目覚めた世界は
夕方の教室、私は一心不乱にキャンバスと向かい合ってまっ白な世界を塗り潰します。
赤、青、黄色、緑、朱色、紫、灰色、そして黒。
黒く黒く、黒くして、塗り潰して、――でもそれだけでは、世界は壊れてしまうのでしょう?
「でも私には、関係の無い事ですよね?」
そう言えば、貴方は困った様に笑うだけなのでしょう?
馬鹿げた話だと言えば、貴方は悲しそうに笑うだけなのでしょう?
そして肯けば――……貴方はきっと泣いてしまうのでしょうね。
貴方は私を困らせる天才です、もう一人の貴方もそうでした。
――……長いこと眠っていたような気もしますし、一瞬だったような気もします。
夢を見ていたような気がしますが、忘れてしまいました。
目を開けば、暗くなった大聖堂に月の光が射し込んでいて天井の模様がしっかりくっきり見えました。
寝ぼけちゃった頭で信号を送って手を動かして目を擦ります。
なんかー、寝すぎちゃってダルイ感じー。
お母さん今日学校休みたい~、なんてだだをこねる必要はもうないですね……。
体を起こせば、がんって音が聞こえて目の前が真っ白になりました。
無意識にぶつけたあたまを両手で押さえていました。
「――――っいぃ、痛いぃ……」
痛くなかったですけど、すこし恥ずかしかった。
そうだよ……透明なふたがされてるんだよ、これ……。
開けようと思って手をかけて力を込めるけど、びくともしません。
仕方が無いので、しーちゃんを起こしますよ。
「しーちゃん起きて、彩萌たち密室空間から出られそうにないですよ!」
「みっちつくうかん……みっちつてぇ、なぁに?」
「えっと、そのままだと誰も出入りできない部屋……?」
そう言えばしーちゃんはねぼけながらうなずいて、ふたに体当たりをしてくれた。
ふたは凄い音を立てて、大聖堂の床に落ちた。
というか、ふた割れちゃった……。
ごめんね、ユースくん!
とりあえず起き上がれば、なんか棺桶の周りにロープがはってあって誰も入れない作りになってた。
彩萌はランドセルを背負って、ちょっと高くて怖かったけど勇気をもって棺桶から脱出したよ!
彩萌はもちろん綺麗に着地できなかったよ。お尻痛い。
なんか、きっと未来だからこの大聖堂は国のものだね。
あーなんか、彩萌見付かったらやばそうじゃん?
こういうのたぶん、あれだよ。建造物なんたらかんたら罪だよ!
……やばい、彩萌が聖女から犯罪者になってしまう!
でもでも、中の人が起きる可能性を考えて置かなかった国が悪いよねっ?
彩萌は……、悪くないよねっ?
「壊しちゃったっ……どうしよう、逃げるべきなのっ!?」
「なんでー? まほうでなおるからいいぢゃん」
あ、そうか。ここってそういう世界だったか。
いや、でも壊したこと自体に罪があるかもしれないわけでっ!
どうしよう、彩萌弁償できないよっ。
こういう時どうしたら良いのかなっ、誰かに知恵を借りたい。
神様は綺麗なお願いならかなえてくれるって言ってたから、こういう犯罪行為を隠ぺいするような願いは叶えてくれないよね……。
「どうしようっ、どうしよう彩萌……、どうしようっ!」
「ぢゃあ、ちーちゃんがちょうこいんめつちてあげるよ!」
しーちゃんは、そういうとガラスっぽいふたを食べ始めた。
えっ、それはさすがに口の中切れるんじゃないの……?
