落とし子は星空に何を見るか?
二日目、目を覚ました彩萌の頭の下が温かいのです。
ユースくんのお腹を枕にしていました、痛いって感じないけど苦しいのは感じるってディーテさん言ってたけど大丈夫だったのかな?
寝てる……のか? でも精霊は寝る必要ないんじゃなかったっけ?
まあいいや……、顔とか洗って着替えよーっと。
タンスから服を出します、そう言えばこの服用意したの誰なんだろう?
レニ様とか、聖堂のお姉さんとかなのかなぁ?
エミリちゃんのお古みたいなふりふりがいっぱいだね。
彩萌は歯を磨いて顔を洗って、服を着替えてさっぱりしました。
脱いだ服とかはかごに入れておきます、ご飯持ってきてくれたお姉さんが持って行ってくれるんですって。
部屋に戻れば、ユースくんが起きててニコって笑ってくれました。
でも前髪は上げないほうが良いと思うの、王子そっくりなんだもん……。
「彩萌ちゃんおはよ~……、よく眠れた?」
「よく眠れたと思いますけど、枕にしてごめんなさい……苦しかった?」
「うん、苦しかったよぉ……えへへ」
苦しかったと言っているのに、なぜ笑うんですか。
どうして嬉しそうなんですか……、彩萌にはわからないですよ。
もしかして、苦しいのが好きなの? ……へんなの。
ユースくんの前髪は、カチューシャをちゃんとつければいつも通りな感じに戻った。
今日もご飯を持ってきてくれたお姉さんは、ユースくんをみてどきまぎしてました。
緊張というか、怖がってる感じで彩萌が話しかけても何も返してくれなかった。
昨日はちゃんと会話してくれたのに、……あの話でユースくんって怖いイメージを持たれてるのかな?
「……ん、ユースくんも何か食べますか?」
と言ってもパンとコンソメスープと、リイムの実を絞ったジュースとサラダだけど。
じーっと彩萌の食事風景を見ていたユースくんは、首をふっていらないって。
うむー……、食べる必要ないからかなぁ。
ディーテさんはすぐ何か食べてるけど。
「……んーとね、ボク的に~食べられるのが好き~」
「食べられるのが、好きなんですか……?」
マジかよ、そういえばユースくんはイクシノア様に食べられてたっけ。
好きだったのか、そうだったのか。
……ユースくんって、変だね。
「なんかぁ、よく分かんないけどー……どきどきする~。食物連鎖の一部になったんだよ~」
彩萌もよく分からんです、その感覚。
食べ終わって、お姉さんは食器と脱いだ服をすぐに持ってっちゃいました。
ユースくんは全く気にしてなかったけど、なんだか寂しい気分になっちゃいますね。
さあ、どうしましょうか。
ユースくんがいるから、本を読まないほうが良いのかなぁ?
