壊れ物に注意
山吹君に治療された夜、彩萌は本を読んだり祈ってみたりしながら暇潰しをしてました。
そろそろお風呂に入って寝ようかなって思っていたら、ドアをノックする音が。
返事をすれば、扉を開いたのはレニ様でした。
そういえばこの扉、開けられないのは彩萌だけだそうですよ。
そういう魔法がかかってるんですって。
レニ様の様子はちょっと変というか、彩萌の目の不調かな?
なんか落ち込んでいるように見えます……。
いや、だまされんぞ! 彩萌はレニ様なんて嫌いだ!
「なんかー……、ごめんね。レニ様なんか、ちょっと疲れてたみたいで噛んじゃって」
「まあ、謝罪はうけいれておきますね。許さないですけど」
「手厳しいね、でもしょうがないね。悪意ある攻撃したもんね」
なんだか、しょぼーんとしてます。
……演技でしょ? 悪魔なんて信用しちゃダメなんでしょ?
山吹君も気をつけろって言ってたし……、でも抑えられるようになってきたのにどうしたんだろ、とも言ってたね。
「なんだか最近不調なの、よく分かんないけどイライラしたりするし……お腹が空く」
「……どうして、彩萌に言いに来たんですか?」
「うーん、……困った時の神頼み?」
レニ様は、本当に落ち込んでいるように見えます。
う、っぐ……だ、だまされないんだから! 悪魔なんて信じないです!
じーっとうたがわしい目で見てれば、レニ様はなんだか不思議そうな顔で自分の体を見てたんですよ。
「どうかしたんですか?」
「……ううん、何でもないけど今なんか、体の中に入った気がして」
「……? 体の中に入るって、どういう意味ですか?」
「あぁ、彩萌ちゃんは魔力使えないからわかんないよね、……気のせいだったよ」
「じゃあね、おやすみ」とちょっと落ち込んだ様子で、レニ様は出て行こうとしたんですが無理でした。
出て行こうとするレニ様の前に真っ黒いフードの付いたマント来て、フードで顔を隠してる女の人が現れたからね。
邪神族みたいな見た目のあの神様です! 侵入者では無いと信じたい。
レニ様はすっごいおどろいて後ずさるんだけど神様が手をかざせば、うにょんって感じでなんか……触手? みたいなのを腕から出して動きとめたから無理だったよ。
神様はやっぱり邪神族さんなんじゃないかな。
「彩萌、大変です! とっても大変なのです!」
「えっ、どうしたんですか……?」
「今の貴女は穢れを吸い寄せる体になっているのですが、彩萌の性質が魔力を受け付けない所為でどうもややこしい事態になっていましてね、彼が噛み付いたのもイライラするのもその穢れの所為のようです! 彩萌が定期的に祈ってくれているのでこの周囲の穢れを祓えるっちゃ祓えるのですが私も忙しいので手が回らなくて――」
とりあえず何か早口でまくし立ててるんですけど、彩萌にはよく分かんなかった。
あとレニ様苦しそうですけど……、大丈夫なのかな。息できてる?
「彩萌にかけた魔法は貴女が死んだら勝手に穢れを集めて自動で祈ってくれるというものなのです。発動するのは彩萌が生命活動を停止した時だったはずなんですけど、彩萌一度死んでいるでしょう? その所為か半分くらい魔法が発動している様で穢れを勝手に集めちゃっている訳なのですよ! しかも受け付けない所為で分散させてるんですよ!?」
「えっ、魔法かけたのって彩萌が寝た時じゃないんですか?」
「まさか! 貴女が過去を移動するあの空間でじっくりかけていたんですよ! だってだって、彩萌の魂が魔法を拒絶するからああ!」
「とりあえず神様落ち着いてください、レニ様が死にそうですよ……」
顔色がすごい悪いし……、足が地面についてないです。
そのことに気付いた神様はレニ様を離したんですけど、レニ様はべしゃって感じで床に倒れ込んだ。
……死んでないよね? 彩萌が神様を見れば、口元が引きつってた。
「ま、まあ悪魔は丈夫ですから大丈夫でしょう……。悪魔やゴーストと言った魔力の高い魔物は穢れの影響を受けやすいのです、ですがディーテ・カーマイン等の精霊は私が作ったので影響は受けません……なので発見が遅れてしまいました」
「そ、そっか……じゃあレニ様が噛んだりいじわるしたのは汚れた魔力の所為なんですか?」
「そうですね、彼に落ち度はありません。全ては私の責任ですから、彼を責めないであげてください」
「と言っても噛み付きたいという強い欲求とサディスティックな面は元からあったのだと思いますけど……」と神様は小さく呟いた。
なるほど、汚れた魔力の所為ではあるけどレニ様は元から彩萌に噛み付いてみたいって思ってたんだ。
いつからそう思ってたんだろう?