彩萌の心配をよそに、しーちゃんは美味しそうに食べていました。
「ほらほら、彩萌ちゃん。ここから出られるんだよ~? ディーテ様に挨拶に行った方が良いんじゃない? ディーテ様は今リーディアくんとこに住んでるからこの先の坂を下ってT字路になってるとこ右手に行った先のちょっと木が多い大きなお家がそうなのよー?」
「あっ、レニ様ありがとうございます! そうですよねっ、ディーテさんに謝らなきゃっ」
ショッキングピンクな髪の毛で、牧師さんみたいな服を着ている人が大聖堂の扉を開けてくれました。
あのピンク色と聖職者な見た目はレニ様だよね、ありがとうレニ様。
「食べちゃったからしょうがないけど、レニ様が後は片付けて置くよ」
「あ、えっと、はい! ありがとうございますっ」
彩萌はしーちゃんを抱っこして、レニ様が言ったとおりに坂を目指します。
後ろから「あとで迎えに行くよ」って、楽しそうな声でレニ様が言ってた。
外は暗いけど、月の明かりがすごくってよく見えました。
ちょっと走れば、すぐに坂は見つかりました。
結構急な坂ですね、道のはしっこに階段がありました。
……おぉ、幻想世界けっこう近代的ですねっ! 車っぽいのがありますよ!
現実世界の車と違って、なんか丸っぽくて可愛いし色もカラフルなのが多いです。
でもやっぱり、数は少ないみたいで駐車場とかにちょびっとしかないね。
まっすぐ前を見れば、海が見えてなんだかすごく良い感じです。
ヨーロッパとか、外国みたいな感じ~。正確には異世界だけど~。
大聖堂は高台にあったんですね、ちょっと昔と地形が変わったんだね。
昔は平らだったもん。
石で出来た道も、それと同じような色の街灯も街並みもオシャレです。
さすが観光地ですね。
大聖堂をふりかえれば、増築した建物が見えました。
もしかしたら、あれクレメニス魔術学園かも。
というかこの坂、T字路まで長いです。へとへとになっちゃう。
階段があって良かったよ、階段が無かったらよけいに疲れるよ。
ようやくT字路までついた、息がたえだえです。
あとはゆっくり、山吹くんの家を目指そう。
顔を上げれば、超長そう。
……もしかしてさ、あの森っぽくなってる辺りじゃないよね?
あのさ、遠すぎるんじゃねぇ?
「あやめー、ちーちゃんおっきくなってとぶから、のる?」
そんなこと、出来るようになってたんだね……。
もちろん乗りますよっ!
大きくなったしーちゃんは、彩萌が一人乗れるくらいの感じでした。
ふかふかもこもこで良い感じですよ、でも飛び方が荒いので怖かった。
でも悲鳴を上げなかったのはフレアマリーさんに投げられまくったおかげですね。
悲しくて怖い思い出です。……ぐすん。
ついた先の家はちょっとどころでは無いくらいに木が多かったです。
そういえば飛んでいる途中に、大きなリイムの木が見えましたよ。
庭に下りて、玄関の前に立ちます。
チャイムっぽいのありますねー、良かったです。
全力でノックしなきゃいけなかったらどうしようって思ってた。
ぽちって押せば、ぴんぽーんって音じゃなくって、ビーって音だった。
しばらくしても誰も出てこないです。
おかしいなー、電気ついてるのにいないのかなー。
あ、もしかして寝る時間だったのかな。
家の中電気ついてるから起きてると思ってた、どうしよう。迷惑だったかもっ。
彩萌が不安を感じていれば、扉が開かれたんですよ。
「ちょっと、今取り込み中で――……」
「や、山吹君!」
扉を開けてくれたのは、リーディアさんこと大きくなった山吹君でした。
山吹君は彩萌の姿を見ると、固まりました。
びっくりさせちゃったようです、動きが止まってました。
……そういえば、臭いとか思われてたらどうしよう。
綺麗にはしてたつもりだけど、ずっと寝てたわけですし……。
あっ、起きたら顔洗って歯を磨かなきゃいけないのにしてない。
山吹君に会うのに彩萌は、ちゃんとしてなかった!
