魔法使いの弟子
酒場に行って、クロードサニス様について聞いてみた。
イケネコでイケネコでイケネコで、ひきこもりで弟子が一人いるらしいです。
すごい人でイケネコなんだけど性格はあまりよろしくないとみんな言ってました。
なんでもちょっとナルシストっぽくていらいらすると、酒場の酔ってる猫さんたちは言ってました。
イケネコだからって調子乗ってんじゃねーよすごいけど、って言うのが皆さんの意見でした。
ヒズミさんと彩萌はジュース飲んでたけど、ファナさんは酔ってる猫さんたちと一緒にいっぱいお酒飲んでました。
色んなぐちとか話が聞けました、お酒の力ってすごいね。臭いけど。
テグア=クロードサニス様はケット・シー一の魔術師で、外から来た猫さんらしい。
ムジネコの通りの一番奥の古惚けた一軒家に住んでて、王宮で働いているらしいです。
集落に結界を張ったり、マジックアイテムを作ったり薬を作ったりしてるそうです。
たまーに人の姿に化けて隣国のリンズにお出かけしたりするらしいです。
良い年齢なんだから彼女の一人くらい作ればいいのにって、酒場のおばちゃんが言ってた。
ちなみに弟子も外からの猫で男の子の目付きが悪いグレーな子猫らしくておばちゃんが言うには、あの目付きにゾクゾクする、クロードサニス様よりイケネコになる! らしいです。クロードサニス様は黒猫で眼が赤黒い感じでやさおとこなんだって。やさおとこって何?あとグレーな子猫が自称弟子だと言っているだけで、どちらかと言えば使用人に近いんだって。医学に詳しくて、クロードサニス様が作ったお薬とかつかってお医者さんみたいなこともしてるらしいよ。
そのお医者さんみたいなお弟子さんの名前は、ユーって呼ばれてたのを聞いた人がいるらしい。
でも自分から名乗ったりはしないらしいですよ。
そんな話を聞きながら、彩萌たちはついでにご飯も食べてたんです。
「なんだか夢が広がると思わないかい、イケコネコとイケネコが同棲してるんだよ」
「……? どうせいってこういうのに使う言葉じゃないと思います?」
「ナルシストな天才系優男と強気で押しかけな秀才系やんちゃ少年か……美味しいね」
「うん……? ……んー、このスープ美味しいです」
また長ったらしくよく分かんない話されるのかなぁって思ってたら、ヒズミさんはファナさんに小突かれて続かなかった。
でもなんか話したかったのか、ヒズミさんはちょっとうずうずしてた。
そういえば誰もクロードサニス様を天才って言ってなかったと思いますよ。
お弟子さんも秀才って言われて無かったけど。
ごはん食べ終わって、ファナさんがお支払してくれて酒場を出たんですよ。
ナルシーならよいしょしておけばなんか話すだろ、とファナさんとヒズミさんはそう結論づけしてクロードサニス様のお家に行くことになりました。それはちょっと失礼な気もしなくもないような? あと彩萌に聞こえないようにひそひそ話もしてた。
ムジネコ通りの一番奥の行き止まりの所に古惚けた一軒家はありました。
空き家ばっかりの場所に、灯りがついている家が一つだけ。目立ちますね。
同族のほうが警戒されにくいだろ、と言うことで彩萌がチャイムを押すことに。
ぽちって押せば、ちりーんって音がしたよ。
「……誰ですか」
でてきたのはグレーのお弟子さんです、髪の毛生えてないケット・シーさんです。
大きさは彩萌と同じだね。
そういえばこう言えって言われてないけど、何言ってもいいのかな? うーん。
「えっとー……、叶山彩萌です。同じ外から来た猫さんだって聞いて……ちょっと気になってあいさつに来ました?」
「かのやま……あやめ?」
「あっ、彩萌が名前で叶山が名字……ふぁ、ファミリーネームです」
「分かってるけど、……ここら辺では珍しい名前だと思った」
ちらって彩萌の後ろの二人を見てお弟子さんは「師匠はいないよ」って言いました。
うーんぶっきらぼうな感じですね、うん。
お弟子さんはちょっと考えながら、彩萌の後ろの二人を見たんです。
「彩萌さんなら中で待ってても良いけど、そこのよく分かんない二匹はダメ……帰って」
「えーなんで! まさか彩萌ちんにイケナイことする気なの!? 雄猫二匹の棲み処にか弱い彩萌ち――ッう!?」
ヒズミさんがなんか叫んでたけど、ファナさんに殴られてた。
小突いてないよ、殴ったんだよ。
頭押さえてもだえてるヒズミさんを見下してから、ファナさんはお弟子さんを見たんだよ。
ちょっとヒズミさんがかわいそうな気がするような、しないような。
「そこの窓から中の様子が窺えるな、そこで話せるか? 防音はしてもかまわん」
「……まあ、それくらいなら良いと思うよ。彩萌さんはそれで良い?」
え……、うんまあ良いけど。
何か変なこと言われたら合図しろよ、ってファナさんに言われて彩萌は家の中に入りました。
家の中はきれいです、古惚けてないね。
それにしてもなんで彩萌はおっけーされたんだろ?
ファナさんに指定された居間に入れば、窓の外でなんか怒られてるっぽいヒズミさんが見えた。
なんで怒られてるのかな? 彩萌はお弟子さんに言われて椅子に座りました。
お弟子さんはお茶を出してくれたよ。
良い匂いがするけどさっきスープいっぱい飲んじゃったからいらないかも……。
「彩萌さんのその名前って、本名?」
「えっ? うーんと、彩萌の偽名はフルーリアですよ」
「……彩萌さんって、何歳?」
「十歳ですけど……」
「俺の背が低いだけか」とお弟子さんはなんか小さく呟いてた。
この質問は何なんでしょうか、重要なことなんですかね?
