鬼と天狗と猫娘、時々忍者
彩萌的には李白さんの言っている意味がなんとなく分かったけど、ユーエンさんにはわからないみたいですよ。
というか超警戒されてますよ、まあ……彩萌も李白さんは色んな意味で怪しいと思いますけど。
あ、そういえばあの砂糖どうしたのかな? 近くに無いみたいですけど。
変な空気の食堂で居心地悪さを感じていると、なんかどたどた走る音が聞こえた。
「りーはーくーッ! お前リンズに来てそうそうやらかしやがったな!? ふざけんじゃねーぞ、おい!」
ばんってすごい音を立てて食堂の扉を開けたのは、李白さんと色違いな感じのテングっぽいお兄さんでした。
こっちは黒い、すごい黒い。なんかカラスみたいです。
っは……! これがカラステングという妖怪ですか!?
高下駄なのにガンガン音を鳴らして李白さんに近づきます、すごい力入ってるね。
「俺の名前を勝手に使って派手に遊ぶんじゃねぇって何度言ったらわかるんだ! お前の頭は鶏以下か、ツケてんじゃねぇよ!」
「おはよう、出来の悪い弟君。君も何度言ったら理解してくれるのかな? 弟という生き物は兄に搾取されるべきなんだよ、君みたいな出来の悪い弟なら特にそうであるべきなんだよ。君だって私の名前を使って良い思いをしているのだから公平だね」
「公平なわけあるか! 俺はお前の名前を使った事ねぇよ! 勘違いされてるだけだっての!」
「ぶっ殺すぞ!」とお兄さんはすこし悲しそうな感じで叫びます。
うむ……、李白さんは問題児なんだね。よく分かんないけど。
そんな黒いお兄さんの後ろからひょこんと金髪の女の子が顔を出します、眼が青くて肌が白いです。
「シショーのツケを払っちゃうアンアンもわりーと思いますけどねー! きっぱり清く、Noと言えないアンアンがわりーですよー!」
「そうだよ、アリシエの言うとおりだねぇ。Noと言えないアンアンが全て悪いと思うね」
「お前にアンアンって呼ばれたくねぇよ、気持ちわりぃんだよ!」
「そーれーにー! シショーの頭が鶏以下なのはもうとっくの昔に知ってたデショ?」
「ははっ、手厳しいね」
「笑ってんじゃねぇよ!」
なんか楽しそうに喋ってるので彩萌は彩萌に出来ることをしようかな。
とりあえず、彩萌だけじゃ何も出来なさそうだからユーエンさんに相談してみよう。
「あの、ユーエンさん……あの、砂糖はどうなったんですか?」
「おぉ、ギルドの方で詳しく調査するってよ。どの程度穢れているのか、いつごろ穢れたのか、出所は何処かとかな」
「あの……あの、彩萌町の中を歩いてみたいんです、出所が何処か分かるかもしれないから」
ユーエンさんにそう言えば、なぜか彩萌は引っぱられるような感覚がした。
というか持ち上げられた? 気配もなく後ろに近づくなんて、李白さんかな?
でもユーエンさんが少し驚いたくらいの顔しかしてない。
「頼む相手を間違えんな、不浄についてならそこにいる鬼よりもあの鶏頭よりも俺の方が断然詳しいし、そもそもここから先の調査は一般の傭兵に依頼する事なんて何もねぇよ」
「え……っと、えっ。あの……お兄さんは、ギルド運営してるほうの人ですか……?」
「おう、……それにしてもケット・シーは毛並みがふわふわだな」
どうやらカラステングなお兄さんに抱っこされたみたい、お兄さんは椅子に座りました。彩萌を抱っこしたままです。そしてなでなでしてきたんですよ。いや、うん。彩萌も猫とかいたらなでなでしちゃうからそんな感覚なんだろうけど、セクハラだと思う……。
くすぐったいし、いやでも彩萌今猫なんだよなぁと思うとイヤって言いにくい……。
だって彩萌も猫いたらなでなでしたくなるし……、尻尾触りたくなるもん。
うん、まあいいか。尻尾とか頭とか耳触ってるだけだし。
「アンアン、次アリシエちゃんが触るから貸してー!」
「いや待て、俺はもう少しだけ癒されたいんだ! あともう少しだけふわふわさせろ!」
「彩萌、嫌なら嫌って言っても良いんだぞ?」
ユーエンさんが心配そうに見てきます、大丈夫です。
アリシエちゃんは彩萌と同じくらいの大きさですね、あとなんか漫画とかに出てくる忍者みたいな格好してるね。
テングと忍者……和風ですね? アジアだね?
