森を越えて、芽吹く
目元が痛い、リイムの実は美味しい。
お姉さんすごい美味しいです、素晴らしいよ。
彩萌はもう立ち上がらないといけません、旅立たねばなりません。
彩萌にしか出来ないことだから、彩萌は頑張ります。お姉さんみたいに。
困っている人がいたら、助けるのがぜんりょうな市民です。
聖女とか関係なく、彩萌はそう思います。
立ち上がって、ぴょんぴょんって枝から枝へとびうつって下へと行きます。
彩萌が彩萌のままだったらできないことだね。
地面へと下りるときはすごい高かったけど、飛び下りたけどどこも痛めませんでした。
村人さんたちの視線が痛い、まだいたんだね。
「猫様……、大丈夫ですか?」
「大丈夫です、ぜんぜん大丈夫ですよ! 木の上から見た景色はすごくきれいでしたよ!」
カトーナさんが心配そうに話しかけてきてくれました。
彩萌はもうこのことでは泣かない、そう決めたんです。
木の上では大きな森が広がっているのが見えました、さっきまで居た場所ですよ。
そんな森の先、パステル色のきれいな森がありました。
行ってみたいなって思う、だってピンク色の木が生えてるんだよ。
どこ行けばいいか分かんないから、目についた場所に彩萌は行くよ。
「彩萌はもう行きますね、カトーナさんありがとうございました」
「待ってください、わたくし勘違いしてたみたいで……猫様はいったい何者なんですか? 邪神族では無いのでしょう? ……猫様は、聖女様なのですか? だって聖女様の遺体が消えたって聞きましたよ!」
なぜばれたし、えーっなんか木とか大きくしちゃうのって聖女のとっけんかなんかだったの?
どうしよう、彩萌聖女あつかいされたくないし……。
困った顔をしていれば、カトーナさんは笑ってた。
「無粋な質問でしたね、猫様は猫様でしたね。邪神族でも聖女でも無い、ただの猫様ですよね」
「うん……、彩萌はただの猫です。……というか遺体が消えたってどういうことですか?」
「猫様は知らないのですか? 再び目を覚ました聖女様は一週間ほど過ごされた後、亡くなってしまったのです。その遺体は厳重に保管されながらも公開されていたのですが……、突然消えてしまったそうです。多くの観光客が見ている前での出来事でした」
マジかよ、どういうことだし。
というかやっぱり公開されてたんだね、……なんで消えちゃったのかな?
神様に聞きたいけど……、どうすれば会えるかな?
「クレメニスの大司教様も、魔王様も大慌てだそうで……本当に不測の事態だったそうですよ」
「そ……そうなんだ」
ディーテさんが慌てるってことは、神様にとっても不測の事態?
あれ、彩萌帰ったほうが良いのかな……?
というか不測の事態なら神様から会いに来そうだけど、何もないから平気なのかな?
「でも、噂によれば聖女様が消える際に多くの穢れが祓われたとも聞きます。聖女様が澱みの海に連れて行ってくれたのだと噂する者もいます」
……澱みの海かぁ、神様のリーディアさんが居るところかな。
そんな話が立ってたんだ、でも間違ってなさそうなところが怖いよ。
噂してる人はきっとすごい占い師だよ、だってちょっと当たってるもん。
彩萌たしかに、澱みの海とかいう場所行ったよ。
澱みの海って名前だって知ったのは、さっきだけどね。
「……ありがとうございます、いろいろ知れてよかったです」
「猫様はこれからどこに? 何も持たずに行くのは危険ですよ、わたくし達が昔使っていたお古でも良いなら差し上げましょうか?」
「本当ですか!」
カトーナさん……貴女は女神だ!
カトーナさんと一緒に馬車の方まで戻ります。
馬のようすを見ていて一緒に来なかった旦那さんは、彩萌を見て少しだけ悲しそうな顔をした。
たぶんお姉さんが隣にいなかったから、そんな顔をしたんだね。
「営業許可を頂いてきましたから、ジーノは広場の聖樹のあたりで準備をしてきてくれませんか?」
「……あぁ、分かったよ。猫様、またいつか」
にこって笑顔を作って彩萌に声をかけてから、旦那さんは必要そうな道具を持って行ってしまいました。
簡単な小屋みたいなのを魔法でたてるらしいよ、そこで商売するんだって。
そうやって小さな村とか、集落を回ってカトーナさんたちは商売してるんだって。違う場所に移動する時も魔法で小屋を壊して、馬車につみこんで旅に出るんだって。魔法って便利。
「これはわたくしが少し前まで愛用していたショルダーバックです、これでもいっぱい物が入りますよ」
「彩萌にはちょうど良いです、あんまり大きいといっぱい入れちゃったら持ち上がんないですもん」
「ふふっ、そうですね。古いですが地図も差し上げますね、この地図は大まかな事は分かりますけど小さな町や新しい町が書いてありません。逆に無くなってしまった町や国の名前が書いてあるのですよ」
「無くなった町や国の名前に線入れておきますね」とカトーナさんはていねいに羽ペンで線を引いてくれました。
カトーナさんには感謝してもしきれないです……。
そんな姿を見ていれば、カトーナさんは地図をおりたたんで近くにあったスケッチブックと色鉛筆の箱も一緒に差し出してきたんです。
「えっ……、それは貰えないですよ! だって商売道具でしょ?」
「いいえ、このスケッチブックと色鉛筆は村長さんからの猫様へのプレゼントなんです」
彩萌は困った顔をしてたと思うけど、カトーナさんにぐいーって手渡されてちょっと笑っておいた。
「もっと良い物を差し上げたかったけど、この村には何もないっておっしゃられていましたよ」
「……今までは何も無かったけど、今は聖樹があります」
「ええ、そうですね。ここも観光地になれそうです……、こんなに大きなリイムの木は見たことがありません」
「クレメニスのよりも立派です」そう呟いて、カトーナさんは木を見上げてた。
彩萌も一緒に見上げます、下から見ても大きくてきれいな木です……。
若草色の柔らかそうな葉っぱが風にゆられています。
「リイムの実を貰って行ったほうが良いですよ、リイムの実は日持ちしますから良いと思います」
うん、そうだね……。
ショルダーバックに地図と色鉛筆とスケッチブックを入れて、肩にかけます。
「カトーナさん、本当にありがとうございます」
「猫様が何処に行かれるのかはわかりませんが、無事をお祈りしております。……またいつかお会いしましょう!」
彩萌はカトーナさんに手を振って、また広場に戻ります。
リイムの実を貰って、それから旅に出ます。
実を貰おうと思ったけど木登りしたら木に傷がついちゃうと気付いて、諦めようかなって思ってたら頭の上に実が落ちてきたんですよ。
ありがとうお姉さん、でも痛いんですよ。リイムの実ってそとがわ硬いから。
いっぱい落としてもらった。
「……えへへ、お姉さんまたね!」
聖樹に手を振って、彩萌は走って村から出て行きます。
バックがけっこう重い、肩こっちゃいそう。
すごいはやく走れて、すぐにさっきまでいた森についちゃった。
お姉さんの家の、穴があります。
ちょっと、休憩しよう。やっぱり走ると疲れます。
やっぱり穴の中は、きれいだった。
――アヤメちゃんの魔法日記、五十四頁




