白い嘘吐きとお友達になりました
私、叶山彩萌、病気でもないのに休んじゃったチョッピリワルな大人の女性、ゴロゴロウナウな小学四年生。
この前山吹君のお家の猫が寝転がりながら言ってたのですよ、ゴロゴロウナウ。
きっと暇な時、猫ちゃんはゴロゴロウナウって言うのですよ。
そんな彩萌は猫ちゃんと同じように、日向ぼっこをしながら本を読んでいます。
昨日本はもう読みたくないって言ってたけど、やる事が無いから読んじゃってる彩萌はきっと文学少女なのです。えへん。
テレビは色が無くなっちゃったからなんだか変な感じがして見たくないのです。
残念な事に、寝て起きても彩萌の耳が治る事はありませんでした……。これでは学校に行けません……。山吹君に会いたかったのに残念なのです、まあ私は毎日でも山吹君に会いたいのですよ。
むしろ山吹君と一緒に住みたいです。一緒に火星のものりすを見に行きたいのです。
とーっても良くなっちゃった私の耳に、変な音が聞こえてきました。
その後に本が落ちる音がしたのですよ、もしかしたらいつも変な音が鳴ってから本が落ちているのかもしれません。
もう彩萌はびっくりしませんよ、例え本は押し入れに封印していたのに本棚に戻っているのも、それがひとりでに落ちたのも私は驚きません!
驚いたら負けなのだ! 彩萌はもう幻想になんか負けません!
どんとこいなのですよ! ちょーじょーげんじょー!
「ちゃーっす、アヤメちゃん本を返し……、ギャァアアアアア! アヤメちゃん頭が変っすよぉお!?」
「彩萌は怒っても良いと思うのです……、お姉さんが私をこんなのにしちゃったのに忘れられていたのです……」
「……仕方がない、ジェリは知識を対価に魔術を使っているのだから、余分な事は覚えていられないの」
「魔法を言い訳にするのは良く無い事っすよ! 今戻しますんで許して欲しいっすね!」
イズマさんの下僕っぽい幸薄そうな黒いお姉さんだけかと思ったら、なんだか小さい子が居たのです。
小さい子は黒いお姉さんの発言にムッとしていますよ。
フォローしたのにー、みたいな感じの顔してます。
黒いお姉さんが指をなんかヒュッとしてピューンってしたら彩萌の視界に色が戻ったのです! 頭を触っても彩萌の頭には、なんか変なのはありません!
普通に戻ったのですよ!
視界に色が戻ったのでわかります、なんだか小さい子はとっても真っ白だったのです。
なんだか服装もふわふわしています、天使みたいで可愛らしいです。うらやましいのです。彩萌と同じくらいに見えます、きっと同い年くらいです。
じーっと小さい子を見ていたら、顔をプイってされちゃったのです。穴が開きそうになっちゃったんですかね?
「――エミリ・リデルは言うわ……、叶山彩萌に宣戦布告をしに来たと」
「……あふ? 彩萌は何にもしていないのです」
「エミリ・リデル語を翻訳しまっす、カノヤマアヤメちゃんと仲良くしたいでっす!」
「――ジェリ、大嫌い」
「あざーっす! お褒めに頂き光栄っす!」
恥ずかしくなっちゃったみたいです、エミリちゃんは顔が赤いのです。
でもどうして彩萌と仲良くしたくなったのでしょうか、エミリちゃんに会った事は無いのです。
「イズマ……、リーディア……、ディーテ……、フレンジア……」
「……? リーディアさんには会った事が無いです」
「エミリは、あの四人が大嫌い」
「エミリちゃんの一人称がフルネームじゃない時は本当に正直な発言なんすよ」
「だからエミリは、リーディアの目論みをぶっ壊しに来たの」
「なるほどー! だからアヤメちゃんに会いたいなんて……、うそぉお!? エミリちゃんそれは私の借金にも影響がぁああ!」
「エミリは宣言するわ、叶山彩萌を幻想色に染めない!」
「それはダメっす! アヤメちゃんに魔法への興味を持ってもらうのがリーディア先生からの依頼なんっすよ!?」
「それはエミリには関係ない」
なんだかよく分からないです、仲間外れを感じていますよ、私。
でもなんだかエミリちゃんはとってもかわいいのです、お人形さんみたいで見ていて癒されます。がるるーといかくしていたエミリちゃんは、床に落ちたままだったリーディアさんの魔法書を見ていました。
それに気付いたようでジェリさんは素早くリーディアさんの魔法書を取ったのです。