「本読んでも、良いよ……? 見てるの好きだから」
いや、じっと見られるのはちょっと……。気が散りますから。
そう思ってれば、ユースくんはベッドにころんって寝っ転がったんですよ。
「じゃあ見ないー」だって、尻尾が大きくゆっくりとゆーらゆーら揺れてます。
おぉー……、しっぽー。超尻尾してるー。
むしょうに突っつきたくなって、彩萌はユースくんの尻尾を突っついたんですよ。
びくってはねて、またゆーらゆーらしてるんです。
おぉ……しっぽだ、しっぽー。
彩萌はしばらくユースくんの尻尾で遊んでました、最初は何も言わなかったけどくすぐったいのかくすくす笑ってた。
「なんかぁ、彩萌ちゃんが猫みたいだねぇ……」
「いやぁ、ユースくんには負けますよー」
「ボクは精霊だから大丈夫だけど、獣人族さんの尻尾触ったら怒られるからダメだよぉ……」
そうなんだ、……気を付けよう。
レニ様の尻尾もさわってみたいなって思ってたけど、怒られるのはやだなぁ。
レニ様は獣人族じゃないですけど。
「彩萌ちゃんも突然髪の毛触られたり耳触られたりしたら……イヤでしょ?」
「そうですね……、ごめんなさい?」
「気にしてないよぉ、彩萌ちゃんはボク以上に猫だもんね~」
いや……彩萌は人間です。
うふふ、と幸せそうに笑ってますけど彩萌は人間ですからー。
そんな感じでほのぼのと時間をつぶしていれば、こんこんってドアがノックされたんです。
彩萌が返事をすれば、ドアが開かれたんですよ。
そこには何ともう一人のユースくんが! ではなく、ユヴェリア王子とレニ様が居たんですよ。
「おはよー彩萌ちゃーん、でもレニ様は忙しいからじゃあねー彩萌ちゃーん」
「あ、おはようございますー、そしてレニ様さよならー」
ユヴェリア王子は、レニ様に押されて彩萌の部屋に入ってきたんですけど、視線はユースくんにくぎづけです。言葉の通りレニ様はすぐに帰っちゃった。
ユースくんはというと、尻尾をはげしくばったんばったんしながらユヴェリア王子を見てました。
「えっとぉ……あの、ユヴェリア王子久しぶりです?」
「――……あ、はい。お久しぶりです、彩萌さん」
彩萌が声をかければ、気を取り戻したようでユヴェリア王子はにっこり笑ってくれました。
今日のユヴェリア王子は、なんだかシンプルです。
きらきらしたアクセサリーはつけてたけど。
「なんだか、意外な人物がいて驚いてしまいました……。私が一番乗りかなって思ったのに、残念です」
「……一番乗りはボクだね、……残念でした」
「……本当に、残念です。でも彩萌さんは聖女様ですから精霊と仲が良いのは仕方がないと存じますし、そこにたまたまユーヴェリウス・モーブが居てもしかたの無いこと!」
「そうだねぇ……、ボクは彩萌ちゃんとすごーい仲良しだから、しょうがないね~」
お……、また精霊と仲が悪い人の登場ですか……?
でも王子言ってたっけ、ユーヴェリウス・モーブ嫌ってるって。
うーん……、あんまりけんかはしないでほしいなぁ。
「ユースくん……どうしてそんな言い方するんですか? 珍しいですよ」
「だってぇ……、敵意向けられてるんだもん……」
「ユヴェリア王子は、一応はユースくんの子供らしいですよ?」
「えっ、そうなのぉ? ボク……子供いたの? そうなんだぁ、ボクの子供か……」
「えへへ、分かんない」となぜか照れくさそうに、ちょっと機嫌が良くなったのかユースくんは笑った。
ユヴェリア王子は、すごい嫌そうな顔をしてユースくんを見てたけど。
ベッドから起き上がって、ユースくんはユヴェリア王子に近付きます。
凄いひいてたけど、密室なので逃げられないですよ。王子。
「おぉ、ほんとだぁ……ボクにそっくりだね~」
「うっ……わ、ちょっと……近いですよ。離れてくれませんか? 不愉快な気分になります」
「どうして……? ボクが、ユーヴェリウス・モーブだから?」
ユヴェリア王子はようしゃなく「そうです」とうなずいたんです。
だが、ユースくんにはそれは通用しないのです。嬉しそうにえへへって笑うのみ!
