紫の王子は純粋に王子様してました
私、叶山彩萌、この自己紹介の仕方にも飽きてきたチョッピリ現代っ子なセクシーガール。小学四年生。
彩萌の体が本当に変になっていないのか、病院でせいみつ検査を受けてきた帰りなのです。疲れました。
だから今日も学校を休んでしまったのです。山吹君に会えないのが寂しい。
寂しい気分になると、嫌な事を考えてしまうのです。
山吹君は猫さんが大好きなのです、猫さん中毒なのです。
彩萌はその猫さんに勝てる自信が有りません、どうしたらいいのでしょう?
黒くてツヤツヤな猫さんも白くてフアフアな猫さんも、大好きなんです。
トラちゃんな猫さんも三毛猫さんも、猫さんならどんとこいなんです。
あんにゅいです……。彩萌には猫さんの様な愛くるしさが無いのです!
ふあああああ! 彩萌は猫さんの耳と尻尾はいりませんが猫さんの様な愛くるしさが欲しいいいいい!
小悪魔系じゃなくて、こにゃんこ系なセクシーガールになりたいのです!
そんな事を考えながら、彩萌はベッドの上でじたばたしてました。
埃がまってしまうのでよくない事なのです、お母さんに怒られそうです。
「何をしているのですか? 苦しいのですか?」
「彩萌は苦しいです! 恋の病なのですよ!」
「なんと……、恋の病ですか! あの不治の病と言われるあの恋の病ですか!」
「そうなんです! 私は恋の病にかかっているのですよ!」
彩萌は誰とお話しているのでしょう、聞いた事の無い声がするのです。
でも本が落ちた様な音はしなかったのです、しゅこうを変えてきたというやつなのでしょうか?
彩萌が顔を上げれば、きらきらしていました。
カッコいいとかそういう意味じゃないんです、実際にきらきらしてたのですよ。
彩萌より少し背の高い男の子です、黒い色なのかと一瞬勘違いしちゃったけども良く見れば紫色なのです。
宝石みたいな色できらきらしてます。眼も紫色で、服装は幻想的じゃないんです。
現代っ子みたいな服を着てます、でもなんかネックレスとか指輪とかイヤリングとかしてて、それに大きな宝石が付いてました。
全体的にきらきらです、そして何よりもその子は王冠を被ってるんですよ! オシャレに言うとクラウンですよ!
その王冠はその男の子を良くあらわしてました、紫色の大きな宝石とかできらきらにデコレーションされてます。
彩萌も女の子ですからね、きらきら好きですよ、きらきら。
そんなきらきらをじーっと見てたら、きらきらさんは心配そうな顔になったんです。
「あの……、こちらの世界の住人はこのような服装だと聞きましたから……、変でしたでしょうか? 違和感がありますか? これでは幻想の住人だと分かってしまいますか?」
「えーっと……、服装は普通だけど……普通そんな大きな宝石を付けたアクセサリーは子供はつけないのです」
「そうでしたか……! 私としたことが……何たる不覚、常識が無くお恥ずかしい! 王子失格です……」
「きらきらさんの王子様の判断きじゅんは常識があるかどうかなんですか?」
「もちろんです、人にお会いするのですから恥ずかしくなくきちんとした服装で無ければなりません、王子ですからね」
「正装という事ですか? それは普段着なのですよ」
「ふぁっ!?」
きらきらさんに教えてあげると、驚いた声を上げて顔色が最悪になっちゃったんです。
真っ青な顔色できらきらさんはうつむきながら話し始めたのです。
「醜態をさらしてしまい、誠に申し訳ない」
「私は気にしないのですよ、きっちりされると緊張しちゃいます」
「彩萌さんは優しいのですね、リーディア君が気に掛ける理由が分かります」
「彩萌はリーディアさんに会った事が無いのです、彩萌は優しいんじゃなくってただの一般ぴーぽーの子供だからですよ?」
「いえいえ、失態に対してそのように優しい言葉を掛けられるのは優しさですよ」
「きらきらさんはたぶん一般ぴーぽーの生活を知らないんですね……」
俗世間にすれてないきらきらなお子様みたいです。
見た目もきらきらですからね、純粋なきらきらさんなんですね。
そしてきらきらさんは重要な事に気付いてしまった様な、そんな顔をしたんです。
「何という事でしょうか……! 私は女性の寝室に無断で入ってしまった! 謝るだけでは足りません!」
「本から出てきたから仕方ないです、本だとコンコンできませんよ?」
「僕は責任を取らねばならないと思うのです……!」
「いちにんしょうが僕になってますよ?」
「失敬、私は責任を取らねばならないと思うのです!」
「そんな重大な事の様にとらえられると彩萌は困ってしまうのです、私って言いにくいなら僕でも良いと思うなぁ……」
「いけません! 男性が無断で女性の寝室に入るなど、赦される行為ではありません、野蛮な行為なのです! だって私は王子なのですから!」
「どうして男の人が無断で女の人の寝室に入るとダメなんですか?」
「私の口からは到底言えません……! その様な事を話題に出すのも本来ならいけない事なのですよ、彩萌さん!」
「彩萌はタブーを犯してしまったんですね……! イケナイ事だったんですね……!」
「そうなのです、だから私は責任を取らねばならないのです。王子が無断で平民の娘の寝室に入ったなどと噂になれば王族の名に傷がつきますからね、私と婚姻を結んでください」
「こんいんってなんですか?」
「責任を取る方法の一つですよ! 大丈夫です、平民からの出だとあれですけど、理の人間なら問題ないでしょう、僕も知らない変な人を正室にしたくないですし」
「なんだか……丸め込まれそうになっている気しかしません、ことわりのにんげんってなんですか?」
「幻想じゃない世界の人間の事を指す言葉ですよ、とても珍しいですし、異世界の文化と知恵を持っていますから重宝されているのです」
きらきらさんは俗世間にはすれていないようですが、きっとお偉いさんの世間ですれてます……。こんいんの意味を彩萌が知らないって知った時のきらきらさんの顔が少しあくどかったです。
責任を感じていた顔はどこへやら、きらきらさんの顔は怪しくきらきらしています。
「そうですよ、理の人間と婚姻を結ぶなんて王子として最高だと思うのですよ、策略的です! 幼い内なら色々と楽ですし」
「あの……何を言っているのか分からないです」
「知らぬが仏ですよ、色々と仕込めますからね。珍しさというのは人の心を惹きつけます、理の母は異世界の人間だったらしいですし、第二の聖女として指導者としてもこれ以上ないくらい美味しいです、宗教的にも美味しいですね、彩萌さんは寝室の雰囲気や話し方から聡明さも窺えますし妃に相応しいと思うのですが、どう思いますか?」
「もう分からないことが多すぎて、頭がふしゅーってしそうですよ?」
「可愛さも兼備していますね、これは奸臣ですらぐうの音も出せないでしょう!」
一人納得してきらきらさんはうんうんと頷いていますが、彩萌には何が何だかわかりません。
一気にご機嫌になったきらきらさんは彩萌に笑い掛けます、元気になったのは良いですが何だか怖いです。
そう言えば彩萌はベッドで寝っ転がりながら話を聞いていたのです、それは常識的に許されるのですか?