お弟子さんは自分でいれたお茶を飲みながら、なんかため息吐いてた。
なんかー、それって彩萌に失礼じゃないですかー?
「……俺の名前は香坂優一です、もしかして彩萌さんも同じなのかなって思ったんだけど想像以上に若くてなんか……ごめん」
「同じ……あっ、あぁ! えっとゆういちさんもえっと現実世界から来た人なんですね!」
そう、ってお弟子さんこと優一さんはうなずきます。
えっ……猫なのに!? 猫なのに人間なの!?
どうしよう、彩萌は一応生まれ変わったからこの見た目なんだよね。
優一さんとはちょっと違うような気がする。ごめんなさい。
でも実は彩萌生まれ変わっててー、なんて言えないし……。
困ったようにじーっと優一さんを見れば、なんかきらきらした首輪してた。
あれー、彩萌が見てきたケット・シーさんたちは首輪してなかったのに。おしゃれアイテムなのかな。
「俺は気付いたら雪原で寝っ転がってて、この姿だったんだよね。彩萌さんはどう?」
「えっと、彩萌は森の中で寝っ転がってて動けなかったです……」
「へぇ……そこらへんは似てるんだ」
なんか優一さんは考えてますけど、ごめんなさい。彩萌はその前から幻想世界にいます。
あっ、でも優一さんも現実世界から生まれ変わった可能性があるのか……。
……なんか、むずかしく考えると面倒だからいいや。うん。
彩萌は一応まだお子様ですからね、むずかしく考えるのは大人の仕事なのさ。
優一さんが出してくれたクッキーを食べます、美味いです。
「優一さんって何歳?」
「十七歳、でもこっちに来たのは十六歳」
「彩萌より年上ですね。でもその割には背が小さいです! ケット・シーさんはみんな背が低いですけど」
「子供って残酷だな、面と向かってそう言っちゃう? 思った事をすぐ言っちゃうんだよなチビッ子は……」
そうなんですよね、思ったことをすぐ言っちゃいます。
優一さんは落ちこんでいるように見えます、なんかごめんなさい。
「……彩萌さんはぜんぜん大丈夫そうだね、俺は来た時すごい悩んだのに。今も悩んでるし人型になりたいけど」
「えっと、彩萌は優一さんとはちょっと違くて……彩萌は自分からこの姿になったんです、だからなんか……ごめんなさい」
「どういうこと?」
「えっとぉ、彩萌はなんかちょっと体がめんどうなことになってて死ぬしかなかったから……無理にお願いして生まれ変わらせてもらったんです」
「それって……、成功率どれくらいだったの? ぜったい成功するの?」
「えっ……成功率はわかんないけど、ぜったいじゃなかったです」
「すごいね」と一言優一さんは言って、お茶を飲んでた。
そのあとどうして死ぬしかなくなったのかと聞かれて彩萌はちょっと困った。
正直に言えなくて、彩萌の体が魔力を拒絶しててあれるぎーみたいな何かが出ちゃっててとか説明した。
嘘じゃないけど、ちょっと嘘を吐きました。ごめんなさい。
「……だから楽しそうなんだ、俺はちょっと楽しくないなって思ってたのに」
「にゃ、優一さんはここにずっといるの?」
「そうだよ、人間に戻りたくて人間に化けられる師匠にあこがれて土下座してここに居させてもらってる」
「どうして人間に戻りたいの?」
「まあ、彩萌さんはチビッ子だからわかんないよね。俺的に猫を好きになるのはちょっと無理かなって思ってるって言うか、なんて言うか」
ネコミミならまだセーフだった、らしい。
猫の姿だといろいろと辛いらしいです、彩萌はまだ分かんないけどそのうち分かるのかな?
それにみんな小さくてイヤなんだって、何で小さいのが嫌なのかな?
よく分かんない話ばっかりだったけど優一さんは同じようなきょうぐうの人にぐちを聞いてもらいたかったらしい、お役にたててうれしかったです?
でも彩萌も人に戻りたいなって少し思います……、だって山吹君と結婚したいもん。
でもイケコネコと言われるのは悪い気はしないらしいですよ。
子猫って言われるのは気に食わないらしいですけど。
複雑な男心ってやつですか?
ふと気になって窓の外をちらって見れば、ヒズミさんとファナさんが黒猫さんに話しかけてるのが見えた。
黒猫さんはすごい困ってる顔してるのが印象的でした。
あと二人はその黒猫さんに瓶を押しつけようとしてました。
「……あれの中身って何?」
「えっとー……マタタビ酒らしいですよ?」
「あーなるほど、だから師匠あんな顔してるんだ」
何がなるほどなのか聞いたら、子供にはまだ早いらしいです。
やっぱりお酒は子供にはまだ早いんですね……うん。
彩萌はよく分かんなかったけど分かった気がしたよ、ついでに彩萌が元人間なのは秘密にしてくださいってお願いしといた。
優一さんも元人間である事は秘密なんだって。
ちなみに黒猫さんはなんか、困った顔をしながら受け取ってたよ。
ちょっと恥ずかしそう……なんでかな。
それを優一さんに聞いたら一つだけ教えてくれた、師匠がクールで完璧猫を演じてるからだって、それにすごいこみゅしょうだって優一さんは言ってました。
――アヤメちゃんの魔法日記、六十四頁




