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アヤメちゃんの魔法日記  作者: 深光
始まる為のエンディングノート
55/107

世界のために、君は生る

 リッテは、本当に小さな村でした。でもきれい。

 ここらへんって雪が多いのかな、ちょっとだけ雪が積もってる。

 だって今、夏らしいですよ。

 彩萌が現実世界にいた時はまだ冬だったのに、まだ全然時間たってないように感じてたけど幻想世界(ふぁんたじー)と現実世界は時間の流れが違うの?

 もしかしたら、冬の後に夏が来て春が来て秋になるのかもしれないけど。

 ……まさか彩萌が生まれ変わるのに手間取ったせいで時間すごいかかっちゃったとか?

 カトーナさんは村の外に馬車を置いて、村長さんとこ行った。

 旦那さんは馬のようすとか見てる。

 ログハウスとか雪が残ってる緑色の山とか……スイスみたい! 行ったことないけど!


「きれいです、お姉さんのおかげでこのきれいな景色が守られたんですね」

「……そうかな?」


 そうですよ、お姉さんがいなかったらあのオーパーツだって見つからないでずっと動いてたよ。

 そうしたらもっと汚れて、酷いことになっちゃう。

 雪が白くなくなってたかもしれないです。


「猫さん泣いてるの?」

「泣いてないです……、お姉さんは彩萌みたいに生まれ変わるんです、みんなの役に立って愛されるそんざいになるんです……」

「……? 猫さん生まれ変わったの?」


 短い間しか一緒にいなかったけど、お別れは悲しいです。

 もう動いてるお姉さんに会えないんです……、悲しい。

 しばらくしたら、カトーナさんとおじさんがやってきました。

 おじさんが村長さんらしいです、民族衣装ってやつなのかな? モコモコしててきれいな色した服きてます。


「邪神族である猫様の意思と聖樹の願いを尊重してくださるそうです」

「せめて苦しくない方法でお願いします……!」


 魔法で眠るように生命活動を終わらせられるようにするって、苦しくないって。

 お姉さんは、ホッとしたような顔してた。

 苦しくない方法だからホッとしてたんじゃなくて、木になれることに安心したらしいです。

 彩萌たちは村の広場のすみっこにある小さい教会に連れて来られました。

 扉は開かれてて、村人さんたちが教会の外から見てました。

 教会の神父さんが魔法を使ってくれるらしいです。

 神父さんは大きな杖を持ってて、それの先っぽに青い色の大きな宝石がついてた。

 魔石だって、あれで力が安定するんだってお姉さんが小声で教えてくれた。

 青色の魔法は、ハープみたいな音ですごいきれいで透き通るような音でした。

 お姉さんは魔法をかけてもらう時にひざまずいて、手を合わせて祈ってた。

 彩萌よりも、何十倍も聖女らしかったです。

 美しいってこういうのを言うんですね。

 すごい、きれいで静かでなんて言ったらいいのか分かんないけど、悲しいです。

 お姉さんは、本当に木でした。

 動かなくなったりするんじゃなくて、時間を早回しにしたみたいだったんです。

 人形みたいに滑らかな肌から、枝が伸びて若葉が生えて花になって、一つだけ実がなったんです。

 実が落ちて、お姉さんは枯れてしまいました。

 きれいな若草色の髪の毛は、枯草のような色になってしまいました。

 本当に、もう動かないんですね……。枯れちゃったんですね。

 落ちた実は、ずっしり重くてあざやかな青い色の大きくてりっぱな実でした。

 すごく、良い香りがした。

 すごいすごい……、良い香りです。


「――彩萌泣かない……」


 お姉さんは、みんなの役に立てる聖樹になりたかったんだもん。

 みんなが、喜んでくれる聖樹になりたかったんだもん。

 みんなに笑ってほしかったから、怖がったりしてほしくなかったから、実になったんだもん。

 だから彩萌は……、泣いてなんかいないです。

 今までお姉さんは警告の木として頑張ってきたから、今度は彩萌が頑張る。

 頑張るって言っても、力をなんかしてくれるのは神様だけど。

 彩萌が教会の外に出れば、村人さんたちが引いてた。

 彩萌が邪神族だって思われてるからかな? まあ今はどうだって良いです。

 この広場広いから、聖樹が一本あったって平気だよね。

 日が良く当たって、見晴らしの良さそうな場所に彩萌は手で土を掘って実を入れて埋めます。

 もうお姉さんが苦しまないような、そんな願いを聞いて欲しいです。


「――聖樹リイムに少しでも良いから、木の中に入っちゃった分だけでも良いから……穢れを浄化する力をつけてあげてください。もう人を襲う魔物なんかにならなくて良いように、みんなの役に立てるようなそんな木にしてよ! あやめもっと頑張って、祈るから……!」


