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アヤメちゃんの魔法日記  作者: 深光
始まる為のエンディングノート
76/107

暗闇に隠した脆弱

 お兄さんに連れられて来たのは大きなお屋敷のようなお家でした。

 なんか、この国の一番偉そうな人が住んでそうな感じ……。

 あっ、そう言えばアタリアンがしゅちょうが怪しいって言ってた!

 じゃあ、このお兄さんがしゅちょうさん? それともしゅちょうさんの家族?

 お兄さんはずっと何か独り言をぶつぶつ言っててちょっと怖かった。

 どんな姿が最適か、とか……、醜悪すぎてもダメとか、同じ種族じゃダメとか、人語が喋れなくて意思疎通の出来ないのが好ましいかもとか、いろいろ。

 お兄さんの言葉をずっと聞いてて、彩萌は考えましたよ!

 李白さんにちゃんと人の心情をくみとれって言われたもんね!

 彩萌は、お兄さんは誰かのために町の人を魔物に変えたいんじゃないかなって思った。

 だって自分がしたいからそうするんだったらこんなに深く悩まない気がしました、うん。

 門をくぐって庭に来たけど、なんかずっとお手入れされてない感じがした。

 外から見たらよく分かんなかったけど、お花も木も全部枯れてました。

 お屋敷の扉を開ければ変な臭いがした、でも町も臭かったから彩萌の鼻はちゃんと機能してない気がします。でも町より臭いような気がします……?

 でも、なんだか穢れてる臭いじゃない気がするような……。

 お屋敷の奥にちょっと入って、なんかちょっとだけ広いところに出たんです。

 大きい水槽があって、その中になんか入ってる……。なんか、すごい怖い生き物が入ってます。

 目がぎょろっとしててなんかぬめぬめしてて、深海魚みたいな顔してる……人魚?

 彩萌が知ってる人魚と違うけど、たぶん人魚だと思います。

 なんだかきれいなお魚も入ってるけど、人魚しか見えない。

 怖いから見たくないけど。


「ただいま母さん」

「キィ――――――――――ッ!」

「ひっ……!」


 こわい、こわいよ。

 耳が壊れるかと思った……! なんか叫んだ!

 本当は一番怖いのはゾンビなお兄さんなのに、彩萌は人魚が怖すぎてお兄さんの陰に隠れた。

 というか……いま、母さんって言った? お母さん、……なの?

 ちらりと見れば、なんかまだ叫んでるみたいな感じ……でも音が聞こえない。

 お兄さんをちらりと見れば、彩萌が貸した杖を人魚なお母さんにむけてた。


「失敗しちゃっただけだから、気にしないでね」


 にこにこ笑って言ってるけど、気にしないほうが無理です。

 失敗ってなに、失敗ってなんだよ。

 わけわかんないよ、その杖あげるから彩萌をギルドに帰してください……。

 もう一回人魚なお母さんを見たら、怖い顔でお魚食べてた。

 もうやだ、かえりたい。

 お兄さんに手を引っぱられて彩萌はお家の奥に入って行きます……。行きたくないです。

 途中で廊下のはじっこで倒れてる人がいたんです、でも肌とか変色してて死体かと思って彩萌は怖すぎて死にそうになったけどその人はずるずる動いてたから一応生きてるんだと思う……。アンデッドなんだと思う……。こわいよ、この家。

 あと頭が二つある黒い犬が庭を歩いてるのが見えたけど、それはお兄さんいわく成功らしい……。

 ちなみにお父さんは庭にある、赤い花がついてる木らしい。

 おかしいよ、この家。なんで町のみんなは誰も異変に気が付かないの?

 もしかしてお兄さんの髪の毛が青系だから? 青い魔法使いさんだからなんか洗脳されてるの?

 お家帰りたいよ、どうしたらいいの。

 彩萌殺されちゃうのかな、……あっでも死んでも死なないからさっき見た死体みたいな人みたいになっちゃうのかな。いやだ……、あんなのになりたくない……。


珠恵(たまえ)さん、お客さんを連れて来たから相手をしていてくれませんか?」


 一つのお部屋の前でお兄さんはそう言います。

 珠恵さん……、名前の感じからしてなんか、日本人っぽい……。

 お部屋を開けば真っ暗でした、すごいくらいです。

 奥のほうにベッドランプがついてるけど、なんか変な感じに暗いです。

 ベッドランプの周りだけ明るいんです、でもあとは黒いって感じで暗いです。

 中から返事は無いです、彩萌が固まってればお兄さんに背中を押されちゃった。


「仲良くしてあげて、ね?」


 にこにこ笑いながらそう言うと、お兄さんは扉を閉めちゃいました。

 閉められたら完全に真っ暗です、彩萌は急いでベッドランプの所に行きました。

 なんか足に絡んだ気がするけど真っ暗なのはイヤです……。

 涙がボロボロ出てきます、鼻水も出そう……。うぅ、帰りたい。

 足に絡まってたのは、なんかねばねばした丈夫な紐でした。

 ぐすぐす泣きながら彩萌はベッドに触ってみます、埃かぶってて長いこと使われて無さそう……。

 珠恵さんは本当にいるの? いるんだったらどうしてこんなに暗いの?


