時計塔の悪魔
ブランチを食べてー、彩萌とグラーノさんは町をぶらぶらします。
あんまり会話ないけど、グラーノさんは嬉しそうで楽しそう。
きれいな時計いっぱいあるね、でも時間を正確に刻まないって李白さん言ってた。
看板にも時計としてじゃなくて、おしゃれな置物としてお使いくださいてきな感じのことが書いてあった。
まあーでもイズマさんなら直せそうだし、普通に時計として買っても大丈夫そうじゃない?
「グラーノさん、山吹君に腕時計お土産したい」
「彩萌ちゃんの、旦那さん、だっけ……? んー……、あそこのお店、……かわいい」
「おぉ、すごいかわいいですね! すごいかわいいから山吹君は嫌がりそう!」
でも山吹君は優しいから文句を言いつつ、なんだかんだでつけてくれそう。
もらっちゃった物だしっもったいないしっ、べつにこういうの好きな訳じゃないからっ! ってつけながら絶対言うね、うん。
あーなんだか彩萌、すごい山吹君知りつくしてるー。
むしろ山吹だよー、山吹彩萌って名乗りたい。
「……彩萌ちゃんこれ、愛がモチーフの、デザイン……なんだって」
「なんだかディーテさんみたいな色合いですね」
「あら……若そうなのによく知ってるわねー。そうなの、これは愛の精霊でもある魔王様がモチーフなのよ」
「……こ、これはっやめて……だっ、ダメだよっ!」
グラーノさんの目の色が変わったってやつでした。
あれ、グラーノさんってディーテさんが嫌いなの? 知らなかったです。
これはダメだ、これはダメだって珍しくぶつぶつ言いながら彩萌の腕を引っぱってお店を出て行っちゃったんです。
おばちゃんびっくりしてたよ。
「……グラーノさんって、ディーテさんのこと嫌いなの?」
「うん、ディーテ大嫌い」
はっきり言った! 嫌いだったのか……知らなかった。
というか大嫌いなのか、なんでかなー。ディーテさんはグラーノさんのこと心配してたのに。
「だって、良いとこばっかり……、取って行くから……。ずっと、彩萌ちゃんと……一緒に居たし。私だってっ、彩萌ちゃんのお母さん的な存在になりたかったのに、どうしてあんなっ……ピンクばっかり! ピンクなんて嫌い、赤色なんて大嫌いっ! 彩萌ちゃんとバージンロード歩くのは私なのにッ!」
グラーノさん泣いて逃げ出してしまった、やばいぞ雨がふるよ。
というかグラーノさんお母さんになりたかったの?
なら大丈夫だよ、ディーテさんはお祖母ちゃんだからお母さん枠あいてるよ!
でもすぐに泣いて逃げ出すお母さんはどうかと思うよ、でも母なる海とか言うからねーグラーノさん海だからねー。
いや、……というか花嫁とバージンロード歩くのはお父さんだよね?
グラーノさんを探して走っていれば雨がふり出しちゃった、けっきょく服濡れちゃった。
「グラーノさぁーん、どこですかー? お母さん枠あいてますよ~」
返事がありません、どこ行っちゃったんだろう。
もー本当にグラーノさんには困ったもんだよ、でも彩萌的にグラーノさんは我が子みたいな感覚があるからほうっておけないんですよ。
すぐ泣くし、すぐむーちゃんとかフレアマリーさんとかにいじめられるし。
そのたびになぐさめるのは彩萌だったからね……、ディーテさんは意外と心配するだけで何もしないからな。
ディーテさんはあれだよ、結婚すると何もしなくなる男性みたいな感じだよ。
じゃあ彩萌がお母さんで、ディーテさんがお父さんでグラーノさんが泣き虫な息子って言うのが一番正しい例えですかね?
そっか、じゃあ今グラーノさんはディーテさんに反抗期なんだね!
