聖樹の魔物
ぎゅいんぎゅいん――がちん、ぎゅいんぎゅいん――がちん。
そういう音が近くでするのは聞こえるのですけど、正体がドコにあるのか分かんない。
なんか確かにここら辺はくさいかもしれない、あぶらっぽくて魚みたいではっこう食品みたいな、とにかく……変なにおいがする。
本当に分かりづらい場所にあるみたい、確かにここで音がしてるのにないです。
ここらへんはちょっと坂になってて、むかしどしゃ崩れが起きたみたいで大きい石が山になってるんですよ。
苔がいっぱい生えてて、ちょっと湿っぽい。
たしかにここで音がするのに、見当たらないなぁ。
というか額がすごく熱いです……、痛くないけど熱い。
なんか、この熱い感じドコかで体験したことがあるような気がします。
触ればやっぱり、熱くなってるのは額の宝石でした。
「……それ、綺麗だね。真っ黒で……暗い夜の宝石だね」
……彩萌はたぶんカーバンクルじゃなくてケット・シーになったんですね。
だって、そんな宝石はきっと神様がつけたに違いないです。
じゃあ熱いのは……穢れに反応してるからなのかな?
ちょっと便利だね。
「フルージェ」
「……にゃ? ふるーじぇ?」
「うん、黒い宝石のことをそう呼ぶんだよ……」
なんだかひびきが、やわらかくてぷるぷるしてて牛乳のあのデザートみたいですね。
彩萌はけっこうあれ好きだよ、簡単だからお母さんが文句言わないし自分でできるからお母さんも楽だね。
牛乳こぼしたときはあれだけど、鬼があらわれるけどね。
だからお姉ちゃんに作ってもらってたよ。
お姉ちゃんは良いお姉ちゃんだよ!
そのかわり彩萌はお姉ちゃんにイケニエ(夕飯のおかずとか)をささげなければならないけどね!
「見付からないね……」
「……かくれんぼしているとき、人は自分の目より上は探さないらしいですよ! 上かもしれませんよ!」
結果を言います、上には何もなかったと!
石の山をよじのぼってみたり、木の上見たりしたけどなかったよ。
というか上を頑張って探したけど、音からはなれて行くだけだった。
上にないなら……下?
でも下は土とか岩しかないよ。
……土掘ったりするのかぁ、ツメがおれたら痛いかな?
そういえば、鼻は使ってなかったね。
臭いで場所が分かったりするのかな~、ちょっとやってみよう。
――……やらなきゃよかった。
彩萌は鼻を押さえながら、お姉さんに言います。
「あの石とかの隙間から、すごいにおいがしてた」
「……石、退かすの危ないね。猫さん……下がってて」
とりあえず、安全そうな場所まで下がりました。
お姉さんは大丈夫かな、というか何するのかな?
腕まくりして、お姉さんはなんか格闘家みたいなポーズ取ったんです。
カッコいいね、何するんだろうね。
なんだか鈴みたいな音がして、地面がきらきらしたんですよ。魔法陣ってやつ?
えっ、格闘家みたいなポーズ取ったのに魔法なの?
あ……、でもよく見たら魔法陣白く光ってるから灰色の力です?
灰色は肉体強化、だっけ?
あれ、でも無意識下で発動するんでしょ?
……おぉ! 色が変わった! 白から緑になった!
緑色に変わるときはなんか笛みたいな音がしたけど……色によって音も変わるの?
そんで緑色から、なんか白っぽい緑色になってきらーんって強く光ったんですよ。
魔法ってすごいきれいなんだね。
それで白っぽい緑の魔法陣は小さくなって、なんかしゅーって感じでぐわーってなって両手にもようが移動したんです。
もうなんか、しゅーって感じでぐわーだった。
それでお姉さんは岩を殴ったんです、岩は砂みたいに粉々になってしまいました。
すげぇ、もうなんかよく分かんないけどすごい。
んで崩れそうな岩とかもそんな感じで壊しちゃって、きれいになっちゃいました。
彩萌は拍手しといた、魔法すげぇ。
「お姉さんさっきの何なんですか?」
「んー……本質を把握する緑で意識下に灰色を持ってきてどかん?」
「複合技ですね! カッコいい!」
そっかぁ、無意識下でしか発動できない灰色だけど緑使えば意識下でも使えるんだぁ……。
自由に使えれば、すごい楽だし強いね!
お姉さんすごいんですね! 流石聖樹リイムの魔物です!
お姉さんはすごい強いのかもしれない。
石の下には、洞窟みたいなのがありました。
なかからぴちょんぴちょんって水が落ちる音と、ぺたんぺたんって音がしててぎゅいんぎゅいんがちんです。
すごいにおいがしてるけど、彩萌はお姉さんと一緒に奥に進みます。
明るいところから暗いとこ行ったからちょっと見えなくなったけど、すぐにはっきり見えるようになったんです!
猫の目ってすごい! これからは灯りいらずだね!
洞窟の中は湿っぽくて、足元ぬるぬるで気持ち悪い。
しばらく歩いていれば、なんか人の手がはいった感じで道がでこぼこじゃなかった!
