慈愛の毒
クロードサニス様をむかえ入れるために、玄関へと行く優一さんについて行きます。
よく見れば優一さんのほうがちょっとだけ背が高いよ、ちょっとだけね。
玄関を開ければすごい困り顔の黒猫さんが見えます、髪の毛は生えてないです。
優一さんを見てその黒猫のクロードサニス様は急いで近づいてきます。
「ちょ、っと……どうにかして、わっわたしは女性がちょっと、に……苦手なんだ!」
「ちょっとどころじゃないし、そもそも他人が苦手だよな。化けの皮が剥げてきてると思うよ」
「しっ、しょうがないじゃないか……! あのっ、水色の女の人がっ変な事を言うんだ……!」
「ヒズミさんは変なことしか言わないですよ、気にしたら負けだと思います」
クロードサニス様は彩萌が話しかければ悲鳴を上げてた。
この人大丈夫かな……? 顔色も悪いです。
噂に聞いたクロードサニス様はちょっと生意気そうでナルシストっぽい人だったのに全然違うんだね。
噂は全部演技だったのかなぁ、大変だね。
「大丈夫ですか? 顔色悪いですよ、優一さんどうにかしてあげられませんか……?」
「……俺が話でも聞いてくればいいんだろ? 師匠は休んでれば?」
優一さんの後姿を見ながらクロードサニス様はびくびくしてた。
彩萌がいるから中に入って休めないのかも……、彩萌はとりあえず外に出ようとすればクロードサニス様に近づくことになっちゃうから家の奥にちょっとだけ行った。なんか苦手なのに近づいたり、近寄られたりしたらストレスになるかなって思った。
彩萌は気づかいが出来る子猫なのですよ! えへん。
「……あ、ありがとう」
彩萌がはなれればクロードサニス様は小さくお礼を言ってた、ホッとしたような顔もしてる。
ようやくクロードサニス様はお家の中に入れて彩萌たちがいた居間に行ったんです。
彩萌はどうしようかな? 外を見れば優一さんがファナさんたちと話してた。
うん、彩萌も居間で待ってようかな……?
彩萌はクロードサニス様のことを考えて居間のドアをこんこんってノックしましたよ。びくってしてた。
「えっとぉ……クロードサニス様、彩萌も居間で待っててもいーですか?」
「えっ、あっ……えっと、…………だいじょぶ、です」
うん、グラーノさんと同じような感じなんだねたぶん。
ちなみにマタタビ酒は鍵のついた棚に入れられてましたよ。
彩萌はお茶を引き寄せてクロードサニス様から離れた場所に座ります。
適度な距離感が大事ですよ。
グラーノさんも適度な距離感が必要でした、って言っても彩萌にはべったりだったけど。
クロードサニス様は彩萌をちらちら見てます、気になるよね。
「彩萌の名前は、叶山彩萌って言います。彩萌が名前ですよ! えっとークロードサニス様って呼びにくいのであだ名つけて良いです?」
「うぇっ、あ……あだ名?」
「うーんと、クロ様とかサニス様とか……彩萌的にクロ様が良いと思うんです」
「く、クロ様……さ、さまはとらないんですね……」
「様づけはイヤですか?」
「えっ!? い……嫌じゃないです! 嫌じゃないんですっ! ごめんなさいっ!」
「良かったー、じゃあクロ様ですよ! 彩萌のことも好きに呼んでいいですよ」
「はい」と小さく呟いてクロ様はうつむいちゃいました。
イヤじゃないみたいです、顔は真っ赤だった。恥ずかしいんだね。
グラーノさんもなんか優しくされたりするの恥ずかしいって言ってたし、そうだと思う。
たぶんだけど。
「あのっ……あの、気持ち悪いでしょ……こんなのい、イヤになるよね……だからあのっごめんなさい……」
「うーん、重症だなーって思います! 大変ですね!」
「じゅっ重症で、す、すみません……」
「大丈夫ですよー、なれてますー」
クロ様はなんかホッとしたような、複雑そうな顔をしてた。
彩萌失礼なこと言っちゃったかな? まあいっか。
「あやっ、彩萌さんは……あの、そのっ……えっと」
クロ様はなんて言ったらいいのか考えてるのか、もごもごしてた。
大丈夫ですよ、ゆっくりもごもごしてください。彩萌はグラーノさんでなれてますからね。
ぶっちゃけ言えば早く言ってほしいけど、急かすともっと言えなくなるってグラーノさんで知ったから彩萌は何も言いませんよ。
「……本当に、その……ケット・シーですか? あっ……、あっ変なこと言ってごめんなさいっ! べつに変な意味じゃなくてっ、ただなんかっ……変な感じがしたからっ、ゆーいちとは違う感じで変だったからっ、なんか、その……っ悪い意味じゃなくって! そのっ、神聖な感じがしたから……っ!」
「ぜんぜん気にしてないですよ、クロ様落ち着いてください。彩萌は大丈夫ですから」
「……すみません」
「まあ、彩萌は普通のケット・シーじゃないですよ。彩萌は彩萌ですから」
「そ、……そうなんですか。……本当にすみません」
なんかクロ様って猫っぽくないね、まあいっぱい猫がいるからあれだね。十人十色?
