犬の聖者
彩萌のお腹が、ぐるるーとなったのでたかいたかいは止めてもらえたけどなんか恥ずかしかったです。
ちょっと呆れた感じで、山吹君は彩萌に何か食べたいものがあるか聞いたんですよ。
もしかして、山吹君の手料理か!?
何と言うことでしょう! 山吹君の手料理なら何でも美味しくいただきますよ!
もちろん緑色の野菜とリイムの実とお菓子以外の食べ物でお願いしますぅ。
あ、でも山吹君が作ってくれたものならリイムの実が入ってても、緑色でも良いですよ!
「じゃあ私はカディットが食べたいっす」
「カディット? カディットってなんですか? というかなんでジェリさんが要求してるんですか」
「イモとかを蒸かして潰してちょっとの粉とかを混ぜて多めの油でフライパンでカリカリに焼いて色々なソースをかける料理っすよ、ご家庭によってソースは甘かったり辛かったりしてーカボチャとかサツマイモとかで超甘くしておやつに食べるとこもあるんすよ? 私は断然ミート系のソースが好きっすね!」
「じゃあー俺はラム肉のポワレでー、リイムソースね!」
「あ、じゃあレニ様はスケルトンキングの骨を要求するよー」
「……そんなのが食べたかったらプロを呼べよ! あと、レニ様なに勝手に混ざってるんですか!」
あぁ、山吹君ツッコミなんだね。
ふらっと勝手に入ってきたレニ様は、彩萌の隣でソファに座ってます。
その所為で彩萌は毒々しい赤色のディーテさんとショッキングピンクなレニ様にはさまれてます……。
どっちも目に痛い色合いなんですけど、イズマさんみたいに目に優しい色合いにしてください。
「そうだね、プロを呼ぶべきよね。じゃあフレーン、お金出すから今すぐスケルトンキング狩ってきてよ」
「イヤですよ……、キングと普通のスケルトンなんて私は見分けつけられないですし」
「ちょっと強い方がスケルトンキングだよ、あと硬くて美味いよ」
「フレンジアはヘタレだけど剣持つと性格変わるからそんな些細な違いなんて分かんないと思うよ? あと此処に居る奴で骨を食べるのはお前ぐらいだよ」
レニ様はホネ食べるんだね、なんか変な物が好きなんですね?
どうしても食べたい、久しぶりに食べたいとレニ様がだだをこねたのでしかたなく、イズマさんとフレンジアさんがそのスケルトンキングとやらを狩るために行っちゃいました。
しーちゃんもスケルトンキングに興味を持ったのか、二人について行ってしまいました。
山吹君はジェリさんが言ってたカディットを作るって、まあ彩萌もそれでいいですよ。
「あのねー、彩萌ちゃん。聖女様が生き返ったなんて知られたらいろいろと大変なのね? ぶっちゃけ生き返らなくても良いのにって思っちゃうくらい大変なのね?」
「胸をえぐるような言葉ですけど、でもすごい大変なのがよく分かりますね」
「なんとか解決方法見付かるまで、彩萌ちゃん軟禁生活してもらっても良いかなー?」
「えっ……、いいともー?」
良くないけど、でもしょうがないことのような気がします。
でも軟禁生活なんてしちゃって、神様が言ってた聖女の役割は果たせるんですかね?
ディーテさんは何も言わなかったけど、すげー嫌そうな顔でした。
そんな嫌そうな顔をしてたディーテさんを見て、レニ様ニヤニヤしてた。
「そんでねー、レニ様はリーディア先生に魔法薬を作ってもらいたくってねー? 彩萌ちゃんの体質を変えるお薬」
「彩萌の体質ですか?」
「そーそー、彩萌ちゃん本当に魔法使えないし、むしろ魔力に反発してるレベルで幻想世界に合ってないよ。このままじゃすぐに棺に逆戻りよ?」
「そんなんじゃ魔法掛けて見た目を変えるなんて事も出来ないよ」とレニ様はため息を吐いていました。
そうだったんだ、でも今まで魔法かけられたこともあったけど大丈夫だったよ?
もしかして魔法かけられるたびに彩萌は命の危機にさらされてたのかな?
