山吹君とあやめとぽむ
私の名前は叶山彩萌、アヤメちゃんと軽々しく呼ぶことを、私が許可する!
なんてマルクス君みたいな自己紹介を今日の彩萌はしてしまうのです。
彩萌はとりいれた情報はすぐに使える子ですからね! えっへん!
マルクス君についてあまり語らない様に、お姉ちゃんに聞いてみたんです。
「きっとその子は天然腹黒じゃなくて計算した天然の腹黒に違いない!」
って言ってました。「嫌な女だぜぇ」とお姉ちゃんは言ってましたがマルクス君は男の子です。
まあ彩萌の幻想は秘密なので言わないですけどね。
今日は日曜日です。彩萌はなんと、山吹くんの家に遊びに来ちゃったんですよ!
まあ、でもほぼ毎週通ってんですけどね! 彩萌は内気で引っ込み思案な乙女ですが攻める時は攻めるのです!
お姉ちゃんも「攻めて攻めて引くくらいがちょうど良いんだ」って言ってました!
本当にお姉ちゃんは頼りになります、病気発動中は近付かないでほしいですけど。
ですが、彩萌は山吹君の家に居るのに嬉しくないのです。お邪魔虫が二人も居るんです。
彩萌はその二人へと目をやりましたよ。
「彩萌ちゃん! ネコミミ着けてたって目撃情報があったんだけどマジ!?」
「可愛くねぇ方の山吹! 彩萌に近付くんじゃねぇよロリコン!」
「うっせぇよ! お前は全国の桜ちゃんに土下座して不細工でも治してこいよ! というかなんでお前までいるんだよ!」
「お前がロリコンだからだよ! 彩萌をお前みたいなキモヲタから守る為に決まってんだろうがぁ!」
「俺は出来る紳士だぜ、Yesロリータ、Noタッチ! 俺は彩萌ちゃんにお兄様って言われるまではあきらめない!」
「ロリコンの時点で紳士もくそもねぇんだよ! ゴキブリと共に滅びろ!」
山吹君のお兄ちゃんと、彩萌のお姉ちゃんは同級生だったんです。
彩萌の大好きな山吹君が、山吹君のお兄ちゃんの弟だって知ってからお姉ちゃんが付いてくるようになったんです。
心配なんだそうです、でも山吹君のお兄ちゃん何言ってるか分かんないから助かります。
悪い人じゃないけど、怪しい人ですよ。山吹君のお兄ちゃん。
「……ネコミミ着けたの?」
「彩萌、そんなの着けないです! 山吹君のお兄ちゃんとは違うんです!」
「俺は自分で装着派じゃないから、じっくり舐めまわす様に見たいだけだから!」
「にい気持ち悪いよ、でも猫さん良いよね……」
「彩萌ちゃんのネコミミ姿はぜひ見たかったなぁ、見たかったなぁ! 大事な事だから二回は言うぞ」
「にい気持ち悪いよ、ぽむに齧られれば良いのに」
「可愛い方の山吹君の最近の口癖は、にい気持ち悪いよ、か……、キモヲタざまぁ!」
「うるせぇぞ中二病! 彩萌ちゃんが困ってんだぞ!」
「もう治ったもん! もう治ったもん!」
確かに山吹君のお兄ちゃんに、ちらっと「お姉ちゃんに漫画設定話聞かされる」とは言ったけども病気なんて言ってないのになんで知ってるんだろう……。
お姉ちゃん学校でも何かやったのかな、お姉ちゃんがかわいそうだからこの話は流した方が良いと思いますよ。
泣きそうだし、かわいそうだし、山吹君のお兄ちゃんのかぶが下がりますし。
ちなみに、ぽむちゃんは山吹君の猫さんなんです。三毛猫さんなんです!
なんだかついて行けない感がはんぱねぇです……、せっかく山吹君の家に来たのにお絵かきしてる彩萌はかわいそうな子です。
ぽむちゃん可愛いなぁ、山吹君がとりこになるのも分かります。
「ぽむ描いてるの?」
「ぽむちゃん可愛いですからね……、あの二人は意外と仲良しさんです……」
「可愛い……、そういえばあやめちゃん猫のやつ付けてたよね」
「お、憶えてたんですか……! 印象にハッキリくっきり彩萌が残ったんですね!」
「今日はなんで花なの、猫じゃないの」
「彩萌はお花が好きなんです、なんとなく気分的って奴です」
「ふーん、そうなんだー、でもぼくは猫が良いなー」
「たまーにつけようかなって思ってます」
「えー、猫が良いなー」
「彩萌的にはお花が好きなんです……」
「えー、猫が良いなー」
「でも……、彩萌は」
「猫が良いなー」
「お花も可愛いですよ……?」
「猫にしよ?」
「明日から猫さんにします!」
やっぱり山吹君は強引なんです、だがそこが良い! というやつなのです。
なんだか山吹君はとっても満足そうです、そこまで猫さんが良いだなんて……! 彩萌に勝ち目はあるのでしょうか!?