そしてそのもっと先には扉があったんですよ。
何かカギかかってて開かなかったから、お姉さんが殴って壊したんです。
中は湿っぽくなくて、本棚と机があってなんかエンジンみたいな機械が部屋のすみっこにあった。
えっと……発電機かなぁ?
でもそれから、臭いにおいがしてます。
「これですか?」
「……うん、これだと思う」
ぎゅいんぎゅいん、ってなってがちんって音がしてる。
がちんって何の音かな、って思って彩萌が裏に回ってみたらとなりの部屋になんかパイプみたいなのがつながってた。
となりの部屋の扉を開けたら、なんか小さい石みたいなのがいっぱいなだれみたいにでてきた!
なんか真っ黒な石ばっかり、でも部屋の奥には緑色の石がいっぱいだった。
「これは……、コアを生成する機械なのかも」
「コア?」
「魔石……本当は長い時間をかけて生成される魔力の塊なの、これの所為で魔力の枯渇化と穢れが同時に進んでるんだね……」
「壊すね」と呟いて、お姉さんはぎゅいんぎゅいんがちんってうるさい機械を殴ります。
この黒い石……、触ってるとすごい頭の宝石が熱い。
穢れを凝縮した石なのかな。
よし……、神様お願いします! 穢れをきれいにして、緑色の石を元の魔力に戻してこかつかをなんとかしてください!
黒い石をにぎって、彩萌はそれを額に近づけて目を閉じて祈ってみます。
なんか近づけたほうが効果ありそうな気がしたから。
「わ、すごい……無くなっちゃった」
お姉さんの声を聞いて、目を開けば部屋に石はなかった。
なぜか本棚の中の本もなくなってた。
機械も、もう見る影もない感じで壊れてました。
「終わっちゃったね、すごいきれいになっちゃった。嬉しいけど、なんか……さびしい」
「お姉さん……本当に村に行くんですか? だってお姉さんは魔物じゃないですか……でも今は大丈夫なんでしょ? ……それでも、村に行くの?」
「……私が死んだら、種になる。そうしたら、木になる。リイムの実が生ったら、いろんな人の役に立つよ」
「リイムの実は栄養満点だし、薬にもなれる」とお姉さんは言います。
お姉さんの決意はかたいようです……、彩萌が何を言ってもダメそうです。
「……彩萌は、見届けないといけない気がします。村に一緒に行きます」
「えっ、でも……危ないよ」
「だって、見届けないとお姉さんの種は彩萌の手に渡らないです!」
なんかそんな話をしていたら、じゃりって感じの足音がしました。
その方向を見れば、村娘って感じでそぼくな感じの女の人がいました。
彩萌とお姉さんを見て、なんか泣いてた。
「良い話ですぅ、わたくし……感動しました、やはり聖樹は穢れてしまっても聖樹だったのですね……!」
「えっ……誰ですか?」
「ぐすっ……、わたくしはカトーナと申します。旅の雑貨商をやっております。猫様、以後お見知りおきを」
カトーナさんは彩萌に握手をもとめたんだけど、いっぱい黒い宝石がついた指輪とか腕輪してた。
握手したけど、額は熱くならなかったから穢れてるわけじゃなさそう。
というか、カトーナさんは何処から見てたんだろうか。
村娘って感じのそぼくな見た目だったけど、よく見れば腰にすごいほっそくて長い剣がついてた。
なんか腕にも、鎧みたいなごつごつしたのつけてる。
「村人への説得はわたくしにお任せくださいませ! 猫様の手に種が渡るように、このカトーナがお力になって見せましょう!」
「えっ、でも……良いんですか? カトーナさん関係ないのに」
「良いんです! だって猫様は、本当は邪神族なんでしょう!? 穢れを浄化するのは邪神族ですから、あぁでも良いのですよ、ケット・シーの姿を取り世を忍んでいらっしゃるのでしょう!? だからみなまで言わずともこのカトーナには分かります! 旅人達にとって、フルーは暗い夜でも守って下さる神として信仰されてますから……。わたくしはお役に立てることを嬉しく思います!」
あ、なんか勘違いされてた。
つまり彩萌が祈ったときから見てたんだね。気付かなかった。
「……猫さんは、邪神族さんだったんだ」
……勘違いされてたほうが、良さそうかな。
あんまりいい気分じゃないけど、しょうがないよね。うん。
「さあ、猫様参りましょう! 馬車がありますから、村までは少し遠いですがすぐにつけるでしょう!」
カトーナさんもすごいきらきらした顔です。ごめんなさい……。
洞窟を出て少し歩けば、立派な馬車が二つありました。
色々な色をしたお馬さんがいます、爽やかそうなお兄さんもいました。
爽やかそうなお兄さんは、カトーナさんの旦那さんらしいです。
結婚してたんだね、すごい若そうに見えたからびっくりしちゃった。
カトーナさんの馬車に乗って、彩萌たちは村にむかいます。
このへんにある村は、リッテていう小さい村だけらしいです。
ちなみにお姉さんは、お馬さんが怖がるからってちょっとはなれたところを歩いてた。
……お姉さんみたいな悲しいリイムの木が生まれないように、なんとかしたいです。
でも、どうすれば良いんでしょう?
――アヤメちゃんの魔法日記、五十二頁