「うぅ……暗いのヤダぁ……、帰りたい……」


 ベッドランプのおかげでちょっと明るいけど、なんか変な感じで真っ暗なんだもん……。

 彩萌が泣いてると、なんか音がした。耳が良いから、なんかいるのが聞こえちゃう。

 ごとって感じで、なんか硬いので木の床を叩いてるような音です。

 杖をついてるみたいな感じ……。


「――……お客さんなんて言うから、異変に気付いた町の人かと思ったら……子供じゃない」


 女の人……女の子? の声が聞こえました。

 珠恵さん、なのかな。珠恵さんはどうやら真っ暗な部屋にちゃんといたみたいです。

 良かった……、喋れるんだ。

 人魚なお母さんみたいなのとか、廊下にいた死体みたいな感じじゃないのかな?

 あっ……そうだ、そういえば先導ランタン君スーパーはランタンだから明かりになるかな?

 そう思って彩萌がバックから出そうとすれば、腕を掴まれた。

 硬い手です、プラスチックなお人形さんみたいな、カブトムシとかみたいな……硬い腕です。

 するどい手先が彩萌の腕に刺さってて痛いです! やめて、痛い!


「灯りは出すな」


 怖い声でそう言われました……。うぅ、ごめんなさい。

 顔を上げたけど珠恵さんの顔は見えません、なんだか目の前に黒い空間があります。

 もしかして、魔法で暗くしてるのかもしれません。

 彩萌がバックから手を出せば、その鋭い手でバックを引き千切られて没収されちゃった……。

 あうぅ……カトーナさんに貰ったものなのに。

 うえ、腕から血が出ちゃった。

 うー……なんで彩萌今日こんなに血が出てるの、死んじゃう。


「――ごめんなさい……ちょっと、人に見せられる容姿じゃないから……焦って、ごめんなさい……」


 彩萌が泣いてれば珠恵さんは謝ってくれた、でも今は許す許せないとかそんな余裕ないです……。

 怖いんです、もう全部が怖いです。珠恵さんもあのお兄さんもこの家も全部怖いです。

 今の彩萌には何もないです、神様に祈っても頭が痛くなっちゃって血が出ちゃう。

 今すごく彩萌は無力です……簡単に殺されちゃうよ。

 体を丸めて座りこんでいると、なんか……かさかさって音が聞こえてきた。

 ちらってたぶんドアがあるほうを見てると、ぴかぴかしたものがドアの下の隙間から入ってきた。


「ひっ……! ひかり、いや……っ!」


 珠恵さんはすごい怖がった声を出して、ごとんごとん音をさせて部屋のすみっこに逃げたみたいです。

 その光る薄っぺらい小さい物を見てると、ぽんって小さく音を立ててなんかふくらんだんです。


「あ……ひよこさん」

「ぴぃ……ひよこ、ちがう……。む、しゃべりづらい……」


 ちっこくってぴかぴかしてたのは、あの白くて金色の模様がある白いひよこみたいな魔物さんでした。

 ひよこさんはちょっと光ってて、ちょっとだけまわりを照らしてた。

 ひょこひょこ彩萌の近くに近づいてきます……、彩萌はちょっとだけ安心しました。


「ぴぃ……おじょうさん、きょうふに囚われるのは実に宜しくない。きちんと見なければならない、君はその為に此処に居るんだよ」

「……あれ、彩萌なんか……この喋り方聞いたことあります」

「ぴよよ、理の世界とは違うこの世界の事を学ばなければならない、道徳宗教価値観全てが君の常識に当てはまらない。君が法律(ルール)に守られる事も無ければ礼儀(マナー)に助けられることはないんだよ、この世界は常に弱肉強食で無秩序だ」


 あれれ、なんかひよこさんが可愛く見えなくなってきた。

 第三の目が怪しく緑色に光ってる……うぅ、このひよこは李白さんだったのか。

 ちくしょー可愛いひよこさんだと思ったのにぃ。


「良いかな、お嬢さん。君にとってこれから起こる出来事は衝撃的で攻撃的だ、もしかしたら致命傷になってしまうかもしれない」

「えっ……、彩萌また死にかけるんですか?」

「肉体的ではないよお嬢さん、精神の話さ。でも身構える必要は無いよ、無防備に能天気に自由に生きるのが難しくなるだけさ」


 そう言うと李白さんなひよこは彩萌の肩に飛び乗った。

「誰もが通る道だね」と李白さんは言うと、なんかぴよぴよ鳴きながら落ち着いた。

 ……何の話だろう? というか珠恵さんは大丈夫かな……?

 すごい怖がってたし、慌ててたけど怪我しなかったかな?

 なんか彩萌、李白さんのおかげでちょっと余裕を取り戻せたみたい。

 でもやっぱり、李白さんだとちょっと心配です……。





 ――アヤメちゃんの魔法日記、七十四頁

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