クロ様は彩萌がたいくつしないように話しかけようとしてくれてるのかな、頑張ってるね。
あ、ちんもくが辛いんだね。二人っきりなのにちんもくだと嫌なんだね。
なんか話しかけたほうが良いのかなって思ってれば、優一さんが帰ってきた。
ファナさんとヒズミさんはいなかった。窓の外を見ればいたけど。
「師匠あの二人聖域について知りたいらしいけど、どうする? 今日は無理だろ、というか本性見られたからいつでも無理っぽいけど」
「あっ……えっと、わかんない……、――あっ!?」
クロ様は優一さんの首を見ておどろいたような声を上げたんですよ。
視線は首輪一直線です、口開いてますよ。イケネコが台無しですよ、まあ彩萌的にイケネコ具合まったく分かんないんですけどね。人間の感性だから?
「ゆーいち……、その首輪……」
「えっ、これ師匠が着けたんじゃないの? なんか新しい魔具だと思ったんだけど、違うの?」
「ち、違うよ……、それっ、それ次の王様の証だよっ!」
「……はぁ!? ちょっと、冗談。ありえないって!」
あぁ、そういえばあの白い猫さんも言ってたような。
次の王様は猫神様がくれた首輪がなんたらかんたら、気づかないうちにつけられてるんだね。
なんか大変なことになりそうだね、……あっこのお茶美味しい。
「わたしはっ……、ゆーいちが居ないと困るよ。どうやって……い、家までついてくる女性をあしらえばいいの!?」
「いや、それくらい自分でどうにかしてよ。まあ俺は猫の王様にはなりたくないから」
「自分でどうにかできるならっ、どうにかしてる!」
優一さんが居ない時はどうしてたんですか。
もしかしてそれが苦痛でここに引っ越してきたとかそんな理由があったりして、まあ分かんないけどね。
それにしてもクロ様どうしてそんなに他人が苦手なのかな、何かトラウマでもあるのかな。
「……彩萌的に、猫神様に会いに行けばいいじゃんって思います」
「そうだよ、師匠が結界の管理とかしてんだから聖地に行けるだろ? なんとかしてよ」
「でもっ……わっ、わたしはっ」
「優一さん猫神様って危険な存在ですか?」
「そんなこと無いと思うけど、というか話自体ほぼ無いけど」
「ならみんなで行きませんか? クロ様が出来ないところとかフォローしますよ! だから、大丈夫です」
「あっ、あ……っそう、かな……」
彩萌がクロ様の顔を覗きこんで言えば、顔をそらされちゃった。
グラーノさんはこういうとき顔覗きこむともっとうつむいて体ごとそらすけど、クロ様は顔だけそらすんだね。なんか面白いな、顔だけそらすんだー。へー。
彩萌が追いかけて顔覗きこもうとすれば、さすがにクロ様に止めてくださいって言われちゃった。
近くで見られて恥ずかしくなっちゃったのかな。
それとも近づかれてイヤになっちゃったのかな?
見ていた優一さんが「彩萌さんって誤解されやすそうだね」って呟いてた、なにが?
「彩萌さんも……来るの……? あっ、でもっ……夜に行くかもしれないしっ。なんかっ、すみません!」
「行っても良いなら行きますー、猫神様見たいです!」
「そ、ですか……、猫神様……見たいんだ。うん、そっか……うん、がんばる」
「――師匠、分かってると思うけど彩萌さんは幼猫だからな? この状態を見たのに優しくされたからその気になったとか言うなよ」
あれ、彩萌クロ様に懐かれたの?
優一さんにたいしてクロ様はあやまってた。優一さんはため息吐いてた。
うーん……、彩萌って魔物とかに好かれやすいみたいだからそれも作用してるのかもしれないけどなんかごめんね。
というかクロ様泣くなよー、本人に泣いてる自覚なさそうだけど。
「あっ、でも彩萌が行くならヒズミさんとかファナさんとかも来るかもしれませんよ?」
「えっ、それはイヤ……」
「良いじゃん、護衛になるし。自分達で聖域に行ってもらえば師匠が話すことなくなるじゃん。自分で調べればいいんだし」
「あっ、そっか……」
けっきょくファナさんたちも含めてみんなで行くことになりました。
首輪をしてることを見られないように夜に行くって、なんだか冒険ですね。どきどき。
あとね、クロ様にあんまり優しくしない、あと近づいちゃだめって優一さんに言われちゃった。
演技してる時のクロ様なら大丈夫だけど、演技してない時のクロ様は女性に弱いからダメなんだって。
そういえば、たぶん彩萌だけ演技してるクロ様見てない……。
見たかったなぁって思いながら、彩萌はその約束を伝えるために家から出たんです。
それを聞いて酒場で時間を潰すということになった、たぶん彩萌は暇になるね。
それを思ったのは彩萌だけじゃなかったようで、ヒズミさんは酒場には行かずにお店見てくるって。彩萌もついて行くことにした。
ちらってクロ様の家を見ればクロ様が窓から見てたから手を振っといた。
あぁー、演技してるクロ様見たかったなぁ。
――アヤメちゃんの魔法日記、六十五頁