 警告なんて必要ないくらい、頑張って穢れの元とか探すから。

 お姉さんが守ろうとしたこの土地を一生見ていけるような聖樹にしてよ。

 誰も悲しまない、誰も傷つけない聖樹にしてあげてよ。

 お願いです、神様。お姉さんの願いをかなえてあげてよ。

 そう祈っていれば、額がすごく熱くなった。

 熱くて痛かったけど、お願い叶えてくれるならこれくらいどうってことないよね。

 なんか地面に血が落ちてたけど、彩萌は見てない。

 ゴーンって鐘みたいな重くて低くて響く音がしたんです、そしたら魔法陣出ててびっくりした。

 彩萌が前祈ってたとき、こんなことになったっけ?

 魔法陣はすごく、すごく黒い色でした。

 植えた場所から芽が出て、一気に成長するのが見えた。

 あ、やばいって思った時にはすでに遅くって、彩萌はなんか引っかかっちゃった。

 怖かったからぎゅーって目を閉じたから、何があったかよく分かんないです。

 しばらくして止まったから目を開ければ、彩萌はすごい高いところにいました。

 この辺りをいちぼうできるくらい、高いです!

 嬉しくなって立ち上がっちゃったけど、ケット・シーになったおかげかバランスは崩さなかったです!

 良い香りがしたから、その方を見れば大きな青い実がなってました。


「……えへへ、りっぱな木だねぇ」


 笑っていれば、彩萌の頭の上に実が落ちてきてびっくりした。

 凄い良い匂いで、美味しそうな実でした。


「彩萌、下りられるかな……」


 猫さんになったから大丈夫な気がする、それにしても高くて大きな木だね。

 クレメニスにある聖樹よりも、大きいかもしれない。


「緑色のおっきいドラゴンが飛んでる」


 額に触れば、肉球に血がついてた。

 やっぱり彩萌の額の宝石の辺りから出血したみたいです。

 木の下で、村人さんたちのさわぐ声が聞こえる。

 でも、もうお姉さんは何処にもいなくてやっぱり木になっちゃったんだ。

 それをお姉さんが望んだことだって分かってるけど、それがお姉さんの幸せだって分かってるけど。


「ごめん、彩萌やっぱり……」


 悲しくて涙がいっぱい出てきちゃった。

 リイムの実はすごくさわやかで、甘くて酸っぱい香りがして。

 そういえばお姉さんも、そんなにおいがしてたかなぁ……。

 彩萌は木の幹に背をあずけます、聖樹は……生きてる音がする。

 お姉さんにまた会いたいけど、お姉さんにまた会っちゃったらそれは悲しい結末だからダメなんだよね。

 お姉さんは聖樹として、りっぱに生きていくんだよ。


「彩萌も、二体目の聖女として頑張ります……」


 さわさわと、柔らかそうな葉が風にゆれます。少しだけ風が冷たい。

 クレメニスで目覚めなかったのは、きっと彩萌がほかの場所で必要とされてるんだ。

 お姉さん、彩萌は頑張る。

 クレメニスに帰るのは遅くなっちゃうかもしれないけど、もっと彩萌は世界を知って頑張るから見ててね。

 だから彩萌は、いっぱい動けそうなケット・シーになったのかもしれない。


「こんどは、山吹君とかも連れて来るから……いっぱいいっぱい花咲かせててね」


 次はどこに行けばいいんだろう? どこに行くべきなんだろう?

 地図が必要だよね……、彩萌お金持ってないからゲットするのが大変だね。

 物を持ち運べるバックとかも必要かも、色々となやましいね……。

 いろいろやんなきゃいけない、――けど……しばらくここで、……泣いてても良いかな。





 ――アヤメちゃんの魔法日記、五十三頁

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