なんだか常識的に許されない気がしたのでベッドに座りました。そうしたらきらきらさんも隣に座ったんですよ、なんだか近い気がします。
「そういえば私の名前を申し上げるのを忘れていました、私はユヴェリア・マルクス・トリアライド=ヴァージハルト第二王子です、マルクスって呼んでも良いのですよ、私が許可します」
「えっとぉ……、どれが名前ですか?」
「ユヴェリアが簡単に言いますと公の場で使用する名前です、マルクスがプライベートで使用する名前です」
「……偽名なんですか?」
「いいえ、両方とも私の本当の名前です。ですがマルクスという名前は親しい人や家族以外が呼ぶのは不敬に値しますよ」
勉強になるような、ならない様な微妙な話です。だって近くにそんなややこしい人居ないですし。
まあ世界にはきっとこんな名前の人も居ると思うのです、だって世界は広いですから知っておくことにこした事は無いです。
まあ、とりあえずきらきらさんの事はマルクス君と呼ぶことにします。本人の希望ですからね。
「マルクス君は難しい事を言うんですね、彩萌は全くもってわからんのですよ」
「良いんです、今は分からなくて! 良いんです、彩萌さんはそのままで良いんです。むしろそのままじゃないと困りますから」
「綺麗な笑顔でこんな事を言うマルクス君はきっとお姉ちゃんが言ってた天然腹黒系に違いないのです」
「だからお願いです、婚姻をしてほしいんです!」
「よく分からない事には頷いちゃダメってお姉ちゃんも言ってましたよ!」
「……ッチ」
この子、舌打ちを打った! 舌打ちを打ったんです!
やっぱりマルクス君のお腹の中は黒いんです! 決定的瞬間でした。
ムッとした表情のままマルクスくんは彩萌の手を取ります、なんだかキザ野郎みたいですよ。
そしたら何を思ったのか、彩萌の腕にチューしたんですこの子!
訳が分からないです!
なんだかマルクス君にチューされた辺りに紫色のきらきらした模様ができちゃったんです。なんなんですかね、こいつ。
「恋慕……、打ち消すには真なる情愛が必要でしょう、六年で消せなかったらしてもらいますからね」
「何で六年何ですか?」
「この世界では女性は十六歳で可能なのでしょう?」
「彩萌にはわからん……」
「まあ六年後にはもう正室が居ると思いますから、側室でしょうね」
そう言うとマルクス君は立ち上がりました、その手にはリーディアさんの魔法書が握られていたのです。
どうやら帰るようです、なんだかちょっぴり不機嫌ですけど。
「あ……、そう言えば彩萌さんは健康体ですか?」
「今日全身くまなくチェックしてもらいましたよ! 健康でした!」
「そうですか、なら大丈夫ですね、無病息災を祈ってます、じゃないと元気な赤ちゃんが産めないですからね」
「……? なんで赤ちゃんの話が出るんですか?」
「――……あともう一つ用事を忘れていました、リーディア君から贈り物を預かってます」
マルクス君は話を逸らして、小さな箱を取り出しました。綺麗にラッピングしてあります。
彩萌にそれを渡したんですが、何でリーディアさんが私に贈り物をするんでしょう?
「貰って上げてください、それではまた会いましょう? 次会う時は受け入れてほしいですね」
「まって、このきらきらはどうすれば良いんですか?」
「それは魔術が使える者にしか見えません、この世界で見れる人はほぼ居ませんから大丈夫です」
にっこり笑うと、マルクス君は綺麗な音を立てて消えちゃいました。
鉄琴みたいな音でした、不思議です……。
ちょっぴりぼーっとしてましたが、彩萌はリーディアさんからの贈り物を開けました。
中身はにゃんこの飾りがついたぱっちんな髪留めでした。
「わー、山吹君が好きそうー」
明日学校に行くときに着けて行こうと思います、彩萌は花柄が好きですけどね!
でも山吹君は猫さんが大好きですからね、これで山吹君に彩萌の可愛さをアピールするのです!
マルクス君の事はすぐに頭から消えてました、むしろ消しました。
彩萌は幻想をちょっぴり受け入れるといいましたが、王子を受け入れる気は無いのです。
――アヤメちゃんの魔法日記、六頁