愛の言葉は全力で
四日目です……、レニ様に噛まれた肩がかなり痛いです。
ディーテさんは呼んだら来てくれた、どうやって察知してるんだろう?
チクったら、怒ってくれるって。
でも……夜中に聞こえたレニ様の高笑いと、ディーテさんの怒った声を聞くかぎり反省はしてくれないようです。
悪魔だもんね……、彩萌が悪かったのかもしれない……。
あと肩の傷はディーテさんじゃ治せないって、治すの苦手なのか聞いたらそう言うわけでも無いらしい?
なんか、すごーい複雑そうな顔してたよ。
プロフェッショナルを明日派遣してくれるって、昨日行ってたよ。
誰が来るのかな……、彩萌の知ってる人かな?
しばらくしたらこんこんってノックが聞こえて、すぐに扉が開かれたんですよ。
「彩萌ちゃん……レニ様に呪われたって聞いたけど?」
「や……山吹君!? えっ、どうしよう……彩萌そんなにおしゃれしてないのに!」
「……うん、いや……あのね。別にそんなことどうでも……――い、いつものでも良いんじゃない? そ……その服も十分可愛いよ?」
どうでもいいよ、って言おうとしたみたいだけど山吹君はなぜか言い換えた。
嬉しがるべきなのかもしれないけど、彩萌はちょっとだけその行動が怪しく思えました! いつもの山吹君だったら、どうでもいいよって言うはずなのに!
どうしたんですか!? 何かあったんですか!?
心配そうな目で彩萌が見つめれば、山吹君はこほんと咳払いをしました。
「とりあえずそんな事はどうでも――……いや、重要かもしれないけど今は置いといて、傷見せて」
「彩萌的に詳しく聞きたいところなんですけど」
「あー……なんて言うか、バイトの呪いってさ……人を感情的にして凶暴にするらしいから怒らせたら面倒かなって?」
つまりヒステリックになってしまうんですね?
たしかに、それは面倒かもしれない。
でも彩萌は、まだヒステリックになってないです。
だからそうびくびくした反応をされると、落ち込みます……。
椅子に座っていた彩萌に近付いてきた山吹君に、傷口を見せるためにボタンを少し外して腕を出して見せます。
「大胆だね……」と山吹君は呟いていましたが、……だって治療するんだよね?
傷見せろって言ったの山吹君ですよね、なんで戸惑ってるの?
というか、彩萌は噛まれたんであって呪われてないですよね……?
「えっと……酷いねコレ、彩萌ちゃんレニ様を怒らせたんじゃない……?」
「よく分かんないけど、忙しくてイライラしてるって本人は言ってましたけど」
「八つ当たりか? めんどくせぇな……」
山吹君口悪いね……、彩萌の知ってる山吹君とはちょっと変わっちゃったんだね……。
でも、そんなところもカッコいいなって彩萌は少し思ってきてしまいました。
彩萌はどうやら重症のようです……。
「レニ様は狂犬の悪魔なんだから、気を付けた方が良いよ」
「……うん、でも本当に噛むなんて思ってなくて、その……、ごめんなさい」
「あの人本当は悪魔って名前が相応しいくらいに悪魔してるから、最近は本性はちゃんと抑えられるようになったって言ってたのにどうしたのかな……」
山吹君は不思議そうに、傷の手当てをはじめたんです。
綺麗なガーゼを洗面台で濡らしてきて、彩萌の傷口を拭いてくれます。痛い。
そのあといろいろ薬を塗って、ガーゼあてて包帯を巻いてもらった。
「まだ体質改善の薬は出来てないから、もうちょっとだけ待っててね」
「う……うん、待ってる……。でも……薬が出来てなくても来てほしいです……」
なんだか、恥ずかしくなってきた。
ほら、彩萌って勢いつけて言うタイプだから二人っきりとかでそういう直球的な発言は恥ずかしい。
誰かがいれば茶化してくれるからなんとかなるけど。
この妙な空気はなんか、イヤかも……。
チラ見すれば、山吹君も照れてた。やー……彩萌青春してるよお姉ちゃん!
「べ、べべべつにその、なんていうか……! ほら、僕だって忙しいから……!」
「じゃあ……王子に来てもらっても良いですか? 呼べば来てくれるって言ってましたよ!」
「……王子の手を煩わせるなんて、とんでもないよ。一般市民で信仰深い僕がついでに遊びに来てあげるよ」
本当に王子の事嫌いなんだね……。
まさかこんな手が使えるとは思ってもみなかった、言ってよかった……。
とっさに言ってしまったのか、山吹君はすごい嫌そうな顔を一瞬だけしてた。
うん、なんか……ごめんなさい。
「彩萌ちゃんなんか、あれだよね……。図々しくなったと言うか、大胆になったと言うか……狡賢い」
「ご、ごめんなさい……、出来心だったんです……でも、それくらい彩萌は山吹君に毎日でも会いたい! だって彩萌の日常は山吹君がいないと嫌なんですっ!」
「よっ、よくそんな恥ずかしいこと言えるよね!? 引っ込み思案で内気なシャイだった時代はどこ行ったの!」
「山吹君にフラれた瞬間に、終わったんですっ!」
こういうの、開き直りって言うんですかね?
山吹君は顔を真っ赤にして唸ってた、うーうー言ってた。
こっちの世界に来てから、山吹君の顔が真っ赤か不機嫌そうな顔ばっかり見てる気がする。そんな姿もかっこよくて可愛いから、彩萌はドキドキしますけど。
「――っもう良いよ、勝手にすれば!? でも、僕はロリコンじゃないから彩萌ちゃんの事なんてどうも思ってないから!」
彩萌はどっちかと言えば鈍感な方だと思いますけど、これは分かります。
脈ありだよね! 彩萌も頑張れば山吹君のお嫁さんになれるよね!
山吹君は乱暴に立ち上がって、乱暴に出て行ってしまいました。
照れ隠しなのかもしれないけど、乱暴に扱ったらだめだと思います。
えへへ……、ちょっとだけ幸せな気分です。
レニ様に噛まれるのも悪くないなって思ってしまう彩萌は現金な女なのです。
――アヤメちゃんの魔法日記、四十五頁