女子として失格ですっ。
そんなことを考えていれば、動き出した山吹君は扉を閉めちゃったんです。
「えっ、山吹君!? あ、ああぁ彩萌は不快になるようなことをしちゃったんですかっ!? 臭いですかっ、あぁ髪の毛もとかしてないしっ」
山吹君は開けてくれましたよ、なんか変な顔してた。
じーっと彩萌を観察するように見てんですよ。
「……彩萌ちゃん本物? 本物の彩萌ちゃんなの? マジで最後のお別れした彩萌ちゃん?」
彩萌がうなずけば、山吹君は顔を手でおおってしゃがみ込んでしまいました。
うなってます、ちらって見える部分が真っ赤でした。
恥ずかしいんだね……、最後のお別れなんてしたのにたぶんすぐに再会しちゃったから。
泣いてたもんね、恥ずかしいね。なんか……ごめん。
「……っ、ディーテ・カーマイン! ふざけんなよっ!」
なんか気付いちゃったみたいで、山吹君は赤い顔を上げて奥の方に行っちゃった。
その後、ディーテさんの悲鳴が聞こえたんですよね。
「お前っ、本当は彩萌ちゃんをっ」
「痛くないけど苦しい! お兄さんも苦しいって感覚はあるんですよっ! 彩萌ちゃんが聖女だって気付いてなかったのはリーディアだけじゃないですよっ!」
「俺は知ってたぞ」
イズマさんも居るらしくって、声が聞こえた。
そしてその後、山吹君の怒りの叫びが聞こえた。叫びって言うか、ほえた?
しばらく、山吹君がディーテさんにキレてた。
放置されてた彩萌をむかえに来たのは、懐かしいジェリさんでした。
やっぱり、オリーネ先生と同一人物だと思えません。
部屋というか、居間とかそういう感じなのかな?
そこに居たのはキレる山吹君とディーテさんとイズマさんとフレンジアさんでした。
なんかこのメンバーで、ジェリさんが居るって不思議かも?
「ジェリさん、お久しぶりです。ジェリさんにとっては久しぶりじゃないかもしれませんけど」
「おひさー、なんかー彩萌ちゃんに会える気がして? リーディア先生んとこに遊び来て良かったっすよー」
「聖女だったなんてびっくりっすね」とジェリさんは言いました。
その口調を聞くのも久しぶりです……。
「ムファ……、フレンジアさんもお久しぶりですね!」
「ムファ? そういえば彩萌ちゃんが聖女様なら、過去に行ってるわけだからすごい久しぶりなんだね」
髪の毛長い……、フレンジアさんは彩萌に過去で会った時のことはおぼえて無さそうですね。
あれが彩萌だと、認識してないんでしょうね。フルーリアだったから?
イズマさんは、なぜか彩萌たちから顔をそむけて窓を開けて煙草を吸ってました。
「ずっちん久しぶりですー」
「えっ、ずっちん!? 何時の間に彩萌ちゃんとそんなに仲良くなったんすか!? そしてそんなあだ名を許容するなんてイズマさんと彩萌ちゃんの間に何が!?」
「……なにそれ、お兄さん初耳。お兄さんもちょっと詳しく知りたい、すごい詳しく聞きたい。場合によってはお兄さん許せないかも」
「そうだね、僕も知りたいな。イズマさん何時の間にそんなに彩萌ちゃんと仲良くなったの? イズマさんもロリコンだったの? そうだとしたら、許せないかな。彩萌ちゃんは僕の下僕なのに」
「……時と場所を選べチビ」
ジェリさんは純粋に驚いてたけど、なんかディーテさんと山吹君は怖い顔になった。
「お兄さんなんて生まれた時からディーテさんなのに!」って泣き始めちゃったから、なんか面倒くさいことになった。
お兄さんもあだ名が良いって、ディーテさんは泣くし。(たぶん泣き落とす為の演技)
山吹君は不機嫌そうな顔だし。
フレンジアさんはすごいそれを困った顔であたふたしながら見てる。
イズマさんは珍しく気まずい感じの顔してるし、ジェリさんは興味深そうにそれを見ながらしーちゃんと一緒にお菓子食べてた。なんだか、斬新な雰囲気。
彩萌も気まずいけど。
もっと山吹君と感動的な再会がしたかったのに、くそう……どさくさに紛れて抱きつけばよかった。
なぜだかディーテさんの話は広がってて、バージンロード一緒に歩きたいとか言ってた。イズマさんと結婚する気はありませんよ……、彩萌は山吹君と結婚するんです。
だからね、この変な空気誰かどうにかしてよ。
――アヤメちゃんの魔法日記、三十九頁




