そうにしてたけどごはんが出来てるからねって行って一階へ下りて行きます。

 髪の毛をととのえて、制服を着ます。

 とてもかわいい制服だけど、わたしの心を幸せになんかしてくれません。

 お母さんが遺してくれた帽子をかぶるけど、心は晴れません。

 帽子で耳が隠れたらいいけど、とっても長いから無理なんです。

 扉を開けて、一階へ下ります。

 この家は時計がいっぱいあります、おじいさんが職人さんだから。

 わたしも将来は、おじいさんみたいになりたいけどわたしには無理かもしれません。

 世界が白黒に見えるのは、わたしが辛いからかもしれません。

 おじいさんが作ってくれた朝ごはんは美味しいです、用意してくれたお弁当を持って行くの本当はイヤだけどカバンに入れます。

 ちょっと暗そうな顔をしちゃったみたいで、おじいさんに心配をかけちゃったけどわたしは笑顔を作って家を出ます。

 時計塔の鐘が鳴っています、朝を告げています。

 時計塔の鐘の音は――……わたしの心が冷めて行く音です。

 学校までの道程は長くて、つらいです。

 みんながわたしを見てる、とっても長い耳を指さしてひそひそ話してる。

 わたしが魔人だから、半人でも無くて獣人でも無くて、ゴーストでも悪魔でも天使でも無い……魔人だから。

 正真正銘の魔人で、純血種だから。


「こわいよねー、近付いたら穢されちゃうんじゃなーい? だって、魔人なんでしょ?」

「ほんとだよねー、マジなんで存在してるのって感じー、罪償う為に親と一緒に死ねばよかったと思うー、世界平和のためにー」

「しょうがないじゃん、だって魔人なんだよ! さいあくー」


 ひそひそ話してた子たちと目が合っちゃって、聞こえるように悪口を言われてしまいました……。

 でもお父さんとお母さんは関係ないんです、ずっとヴァージハルトに居たんです。

 魔人の国出身だったけど、ずっとずっとヴァージハルトで魔法の先生してたんです。

 だから、戦争もオーパーツもお母さんとお父さんもわたしも関係ないんです。

 でも……言っても信じてくれないから、言えないですけど……。

 うつむいて歩いていると、足が重いです。

 やるせなくて涙が落ちそうになります、泣いたらもっと馬鹿にされちゃうけど。

 ぎゅって、カバンの紐を握ってればそれをすごい力で引っ張られちゃったんです。

 けっきょく取られちゃった、もっとちゃんと握ってれば良かった。


「おーい、シェリエ・クアノーズ・ヴァニマのカバンだぞー、おりゃっ!」

「うわっ、マジで止めろよ! 穢れたらどうすんだよー!」

「うっはマジかよ俺もう穢れちゃったんじゃねー! きしゃーっ!」

「おーいーマジかわいそうじゃーん、返してやれよー! 俺は穢れたくないんで持ちたくないですけどねー!」


 カバンは投げるものじゃないんですよ。

 お弁当は乾いた物しか入ってないから中は大丈夫……、おじいさんありがとう。

 最初はきれいな色のカバンだったのに……、今はもう見るも無残な姿だ。

 拾い上げようとカバンに手を伸ばせば、その手を掴まれちゃいました。

 顔を上げれば、白黒な世界に相応しくない真っ青な髪をした人が見えます。

 なんだか、泣きそうな顔をしてますね。


「……彩萌ちゃんはシェリエじゃないよ」

「……お兄さんは、何を言ってるの?」

「彩萌ちゃんはシェリエ・クアノーズ・ヴァニマじゃないよ、同化したらダメだよ……壊れちゃう、だって彩萌ちゃんはシェリエじゃないから……これはシェリエの記憶だから、彩萌ちゃんの記憶じゃないんだよ……」


 ぼろぼろお兄さんは泣いてます、泣きたいのはわたしなのに。

 ……本当に泣きたいのはわたしなのかな? 本当に本当に泣きたいのはわたし?

 ――本当に泣きたいのはシェリエちゃんか、そうだったね……うん。

 立ち上がれば、彩萌は彩萌でした。シェリエちゃんは鞄を拾ってました。

 悲しそうな表情のシェリエちゃんを見てれば、グラーノさんが泣きながら抱きついてきます。


「うー……彩萌ちゃんごめっ、ん」

「気にしないでくださいー、それにしても緑色の魔法ってこうやって他人を知るんですねー」


 そういえばグラーノさんは小さく首を振って「青」って呟いてた。

 ……これが青い魔法なの? 青い魔法って人を操ったりする力じゃなかったの?


「メインは緑だけど……っ、青も影響しちゃってたからっ、シェリエの中にっ、入っちゃったみたい……」


 シェリエちゃんの中に入ったのは、青い魔法の所為らしいです。

 青い魔法は他の生物を操る魔法だけど、対象の人に乗り移ったり同化したりすることもできるらしいです?

 感情を同化したり、記憶を同化したりなんだって。

 それって緑と被るよねって言ったら、同化だから対象の人に自分の感情も分かっちゃうらしい。へぇー。

 それに緑色の魔法は一方的に、客観的にみたその人の情報とかを知る能力らしいです。

 乗り移った人の記憶や感情を正確に知るには同化しないといけない、でも同化し過ぎると自分の心が壊れてしまうらしいです。

 だから青い魔法は普通は、対象の人に思いこませたりしてあやつるらしい。

 今シェリエちゃんは気を失ってるから、同化したはずみで記憶の再現が行われちゃったらしい。


「どうやったら、ここから出られるのかな?」

「……んっと、シェリエの記憶が終わるまで……?」


 じゃあ、シェリエちゃんを追いかけてればどうしてあんなところで倒れてたのかもわかるんだね。

 彩萌がシェリエちゃんを追いかけようとすれば、グラーノさんに止められた。


「さっき見て、分かったでしょ……、シェリエはっ……いじめられてる。……これは記憶だから、止められないし……庇えなくって助けられない、んだよ……? ……見てるだけ、なんだよ」

「そっか……、でも彩萌はシェリエちゃんを見てればどうして時計塔に閉じ込められちゃったのか分かる気がするんです!」

「……終わったら、私が……出してあげるから」

「……でも、女の勘が告げてます! 彩萌はシェリエちゃんを助けるためには、見なきゃいけないんです!」


 グラーノさんは辛いなら来なくても良いんだよ、って言ったら、置いて行かないでーって泣きながら言ってた。

 そういえばグラーノさんはよくシェリエちゃんの中に入って来られたね、自分の力あんまり好きじゃないって本人も言ってたのに。

 彩萌を助けに来てくれたのかな……、グラーノさん意外と勇気あるね。





 ――アヤメちゃんの魔法日記、八十二頁

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