「チビッ子なエミリちゃんには届くまい! 観念するっすよ!」
「奪ってベルゼビュート、忌まわしき足枷に歯向かいなさい」
「突然にゃんこが空中から出て来ても彩萌は驚かないです、宇宙にゃんこなんです……」
頭の上に上げていた本は突然現れた猫ちゃんに奪われてしまったのです、ジェリさんどんまいです。
その猫ちゃんは虫みたいな羽が生えてて、触覚が生えてます。
まさに宇宙人なにゃんこです。
その猫ちゃんはエミリちゃんに本を渡すのかと思いきや、私の方に飛んできたのですよ! 彩萌に本を渡した猫ちゃんは美猫さんでした。
「私は宇宙にゃんこでは無いぞ、私は土地に豊穣を齎す気高き真実の王だ」
「なに言ってるのかぜんぜん分からないのです、でも偉いにゃんこなのはわかった」
にゃんこが喋っても驚きませんよ、だって宇宙人のお偉いさんなんですよね。
「私の金がー!」なんてジェリさんの叫び声なんて聞こえません。
うん、聞こえないのだ。
エミリちゃんがジェリさんを蹴っていたのだって見えないのだ。暴力はダメだよ。
「……彩萌、その魔法書の魔法はエミリが解いてあげる、たぶんそれが一番幸せなの」
「えーっと、彩萌は魔法はよく分からないのですけども……、魔法を解いちゃってもエミリちゃんにはまた会えますか?」
「……エミリは異世界を飛ぶ力なんて無い、だから会えない」
「それはとっても寂しい事だと彩萌は思うのです、……彩萌はエミリちゃんときちんとお友達になりたいのですよ」
「でも、魔法を解かないとその本を通じて幻想の住人が来るけど、彩萌は良いの?」
「エミリちゃんが彩萌のお家に来られるなら、ちょっとくらいの幻想は許そうかなって思います」
「でも、幻想を受け入れたら、火星のモノリスは見られないかもよ?」
「うぐぅ……っ! それは痛いです! でもエミリちゃんと仲良くなるのはものりすよりもたのしいと思います」
「エミリ・リデルは、彩萌と友達になりたくないです……」
「嘘は良くないぞエミリ・リデル、真実を述べないか」
恥ずかしくなっちゃったエミリちゃんは、あまのじゃくな言葉を呟きます。
それに対してベルなんとかな猫さんの厳しいツッコミが入ります、許してあげて欲しいのです。
「けっ、蹴られ損っすね……、でも私の金は守られた! アヤメちゃんサンキューっす!」
「……イズマさんとジェリさんだけが来られないとかってできないんですか?」
「絶対に来られないは無理だけどエミリなら二人が来る方法に条件を付ける事は出来る」
「あの二人は泥棒さんするから、エミリちゃんお願いします」
「うん、分かった……」
エミリちゃんは本に触りながら変な言葉を呟きます。
難解です、彩萌には何言ってるのか分かりません。
えんふらなんたらびゅみ? 天ぷらは美味です!
そんな下らない事を彩萌が考えていると、条件を付けることに成功したのかエミリちゃんは良い顔をしていました。
「エミリちゃんは彩萌と同い年ですよね? なんだかとっても大人っぽいです」
「エミリは十五歳」
「エミリちゃんは、ちっちゃいですね」
「……彩萌なんてイズマのお店で売られちゃえば良いんだ、エミリはこれから成長する!」
そんな事を話しながら、お母さんが帰って来るまでエミリちゃんとお話しをしたのです。ジェリさんはなんだか知らない間に無断で彩萌のベッドで爆睡してました。
ベルなんとかな猫さんはジェリさんに恨みがあるみたいで寝てる顔をバシバシ叩いていました。安眠妨害です。
お母さんが帰って来て、玄関を開ける音でエミリちゃんは立ち上がります。
「また来るね」
そう言うと、エミリちゃんは寝ているジェリさんを蹴って消えてしまいました。暴力はダメです。起きたジェリさんも慌てて消えちゃって部屋には彩萌だけです。
なんとなく本棚を見たら本が減ってました……、ジェリさんは泥棒さんです。
「彩萌、頭の調子大丈夫……って、あら? 無いわ……」
「もう治った」
彩萌はその後、治ったのに病院に連れて行かれちゃったんです。
またお医者さんに驚かれちゃったんです……。ちょっと残念そうでした。
彩萌は、エミリちゃんとお友達になりたいから幻想を少し受け入れようと思います。
――アヤメちゃんの魔法日記、五頁