彩萌ってそんなにおいしそうに見えるのかな……、レニ様的には魚を見ておいしそうって思う感じなのかな?
なんかそんな感じするなぁ、コンビニでケーキとか見ておいしそう、食べたいって思う感じなんですかね。
レニ様の場合、ちょうど良い大きさ、噛みたい! かもしれないけど。
「噛み付く狂犬ですからしょうがないですよ、許してあげてください……」
「うん……、それでどうしたら良いの?」
「こんな失敗は今までありませんでしたから、そうですね……やはり死んでくれませんか?」
「貴女にはもう魔法かけられないですし……」と神様は呟きました。
もちろん、彩萌は嫌ですよ! 山吹君どう見ても脈ありなのに、今死んだら山吹君と結婚できない!
どうにかならないの……? なんか別の体作って魂だけ移すとかなんとか?
「あぁ、それは今まで試したことないですね。 やってみますか? 失敗したら死にますけど、試さなかったらどっちにしろ殺しますし良いんじゃないですか?」
「さっきまでの慌てっぷりが嘘みたいに神様がれいこくです……」
「ちなみに、人間の肉体になるか魔物の肉体になるか動物の肉体になるかもわかりませんよ?」
「でも、聖女が増えるのはお得ですねぇ」と神様は少し嬉しそうに呟いてた。
えー……人間になれないの? なんで?
彩萌は不満そうな顔で、神様を見つめます。
「だって、私そういうの専門外ですし……。肉体作りなら精霊の方が得意ですけど彩萌の魂が魔力を拒絶してますから……、難易度高いですから」
「じゃあ、じゃあせめて山吹君が好きそうな生き物にしてください!」
「善処します」
……聞き入れてもらえたのかな?
神様は彩萌のお願いにうなずいて、レニ様のそばにしゃがみ込んで体をゆさぶります。
「バイトデビル起きなさい、こんなところで寝ていたら穢れますよ」
「なんか、複雑です……」
レニ様はしばらくして、唸りながら起きました。
なんだか、レニ様がかわいそうに思えてきた。ディーテさんに無駄に怒られちゃってるし……。
神様に殺されかけるし……、大変ですね。
起きてちょっとぼんやりしてるレニ様の額を神様は触ってるんですよ。
「神のご加護がありますよう、穢れを体外に放出できるよう祈っております」
「……えっあっ、うわっ」
意識が戻って、レニ様がしたことは神様からすごい速さで離れることでした。
すごい顔色が悪い、殺されかけたから?
体を震わせながら唇を噛んでました。
「彩萌は魔力が無いのでこうならないだけです」
「えっ……、じゃあみんな神様見たら怖がるの?」
「そもそも私は、……穢れからできている様な神ですから」
「新しい体を早急に作ります」と言い残して神様は消えちゃいました。
神様が消えたあと、レニ様はほっと息を吐いてました。
彩萌は、とりあえずレニ様にさっきのことを何とか頑張ってお話ししました。
だからあんまり近づかない方が良いよって、言ったら微妙そうな顔してた。
もしものことを考えて、ディーテさんにお世話させるってレニ様は言った。
でもディーテさんにこのこと言ったらうるさそうだから、まだ理由は黙っててってお願いしといた。
すっごい微妙そうな顔をして、レニ様はおっけーしてから出て行きました。
彩萌、死んじゃうかもしれないのかぁ。
でもまだ、死ぬって決まった訳じゃないし……。
「どうしよう……?」
実感はわかないけど、悲しませちゃうかもしれないのかな。
よく分かんないや、――……分かんない。
彩萌って運悪いのかな?
――アヤメちゃんの魔法日記、四十六頁
彩萌ちゃんが神様のアレをマントマントと言っているけども、実態はコートです。
ただ、インクで塗り潰したように肌以外は全てが黒いため腕を下げていればマントのように見える。
邪神族はマントを着用していたので、神様も同じ様な見た目をしているために同じだと思い込んでいるので今後も神様のコートをマントと呼びます。




