夜見を越えて、かがやく
びくびくしながら音のほうへ向かいます、玄関からかな……。
廊下のすみに転がってた死体みたいな人は居なくなってた、どこ行ったんだろう?
人魚のお母さんの水槽が目にはいって、玄関はもうすぐってところですごい大きな音がした。
なんか、壁をすごい力で叩いたみたいな音でした。
「ロンユェに触るなぁ――!」
珠恵さんの叫び声だった。
行って良いのかな、彩萌が行ったら邪魔になっちゃうんじゃない?
というか、怖いです。なんか……暴力は怖い。
ひよこな李白さんは、好きにしなさいって言ってたけど。
「いッてぇ……、このやろー先に力を行使したのはそこに居るゾンビだぞ! 正当防衛だろーが!」
「黙れ鳥頭、ロンユェに触るんじゃないわよ。腕が取れたりしたらどうしてくれるの? 簡単にはくっ付かないのよ!」
「知るかそんなもん! 彩萌は何処だ、何処に居るんだ! その杖はどうやって手に入れたんだ、答えろよ!」
アタリアンと珠恵さんが言い争う声が聞こえます。
暴力は良くないです……! 彩萌を探してるんだったら、彩萌が出て行けばひとまず争いは止まりますかね?
玄関にむかえば、扉の近くにアタリアンがいた。頭から血が出てるけど大丈夫なのかな?
彩萌の近くにお兄さんがいて、へたり込んでる。
こっちも怪我してるみたい……、真っ黒な珠恵さんはお兄さんをかばうように立ってた。よく見ればアリシエちゃんとユーエンさんもいた、ユーエンさんは彩萌にすぐ気づいたみたい。
「彩萌、無事だったのか!」
「あー! シショーもいる、どこ行ったんだって思ってたんですよー?」
アリシエちゃんは忍者の筈なのに……、なんかシンプルな杖持ってた。
やっぱりアリシエちゃんは魔女なんじゃないかな。
アタリアンはなんかカッコいい剣もってる、ふらふら立ち上がったんだけど血の所為でずるって感じで鳥の仮面取れちゃった。
うん、整ってる顔してるけど……なんか怖い顔だね。
睨んでるとかすごんでるとかそういうんじゃなくて、なんか呪われてそうな顔してる。
アタリアンにも第三の目がありますね、やっぱり兄弟だね。
「くそ……っ、んだよ、ふざけんじゃねぇっ。そんな理由で穢ればら撒いたのかよお前っ!」
あっ、第三の目緑色に光ってる。
アタリアン怒ってるみたい……、どうしよう。
「ふざけんな……っ、そんな姿になったからってぶっ壊れる様な軟な精神してんじゃねぇよ!」
アタリアンはキレちゃったみたい、なんか人間の姿やめちゃった。
真っ黒な大きい鳥だった、黒くて赤い模様が入ってて、尾羽が長いです。
尾羽とか羽はなんか先っぽにつれて赤みがかった金色になってる、なんか真ん中のほうだけ影になってるみたいだね。
逆光を受けてるみたいな、そんな感じです。
「ちょっと……アンアン、ダメだよ! アンアンは第三の目使っちゃダメってシショーに言われてたデショ!」
アリシエちゃんが慌ててなんか言うけど、アタリアンに聞こえてないみたい。
気づいたら近くにユーエンさんが来てて、李白さんが人間の姿になってた。
なんかアタリアンがぴかって光ったのは分かった、そしたらなんか珠恵さんの叫び声が聞こえた。
痛いとかそういう叫びじゃなくて、なんか……悲鳴って言うか怖いの見た人みたいな。
珠恵さんの本当の姿が見えた。
背中から太い腕が生えてて、腰のあたりからなんかクモのお腹みたいなのが生えててその上に水晶が生えてた。
ちゃんと元の腕とか足も生えてて、なんかあとからクモのお腹みたいなのとかくっ付けたみたいな見た目してた。
李白さんに引っぱられて、なんか高い場所に避難させられちゃった。
たしかに人間じゃない見た目だけど、魔物の姿なんだよって言われたら別に普通かなって思う。
夜にあったら怖いかも知れないけど……。
「あぁ、あぁ! 醜いねぇ、酷いねぇ! なんでそんな姿で生きてるんだろうかねぇお前はよぉ、他人様に迷惑かけて生きて楽しいか!」
「だから、アンアン落ち着いて! キレる理由は何となくわかるけど、面と向かってそんな事言うもんじゃない!」
珠恵さんは両手で顔をおおって泣いてた、かわいそうだと思う……。
たしかに珠恵さんが原因かもしれないけどそんな言い方はダメだと思う。
ゾンビなお兄さんも泣いてるよ、これじゃあアタリアンが悪役になっちゃうよ。
そう思ってると珠恵さんが動くのが見えた、動いたって言うか……とんだ?