気付いたら山吹君も彩萌の横にぽむちゃんを描いてました、これは一生捨てられませんね!
「へー、二人とも上手じゃーん、私もー」
「じゃあ、お姉ちゃんリアルぽむちゃん! 此処にリアルぽむちゃん描いて!」
「え……何その無茶ぶり、お姉ちゃんリアルにゃんこなんて描けないんですけど!」
それでも描いてくれるお姉ちゃんは、やっぱり優しいです。
お姉ちゃんのぽむちゃんを見ていると、山吹君のお兄ちゃんも見に来たんですよ。
「お前下手くそだな! それになー、君たちぽむはもっと怪獣系なんだよ? がおーって鳴きそうな感じなんだよ? こんなにお淑やかな猫はぽむじゃない!」
「それはにい限定のぽむだよ、にいの大好きな限定版だよ、描いてよ」
「限定版は良いぞ、プレミアムだ。今の彩萌ちゃんもプレミアム期間なんだぜ?」
山吹君のお兄ちゃんが描いたぽむちゃんは、彩萌のぽむちゃんを食べようとしてるようにしか見えませんでした。
がおーというより、きしゃーって感じですよ?
そして空いてる場所にささっと、なんだか萌えキャラみたいなのを描き始めたんですよ。
「彩萌ちゃんのネコミミが見たかったなぁ……」
「キモいわ、マジでキモいわ、死ねよロリコン社会のゴミめ!」
「ぼくも見てみたい、猫人間、なってみたい、猫人間」
「ネコミミ少年か、陸斗らしい」
「……彩萌は、山吹君がなるなら猫人間になりたいです」
「陸斗今からネコミミ持ってくるから装備しろ」
「絶対やだ」
「お兄ちゃんの命令が聞けないなんて……! 反抗期か!? 反抗期なんだな、リク!」
「にいのゴミみたいな目で見られる彩萌ちゃんがかわいそう……」
「マジでかわいそうだよ私の彩萌が、だからさ、死んでくれないかな?」
「陸斗の言葉が胸に痛い……! あと不細工は全国の桜ちゃんに土下座してから俺に謝れ!」
「んだごらぁ! 不細工不細工うっせーんだよ! お前は私に謝ってから全国の大空君にジャンピング土下座でもして来いよ!」
また言い争いが始まっちゃったんです、これは喧嘩するほど仲が良いってやつなんですか? それともマジで仲が悪いんですか?
三人が話していると彩萌は喋れなくなっちゃうんです、勢いに付いて行けないんです……。
彩萌がわたわたしていると、山吹君は私に気を使ってくれるんです。
やっぱりイケメンは違いますね! 優しいです!
惚れてまうやろーなんです、まあ彩萌はもう惚れてますけどね!
「猫人間、次なるときはぼくにこっそり見せてね、ぼくだけにね、にいに言ったらうるさいから」
「わ……わかりました」
「そういえばぼくね、催眠術の本叔父さんに貰ってね、練習中なんだよ」
「催眠術? なんで突然催眠術なんですか?」
「催眠術でね、下僕にしたいのがいるんだよ、ぽむもぼくの下僕なんだよ」
「山吹君はなんだか怖いですね! これも俺様ってやつですか?」
「んーわかんない、でもそれがね、ちょっとよく分からないから気になるんだよね」
「ノラ猫さんですか?」
「そんな感じ、でもね猫さんってそこが良いよね、彩萌ちゃんも猫さんだよね」
「彩萌は人間ですよ! 彩萌はほもさぴえんすですよ!」
「餌をくれるならだれにでもすり寄って甘えるの、好奇心旺盛だから新しい味が好きみたい、好奇心は猫をも殺すんだって」
「えっと、えっと難しいです、彩萌は誰にでもすり寄って甘えないですよ?」
「知らないから治せないって、だから催眠療法とか良いんだよ」
「山吹君はものしりですね、カッコいいです! でも彩萌はすり寄らないですよ」
「そういえば、彩萌ちゃんきらきらだね」
山吹君はたまに分からない話をします。頭がこんがらがっちゃいそうです。
話もたまーに飛びます、でもそこが不思議で面白いです!
山吹君はみんなに不気味くんとか、不思議くんとか呼ばれてますけどそれが魅力だと思うんですよ!
目に見えないものが見えてるみたいだけど、幼少なら誰にでもあるアレだと思うんです。山吹君は想像力豊かなんですよ!
彩萌はそんな不思議な山吹君が大好きなんです。
――アヤメちゃんの現実日記、七頁