そうすれば、やっぱり王子も変な顔をして彩萌を見るんですよ。
「ユースくんは……えっと、食べられたり苦しいのが好きだったりする変な子なんです?」
「――……それは、……なんて言いますか、私の心情としましてはとても複雑になりますね」
「……変態」と王子が小さく呟けば、ユースくんは首をかしげてました。
ユースくんは本当に分かっていないのか、それとも分かっているのかよく分かんないですよね。
でもユースくんがすごい良い子なのは分かってますよ! そのぶんすごい、変だけど。
「えっと……、それでユヴェリア王子は彩萌に何か用があったんですか?」
「用事が無ければ来てはいけませんか? 彩萌さんの事を小耳にはさみまして挨拶に来ました。それに彩萌さんが聖女様だと伺って、貴女に興味が湧いたのです」
「聖女なんてすごいこと言われちゃってますけど、彩萌は平凡ですよ? 何もしてないですー?」
そう言えば王子は小さく笑ったんです。
彩萌的に笑えるポイントは無かったと思うのですけども。
でも王子は彩萌の言葉に満足したようです。
「彩萌さんが聖女で良かったと、私は思います。技能も技術も無い、平凡でも普通でも悪くないんだって思えるから……私はどちらかと言えば何でも持っていますけど、貴女の様な気丈さもポジティブさも持ち得ていないのです。私は何事も悪く捉えがちで思い詰めてしまう節があります。貴女と同じ状況になってしまったら、私は誰かに優しく出来るとは思えません」
「いや、彩萌も必死だったから優しくしただけですよ! それにそう考えられる王子もとっても優しいと思いますよ?」
優しくない人は、優しく出来るかどうかなんて考えませんよ。
ユヴェリア王子は本当に考えすぎなんですよ。
でもそこがユヴェリア王子の、ユヴェリア王子らしいところなんですかね?
「本当に平凡ですよね、普通です。だから……安心してしまいます、彩萌さんが普通の人で」
「えーっと、その平凡は褒めているんですか? 悪口ですか?」
「どちらかと言えば悪口寄りの褒め言葉ですよ、私は……彩萌さんを見下して安心しているのです」
「本当に見下されるのは嫌ですけど……、でも王子が安心できるならちょっとくらい見下しても良いですよ! ちょっとだけですよ」
「ではそうさせていただきます」と王子は良い笑顔で素直にうなずきました。
良かったです。最後に見たとき王子はなんかすごい悩んでたみたいでしたから、元気みたいで何よりです。
そんな彩萌とユヴェリア王子のやり取りを見ていたユースくんは、にこにこ笑っていました。
「えへへ、ボクの子も彩萌ちゃんと仲良しなんだねぇ……うれしいな」
「私は貴方の魔力で作られた半人ですから、貴方に似た性質を持っていることは否めません。癪ですが」
「じゃあ、きらきら好き……? 好きだよね、いっぱい着けてるもんね……」
だからきらきら一緒に見よーってユースくんはお誘いしたんですけど、王子はきっぱり嫌ですって拒絶しちゃいました。仲良くすればいいのに~、二人ともきらきら好きなんだから~。
まあ無理に仲良くしろとは言わないですけどー。
「んー……じゃあカチューシャあげる~、彩萌ちゃんにもあげるねぇ……お揃いだよー」
そう言って、サッとユースくんはカチューシャを取り出すと王子の頭に装着!
今日は王冠かぶってなかったから簡単につけられちゃったんだね。王子どんまい。
彩萌には普通に手渡しでくれました。
王子への強引なプレゼント攻撃ですねー。
それにしても、同じカチューシャ二つも持ってたんですね?
それともさっきの一瞬で複製したのかな?
「と……取れない……」
「えへへ、呪われたアイテムだよ~……今日の夜までは取れないんだよー」
「えっ!? じゃあ彩萌のカチューシャも呪われてるんですか?」
もうつけてしまいましたよっ!?
まあ、でも彩萌は取れなくても気にしませんけどね、お風呂入るのに邪魔にならなければ。
王子はこんなカチューシャつけた姿は誰にも見られたくないって言って、カチューシャが取れるまで彩萌の部屋に居たんですよ。
でもその所為で拒絶した、一緒にきらきらを見るってことをしちゃったんですよね~。王子は~。
こうやってユースくんは他人にきらきらを見るように強要していたんですね。
ユースくんのプラネタリウム、王子ちょっとだけ感動してました。
でもユースくんと仲良くはしたくないそうですよ。
彩萌は仲良くできそうだと思うんだけどな……、いつか和解できると良いですね。
――アヤメちゃんの魔法日記、四十三頁