もうすぐ彩萌にも反抗する日が……来るのか? ……来ない気がする。
「テスさんが長女……ふぇっくんが長男でグラーノさんが次男、フレアマリーさんが次女で……ユースくんとむーちゃんはどっちが上かな?」
「ねぇ、猫さんこんな雨の中で傘もささずに何をしているの?」
気付けば木がいっぱいあるとこにいた、そこに居た傘をさした女の子に不思議そうな目で見られてた。
ここはなんか大きな建物があったみたい、崩れた建物があって、時計塔が見えます。
女の子は彩萌と同じくらいの背丈で制服みたいなワンピースを着てて、カバンを肩にかけてた……学生さんかな?
「人を探してるんですよー……青い人なんですけど」
「青い人? ……私見たよ! あっちに走ってったの、時計塔のほうだよ!」
「おぉ、ありがとうございますー」
「あっ、でもね……時計塔には悪魔がいるから気を付けた方が良いよ! じゃあね、私学校に行くから!」
女の子は彩萌に手を振って、茶色の髪を揺らしながら走ってっちゃった。
ありがたいね、でも悪魔って……あの悪魔? それとも怖いほうの悪魔?
もしその悪魔さんが魔力を主食にしてたら大変かも……グラーノさん食べられちゃうね。
時計塔はつたがからまってて、今は使われて無さそうです。
時計塔の扉は鎖で止めてあったみたいだけど、さびて壊れちゃったみたいで地面に落ちてた。
微かに開いてたので、中を覗いてみます。
「グラーノさぁーん……、居ますー?」
中を覗いても中は真っ暗で、でも奥のほうでなんか光ってるみたい。
でもグラーノさんは時計塔の中には居ないね、居たら彩萌が声をかけたら飛んできてくれるもん。
振り向いたら、さっきの子がすっごい近くにいて彩萌はびっくりして叫びそうになった。
どんって突き飛ばされて、ばんって音がして真っ暗になっちゃった。
……えっ? なに、彩萌なんで閉じ込められたの?
「……えっ? ちょっとー、なんで閉めちゃうんですかー? ……えっ、開けてよー」
扉の取っ手をがちゃがちゃやっても開きそうにないです、えぇーなんで?
なんで閉じ込められたの? えー、なんで?
まあでも彩萌は猫の目を持ってるんで、暗いの大丈夫ですよ!
大丈夫……だけど、なんで閉じこめられちゃったの?
ふり返って時計塔の中を見回せば、誰かいるみたい?
でもその二人の子は倒れてて、その子たちの間に不思議な色の火がついてるランタンがありました。
色んな色に姿を変えるんです、まるで虹色の火ですね。
時計塔は狭くて、高かったけど特に他は何もなさそう?
その二人の子は近付けば女の子だって分かった。
「あれ……? さっき彩萌を閉じ込めた女の子……?」
かわいい魔女みたいな帽子をかぶった耳がすごい尖った子と、彩萌をさっき突き飛ばして扉を閉めちゃった子でした。
……どういうこっちゃ?
疑問に思って首をかしげてたけど、嫌なことに気づいて彩萌はその子たちから距離を取りました。
かわいい魔女みたいな帽子をかぶった子は息をしてたけど、扉を閉めちゃった子は息してないです!
もしかして……死んでる? えっ、死んでるの……?
どうしよう……よし、とりあえず魔女っ娘スティックで扉を攻撃しよう。そうしよう。
それでここから出て誰かに言わなきゃ、帽子の女の子は生きてるみたいだし!
大きく振りかぶって、がって彩萌が魔女っ娘スティックで扉を攻撃したら……魔法陣が出ちゃった。
しかも緑色ですよ、フルートみたいなきれいな音がしてますよ。
……よく聞けば、ハープみたいな音もしてる。
やばい、そうだ。この杖は精霊さんが作ったから高性能なんだ。
「うわ、なんか……眠く、なって、きちゃった……」
強い眠気に彩萌はたまらずに倒れ込みます、立ってられないです……無理!
目を閉じれば、小鳥のさえずりが聞こえていました。
しばらくして……彩萌が眼を開けば天井は白黒でした。
――アヤメちゃんの魔法日記、八十一頁




