海を越えて、生まれる
気が付けば、落ちている気がする……。
真っ暗で光もないからよく分からないけど、水の中にいるみたいにくるしい。
光がないけど、見えないわけじゃなくって不思議な空間です。
幻想世界に来たときみたいな空間にいるのかな。
もしかして、彩萌生まれ変わるの失敗したの?
そうかもしれない、なんだか悲しみもわかないけど。
眠っちゃおうかな、このまま。
目を閉じて、流れに身をまかせようとしたんですけど彩萌の腕を誰かがひっぱったんですよ。
ちょっと痛かったけど、目を開けばびっくりしました。
山吹君!? かと思ったけど顔とか背格好が似てるだけで、目の色とか違うし髪がすごく長くてさらさらです。
目は燃える様な、赤い色でした。
「こんなところに落ちて来るなんて、お前は運が良いな」
山吹君よりも、声が低いし喋り方が違うから絶対に山吹君じゃない。
山吹君が絶対にしないような、あくどい感じの笑顔でした。
「そうやって俺を否定するなよ、俺だってリーディア・マクレンシア・ドルガーなんだぞ」
否定している気はないです。でもお兄さんもリーディアさんなんだ?
なんかよく分かんないけど……、さらさらの長い髪がうらやましいですよ。
「あそこまで完璧に魔力を拒絶する彩萌は初めてだ、でもそんな魔力を拒絶するお前のおかげで俺の役割が少しは変わるかな」
彩萌が喋ろうと思って口を開けば、音は出なかったです。
でもテレパシー的な感じで会話が成立してるから、必要ないですよね。
リーディアさんは何者なんでしょう?
「此処は世界の澱み、浄化されるのを待つ穢れの海。普通の魂だったら、此処に落ちた瞬間に消えてるだろうな」
あ、じゃあ彩萌は拒絶してるおかげで無事なんですね?
「そう、……それにお前のその性質のおかげで俺は眠りから覚めたわけだ」
……山吹君そっくりな、もう一人のリーディアさんはもしかしてもう一人の神様?
そんな穢れた場所で一人で眠ってたなんて、普通じゃないもんね。
そういえば、リーディアさんに掴まれてるおかげかもう落ちてる感じがないや……。
「良いか彩萌、俺の存在は有って無いような物で口に出して良い話じゃない、誰にも俺の事を話してはいけないし悟らせてはいけない。精霊に気を付けろよ、アイツ等は頭を覗くから」
……どうしてですか?
「俺の存在を認知されれば此処から現世に通じる道が出来るから、そしたら俺は同じ魂を持つ山吹陸斗の魂を喰ってしまうかもしれない」
「俺の方が大きいから」とリーディアさんは呟いた。
リーディアさんは自然な動きで彩萌の手をはなして、顔にさわるんですよ! セクハラです!
でも山吹君と同じ顔してるからどきどきしてしまう、くそーこのやろー……。
「お前には感謝しないといけないな、サービスしてやるよ」
リーディアさんはにやにやしてそういうと、彩萌に顔を近づけたんですよ。
額にちゅーされた、……ギャァ――――ッ! なんてことを!
セクハラだ! セクハラだっ、コイツ山吹君と同じ顔でなんてことを!
「同じ顔だからしてやったんだろ、喜べよな」
山吹君はそんなことしないもん!
「こんど山吹に会ったらねだってみれば良いじゃねーか、喜ぶかもしれないぜ?」
にやにや笑ってそう言うんですよ、この人たぶん……女たらしってやつなのかもしれません。
彩萌のことが好きってわけでも無いのに感謝のちゅーとか、ありがた迷惑すぎますよ。
同じ顔だから良いとか、そんなことは無いのです。
「まったくアイツって優等生ちゃんだよなぁ? こんなチビッ子が好き好き言ってんだから好きに教育してやりゃあ良いのになぁ?」
うん……、彩萌は山吹君が好きだな。このリーディアさんはなんかヤダな。
顔から手をはなして、手をまた持ったリーディアさんは言います。
「そろそろ現世に戻してやるよ、生きたいって強く望めよな」
そう言ったリーディアさんは、彩萌の手を強く引っぱったんです。
そうすれば、なんか浮く感じがして苦しい感じがなくなったんです。
強くせきこみたくなって、思わず目を閉じちゃいます。
彩萌はげほげほってむせながら、ゆっくりと目を開いたんですよ。
そうすればきれいな青い空と揺れる緑色の木の葉が見えて、彩萌は生きていることを実感したんです。
――……でも、体がぴくりとも動きません。
どうしよう、いやどうしよういぜんに動けないから意味ないね。
ぼーっと空を見てれば、背の高そうなお姉さんが見えた。
そのお姉さんは彩萌の顔を覗きこむんですよ、ちょっとびっくり。
褐色って言うんだっけ? 褐色の肌に緑色の目で、ちょっと若草色の髪で寝ぐせがひどいお姉さん……。
……よく見ると、首に切れ目がある?
あ、指が見えて完全に分かった。このお姉さんはお人形さんみたいな魔物さんだ。
「……ふあふあ、もふもふ」
彩萌のほっぺたを触りながらそう呟きます、……彩萌のほっぺがもふもふなの?
えっ彩萌ふあふあで、もふもふな生き物になっちゃったの?
お姉さんの指は、木のように硬いです。たぶん木だと思う。
「きゅーん……、硬い」
なんか引っぱられた……、ヒゲがある生き物なのかもしれない……。
彩萌が動けないからって……好き勝手にしないでください!
「……コツコツ?」
彩萌の額をつつきながら、お姉さんはそう言いました。
たしかに彩萌の額から、お姉さんがつつくたびにコツコツ音が鳴ってます。
「……カーバンクル? ……でも紅くない? ……亜種?」
分かんないです……、あとコツコツするの止めてください。
なんか頭にひびいてやな感じがします。
不思議そうにしながら、コツコツするのを止めてまた彩萌のほっぺたを触るんです。
「ふあふあー……、持って帰ろ~……」
そう言って彩萌を持ち上げます。
お姉さんにお持ち帰りされちゃうようです……、どうしよう。
早く動けるようにならないかな?
……もしかしてずっと動けないとか、ないよね?
――アヤメちゃんの魔法日記、五十頁