壁から水晶が生えてきて、それを踏み台にするのが見えた。
「うわっ……! アンアン馬鹿じゃないのっ、怒らせるんじゃねーですよー!」
アリシエちゃんの文句を言う声が聞こえます、アタリアンから急いで離れてた。
床には大きな穴があいてます、珠恵さんが殴ってあけちゃったんです……。
どうしよう……、こんなの絶対に良くないのに……どうしよう。
彩萌はなんか怖いです、戦ったりするの良くないです。
もっと穏便に解決した方が良いです……!
なんか震えちゃってがたがたしてれば、李白さんが彩萌の肩を撫でてた。
「ユーエン、水晶蜘蛛なお嬢さんを止めてー! アンアンはアリシエちゃんが何とかするからー!」
ユーエンさんが大きい声で返事をするのが聞こえます。
アタリアンはいつの間にか元の姿に戻ってて、珠恵さんと戦ってます。
珠恵さんの腕は硬いから、剣で傷つけられないみたいで……。
どうしよう、……誰か死んじゃったらやだ。
怪我しちゃうのもやだ……怖いよ、どうしよう。
「お嬢さん、分かっただろう? この世界では力が全てなんだよ、すぐに誰かが死んで、すぐに誰かが怪我をして、すぐに誰かが壊れてしまう」
李白さん、こうなるだろうなってわかってたの……?
何でわかってたのに何もしないの、止めないの? おかしいよ。
「お嬢さん、君はどうしたいかな? この世界では力が全てなんだよ、すぐに誰かが死なない様に力を行使し、すぐに誰かが怪我を治し、すぐに誰かが戻そうと努力する。お嬢さんは、どうしたい? どうするべきだと思う? 君はどう行動するのかな?」
李白さんは、彩萌に何を望んでるんですか。……分からないです、どうすれば良いのかなんて。
彩萌を掴んでた手を李白さんは離してくれました、……どうしよう。
大きな音が聞こえて、顔を上げれば珠恵さんが倒れてるのが見えた。
血が出てて、痛そうです……。
気がついたら彩萌は飛び下りてて、へたり込んでるゾンビなお兄さんの近くにいました。彩萌は魔女っ娘スティックを持ってて、それを持ち上げてた。
「やめて――――――――っ!」
痛いし、熱いし。もうわけわかんなかった。
李白さんは彩萌に何を望んでたんだろう、分かんないや。
痛いし熱いし、ぐらぐらするし、立っていられなかったです。
低くて重い、でも澄みきってて響く鐘の音が鳴ってる。
床に彩萌の血が落ちてる、頭から血がいっぱい出ちゃったのかな。
うずくまる彩萌の背中に誰かが手をそえます。
「頑張ったな、偉いじゃん」
山吹君の声だけど、山吹君じゃない。
たぶん神様のほうのリーディアさんだ……。
彩萌は頭が痛くて、痛くて痛くてしょうがなかったから倒れちゃった。
李白さんは彩萌に何を教えたかったのかな、……分かんないや。
彩萌が無防備だったからかな。
彩萌は目を閉じます、起きてるのがつらかったです。
起きたらリンズがきれいになってたら良いなって思います……。
――アヤメちゃんの魔法日記、七十六頁