まあアリシエちゃんは見た目も名前もなんだか、白人さんみたいですけど。
「だが郁炎、お前の活躍はそこそこ聞くからなぁ……もし何かあったら依頼するかもしれねぇな」
「おぉ、そん時の報酬は期待してるぜ!」
「期待してるぜ! アリシエちゃんにも依頼してー!」
「隠密できねぇ忍者になんか誰が依頼するか」
やっぱりアリシエちゃん忍者なんだ、忍者カッコいいね。握手してください。
アリシエちゃんは握手してくれたよ、あとアリシエちゃんはお喋りだった、聞いてもいないのに自分の事を話しはじめてくれました。何でもアリシエちゃんは現実世界にいた時から忍者にあこがれていたらしい……って、アリシエちゃん現実世界の人間だったのか。
ヨーロッパの人らしい、日本語ぺらぺらだね。
……彩萌が日本語ぺらぺらだと思ってるだけで、アリシエちゃんからしたらみんな英語ぺらぺらなのかもしれないね。
「アリシエちゃんは悪魔召喚に成功して幻想世界に来たんだよ!」
「……悪魔召喚ですか?」
「うん、なんかね。すっごいすっごい青い髪の根暗だった! アリシエちゃんがお願いしたらイヤイヤこっちに連れてきてくれたの!」
もしかしてグラーノさんか、グラーノさんは悪魔召喚でよべるんだね。
アリシエちゃんがもっとべらべら喋り出しそうだとカラステングなお兄さんは思ったのか、彩萌を抱っこしたまま食堂から逃げ出したんですよ。
アリシエちゃんも追いかけて来たけどね、すごい早さだったよアリシエちゃんもカラステングなお兄さんも。
そういえば、出て行くのが早すぎてちゃんと見えなかったけど食堂の中から李白さん消えてたね。
どこ行ったんだろうね、李白さん。
リンズの町中でアリシエちゃんから逃げ切ったお兄さんはすごい疲れてた。
町の中は人がいっぱいだね、変な臭いもすごいし頭が熱くて痛いや。
そういえばカラステングなお兄さんからも穢れを感じないや。
「あの……お兄さんはずっとリンズに居るわけじゃないんですか? どういう人なの?」
「あぁ、最近リンズが変っていう依頼を受けて調査しに来たんだよ、不浄の所為なら一般の傭兵に調査させるのは不安だろ? ミイラ取りがミイラになるわ」
「李白さんとアリシエちゃんもですか? というかお兄さんは李白さんの弟なの?」
「アリシエは李白が勝手に連れて来ただけでアイツは全くもって関係ない、あと李白の名前は出すな。俺の名前は咫 李暗だから」
「アタリアン?」
「なんだ……その、ベジタリアンとかエイリアンみたいな言い方は」
「彩萌エイリアン好きですよ!」
幻想世界にもエイリアンって言葉があったんだね、もしかしたらアリシエちゃんからかもしれないけど。
彩萌の話を食堂に居た人から聞いて、コイツは使えるぜ! って思ったから彩萌を拉致るついでに李白さんに文句を言いに来たらしい。
あとアタリアンって呼んでも良いって、アタリアン……えへへ。なんか良い感じだなぁ。
よし、彩萌はどこから穢れが出てるのか調べよう。
そんな決意をして空を見上げれば、なんか真っ白な鳥が飛んでるのが見えました。
頭がくらくらする、痛いけどなんか……今はちょっと平気かも。アタリアンのおかげかも。
――アヤメちゃんの魔法日記、七十一頁




