猫の王国
途中迷いながら、酔いながら風になっていれば何もなかった雪原に小さな道と看板があらわれました。
人の姿に戻ったファナさんと、ヒズミさんが看板を覗きこんでたけど首をかしげてた。
見たことない文字で書かれてたんだって、彩萌も気になって覗きこんだんですよ。
たしかに見たことない文字が書いてあったんだけど……。
「ねこいがいたちいるべからず、まねかれたくばおうさまにめずらしきものをけんじょうせよ?」
彩萌には読めた、やっぱり彩萌はケット・シーになってしまったようです。
というか見たことない文字なのになんで読めるんだよー、魔法かこのやろー。
「珍しいものぉ? そんなの持ってないし! というかケット・シーにとって珍しいものってなんだい?」
「彩萌は分かりませんよ……、あ……そうだマタタビ酒とか良いんじゃないですか?」
「だが、それはお前のものだ。お前は猫だから関係ないだろう?」
「でも、困ってるんですよね? マタタビ酒は何かあったら使えって渡されたんです、彩萌は今が正にそうだと思うんです」
「彩萌ちん……」とヒズミさんが感動していました。えへん、感謝するように。
彩萌がファナさんに瓶を渡せば、ファナさんは微妙な顔をしてた。
ダメ……かな? なんだっけ、情けはうけないとかほどこしはいらぬ的な感じでしたか?
でも彩萌的には受け取ってほしい、ケット・シーの集落に遊びに来れたのは二人のおかげだし。
「それにほら、本当に何かさしださなきゃいけないのか分かんないし……別に大丈夫そうなら返してくれれば良いです」
「彩萌ちんは良い子だね! それに比べてボク達は醜い大人だよ、何か要求されたら彩萌ちんを猫質にでもしてみようかなって考えてたのに」
「……そんな事を考えていたのか、お前は」
ファナさんと同じことを思いましたよ、そんなことを考えていたんですねヒズミさん。
じーっとヒズミさんを見ていれば、ヒズミさんはにっこり笑った。
むー……、まあ思ってただけですし許します。
本当に実行したら彩萌は許さないですよ。
三人で小さい道を歩きながら行きます、ヒズミさんは一人でべらべら喋ってます。
ファナさんはでかい、すごい背が大きいです。
ヒズミさんは小さいです、でも二人ともぺったんこですね。
……どこがとは言いませんケド。
彩萌もぺったんこなんでおそろいですね、どこがとは言いませんケド。
ちなみに瓶はヒズミさんが持ってた大きいバッグに入れてた。
「……あ?」
なんかずっと黙ってたファナさんが低い声を出したかと思えば、彩萌はなぜか浮遊感というやつを感じていました。
視界はひっくり返ったような感じです、腰とか背中とかいろいろ支えられてる……?
突然の出来事に目をぱちくりさせていれば、彩萌はまた風になったわけです。
「きゃー彩萌ちんがケット・シーの集団にさらわれたー。たいへんだー」
ヒズミさんの棒読みな感じの声が聞こえた。
ちらりとそっちのほうを見れば、狼になって燃えながら追いかけてくるファナさんが見えた。
ぶっちゃけ怖いですよ。うん。
彩萌を支えてるのを見ると、彩萌みたいな猫がいっぱい。
髪の毛生えてるやつと生えてないやつがいます。
えっ、彩萌なんでさらわれてるの……?
「えっ……、なっなんなんですか!」
「にゃー、珍しい猫だからおうさまの献上品にするにゃー」
「外からの猫はすんごい久しぶりだから献上品だにゃー」
「よろこぶにゃ、しんでれらすとーりだにゃん?」
よろこべないにゃん、あとストーリーだと思うにゃん。
落とされるのが怖くて暴れられないでいると、なんか村っぽいとこに突入したんです。
ちょっと小さいお家がならんでます、ファナさんが入ったら頭ぶつけそう。
そしてまたちょっとすると、なんかお城に入って行った。これは大きい。
しばらく待っていれば、彩萌は投げられたんです。
ちょっと、危ないじゃないですか!
彩萌がケット・シーじゃなかったら着地できなくて頭を打ってましたよ!
「にゃっ……美しい着地だったにゃ! ネコ式着地術大会に出したら間違いなく優勝候補だにゃ!」
「にゃにゃ、素晴らしい一回転だったにゃ。着地後の姿勢の良さも素晴らしいにゃん」
「ぼくには真似出来ない着地でしたにゃ!」
彩萌の後ろでにゃーにゃーうるさく、わいわいさわいでいます。
でも……そんなにきれいな着地でしたか? ちょっと嬉しいです。
そして彩萌の目の前には大きい猫さんがいました。太っちょでふてぶてしい顔の白いにゃんこです。
じーっと彩萌を見てます、だから彩萌も見ました。
なんかにらみ合いしてるみたい。
「……黒いからヤだ」
「にゃっ! 黒猫差別ですにゃ! じゃあこの猫はクツシタンの一員として迎えても良いにゃん?」
「にゃにゃっ、ズルいにゃ! ネコ式着地術大会で優勝するのはミケネコーズだにゃ! あれは三毛猫だにゃ!」
「何を言ってるにゃ、アレはりっぱな靴下柄だにゃ! 三毛猫かも知れなくても靴下猫だにゃ!」
そもそもネコ式着地術大会ってなんだにゃん。
着地した時の美しさをきそってるのか、技術をきそってるのかよく分からにゃいにゃん。
というか王様の前で言いあらそってて良いのかな? 王様は眠そうに欠伸してる。
うん、なんて言うか猫だね。
「王様大変です、なんかふぁいやーでわんわんなあんでっとが雪山よろしくふぶいてますにゃ」
「好きにすれば」
「えっ? お通ししろって? にゃにゃん、王様もふぁいやーですにゃん?」
誰も人の話を聞いてなさそう……、うん。
しばらくしたらファナさんが彩萌に走りよって来たんです、……ヒズミさんはどうしたんだろ。
「大丈夫か? 何かされてないか?」
「うーん……しいて言うならネコ式着地術大会の選手になりそうです?」
「そうか、おめでとう」と普通にファナさんは受け入れた。
ファナさんって、あれだね。なんていうか、うーんじゅんすい?
まだクツシタンかミケネコーズか言いあらそってる猫さんたちの横を通って、お城を出て行きます。
なんか集落の門の所まで行けば、なぜかヒズミさんが大きいたいまつ? に縛りつけられてました。
怪我はなさそうだけど、何で縛られてるの?
「彩萌ちんケット・シーって超強いね、なんか気付いたらぐるぐる巻きにされてたんだけど」
「妖精にしては珍しく戦闘もこなす肉食獣だからな」
「ファナですら気配に気付かなかったもんね、恐ろしい連中だよ」
ヒズミさんは自力で縄を切って、飛び下りた。
自力でぬけられるんだ、傭兵ってすごいんだね。
「縛り付けられたけど敵意は無いみたいだね、荷物持って行かれなかったし」
服の汚れをはらいながらヒズミさんとファナさんは歩き出した。
彩萌はどうしようかなーって考えながら別の方向に行こうとすれば、ヒズミさんが戻って来て彩萌は引きずられたのです。
なんでだ、だって二人は仕事で来てるんでしょ? 彩萌がいたら邪魔にならない?
まあ……あいさつしないでどっか行こうとしたのは悪いと思いますけど。
彩萌はヒズミさんに引っぱられながら、ケット・シーの集落を探索することになったのです。
――アヤメちゃんの魔法日記、六十二頁