「ううん、それは彩萌ちゃんがまだ現実世界の人間だったからだと思うよ。でも幻想世界の住人になっちゃったでしょ? 現実世界のご加護が無くなっちゃったのよ」
「幻想世界の生き物は魔力による加護が得られるけど、彩萌ちゃんの体が全力でそれを拒絶してるよね。まあそれをサポートするのが精霊のお仕事なんですけど?」
「暗に彩萌ちゃんを軟禁しないでってディーテ様言ってるのかもしれないけど、ダメよ」
「その考えが、聖女を殺すのよ」とレニ様が言えば、ディーテさんは不機嫌そうな顔でだまりこんじゃった。彩萌には、難しい話は分からんです。
「不機嫌そうな顔してもディーテ様が無駄に彩萌ちゃんを神聖視させ過ぎたのが問題でしょ」
「でも、そうでも言わないと肉体を誰かに破棄される可能性があったし……、誰も手が出せない様な状態を作り出すしかなかったんだもん」
子供みたいにぷいってディーテさんがふてくされて顔をそむければ、レニ様は超ニヤニヤしてた。「レニ様の完全勝利よねー」って彩萌に同意をもとめて来たけど、うなずいたらディーテさんがうるさそうなんであいまいに笑っといた。
ディーテさんの嫌な顔と、機嫌が悪くなった顔を見て喜ぶなんてレニ様ひねくれてますね。反抗期的な何かなの?
気になったことがあったので、レニ様の方を見て彩萌は驚いた。
「あれっ、レニ様も獣人族だったんですか? 頭に犬みたいな耳生えてますよ」
「あれまー、喜びすぎて本性が出ちゃったみたい? ちなみにレニ様は獣人族じゃないよー、バイトって言う噛み付くのが大好きな悪魔なのー」
「……狂犬の悪魔だよ、彩萌ちゃん気を付けてね。コレは本来の姿になったらなんにでも噛み付くから」
「ピンク色の可愛いワンコで羽が生えてるのー」とご機嫌そうに、レニ様は言った。
狂犬の悪魔……、聖職者なのに狂犬の悪魔ってなんだか不思議というか、なんというか。でも犬なら、ホネが好きだと言う話もすごい納得できますね。
「もー、ねぇ酷いんだから! コイツほんとに何にでも噛み付くんだよ! 怒って変化した時はマジ噛み千切ろうとしてくるし、嬉しい時は甘噛みだけど力加減できてねーんですよ!」
「レニ様は男を噛む趣味はありませーん、柔らかいものかすごい硬いもののどっちかしか噛みませーん」
「お前、俺の本棚マジで噛み付いてぶっ壊しただろ! すっげぇ大事な本もあったんだぞ、あの時泣く泣く修復してた俺の気持ちを考えろよ!」
「まあ元通りになったんだから良くなーい? あの時のディーテ様の顔は今思い出してもマジウケるわ!」
この二人、仲悪いんだな……。
それにしてもあのディーテさんの口調をあらくさせるなんて、レニ様いろいろとすごいね。
「こんな犬拾わなきゃよかったって、今でも思ってるよ!」
「レニ様以上に優秀なバイトはいませ~ん、そしてレニ様以上にかっこよくて可愛いバイトもいませ~ん」
「お兄さんが拾ってやんなかったらどっかの奴に狩られてたでしょ、お前みたいな駄目犬は!」
飼い犬に手を噛まれるって、こういうことを言うのかな?
ずっとレニ様とディーテさんは口げんかしてた、どっちかって言うとレニ様があおってましたけど。
料理ができて持ってきた山吹君は凄い呆れたような嫌そうな顔してました。
「恩を仇で返しやがって」てディーテさんが本気で怒って、それを見てレニ様がニヤニヤ。
山吹君曰く、悪魔の大半は変態、らしいですよ。
本気で喜んでるんですね、レニ様の尻尾が揺れてますよ。
しばらくして帰ってきたフレンジアさんたちが持って来てくれたスケルトンキングのホネを見て、レニ様は本当にピンク色の犬になった。
「ピンク色のドーベルマン……、意外とかわいい……」
「彩萌ちゃん騙されないで! コイツ本当に性格悪いから、孤児院の女の子を自分の理想の女性に育てようとするくらいに駄目なやつだから!」
「えー、別によくなーい? 本当に手を出してる訳じゃないんだから~、可愛い子が量産されたら嬉しくなーい?」
犬になって、ばりばりホネをかじっててもディーテさんとの口げんかは終わらなかった。ここまで来ると、仲が良さそうに見えるけど……少なくともディーテさんが本気で嫌がってるのは何となく分かった。
いつものことなのか山吹君が嫌そうな顔をするだけでみんな無視してカディット食べてた。彩萌も食べてたけど、山吹君料理上手だね。美味しいです。
山吹君結婚してくれ。
「手は出してなくても、噛み付いてんだろ!」
「犬に甘噛みされただけなんだから誰も気にしてないよ! 可愛がってくれてるもーん!」
彩萌を連れて帰るまで、レニ様とディーテさんの口げんかは続くのでした。
ちなみにレニ様は、車っぽい乗り物で彩萌をむかえに来ていました。
最初からそれで送ってよって、ちょっと思ったり思わなかったり。
大聖堂について車からおりたとき、海から悲しそうな歌が聞こえた気がしたような気がした。
――アヤメちゃんの魔法日記、四十一頁




