黒い魔女は馬鹿でした
私、叶山彩萌、今を生きるおきゃんな乙女、ぴたぴたの小学四年生。
学校に返す事が出来なかったリーディアさんの魔法書は、今や彩萌の本棚に収まってるのだ。ためしに燃えるゴミの日にこっそり捨ててみたのです、ですがあんびりーばぼー! 家に帰ってきたらベッドの上に転がってるじゃーあーりませんか!
私は本を捨てた事をお母さんに悟られぬ様に、こっそりひっそり頑張って聞いてみたのです。
「私の部屋に本を置いたのはおかーさんですか?」
「お姉ちゃんじゃないの」
このこたえで彩萌は悟ります、なんたって私は天才ですからね。お母さんは犯人じゃない! そして彩萌は嫌な現実に直面します、お姉ちゃんはゴミ袋から本を取り出さない! という事です。
宇宙人の仕業に違いないのです、だって彩萌は幻想を信じていないのだ!
そんなものがあってたまるかー、ですよー。どんな言葉にもですよをつければけいごになると思っている彩萌はちょっぴり今時風です。うふん。
それから私はリーディアさんの魔法書を無視して生活をしているのです。
最近は宇宙人の侵略が無いので平和です。
それに彩萌の将来の夢は火星に行ってものりすを見るんです。だから宇宙人だと嬉しいのです。そんな事を考えながら、宇宙人の本を読んでいると本棚から本が落ちる音が聞こえたんです。二番煎じというやつです、あの銀色のへたれは同じ事をやってしまったんでしょうか?
でも彩萌はあいつらの所為で恥ずかしい目にあったんです、だから今回は無視なのだ。
「ちゃーっす、此処がアヤメちゃんのお家っすかー? なんか、チビッ子の部屋じゃないみたい……」
「良い趣味じゃないか、チビにしては良好なセンスだ。悪くないな」
なんだかお姉さんの声と、聞いた事の無いお兄さんの声がしました。
でも、彩萌は振り向かない! 宇宙人の所為でくつじょくを味わった事を忘れていないのだ!私は必死に宇宙人の本に集中します、会話なんて聞こえません。
「ふむ……、無視をするとはなかなか強情なチビだな、嫌いじゃない。常人の反応と言えよう、非常識で怪異な出来事をすぐに受け入れるのは狂人と馬鹿と考えなしのする事だからな」
「彩萌には何も聞こえていないのです……」
「そう言うな、チビ。……ふむ、本が多いな――……ほう、なるほど、ファンシーだな。稚拙で低俗で幻想的だな、道楽としては悪くない」
「彩萌の本の趣味を馬鹿にされています……! これは怒った方が良いと思うのです……、でも彩萌には聞こえていない!」
「何を言うか、俺様は褒めてやっているんだぞ」
「現実世界で俺様なんて言う人初めて見たっすよ……! イズマさん!」
「彩萌もです……」
どうやらお兄さんの方の名前はイズマさんというらしいです、俺様みたいです。
くすくすとお兄さんが笑っている声が聞こえます。
彩萌が反応しているなんて事は、誰にも言ってはいけない事ですよ!
「学術として確立されていないおかげで、魔術をこの様に使う。俺達には無い発想だ。これはこちらでも売れるな……」
「詐欺的な値段設定で売り付けるんすね! 流石イズマさん、鬼っす! 悪魔っす! 死ねば良いんだよお!」
「俺が死ぬときは資産ランキングで一位を取った時だけだ」
「イズマさん今何位なんすか」
「お前の所為で二位転落だ」
「なん……だと……! 私が早く借金を返済すればイズマが死ぬ!」
「ちなみに世界ランキングでは十二位だ」
「上げて落とすのが大好きなイズマさん! 大っ嫌いっす、死んでほしいっす!」
お姉さんが声を上げて泣き始めてしまいました。
イズマさんは真正のいじめっ子みたいです、楽しそうな笑い声が聞こえてきました。
お母さんが泣いて喜びそうな人なのかもしれません、お母さんは強い人が好きですからね。
「おいチビ、こっち向けよ」
「人の事をチビチビ呼ぶ常識のない人の言う事なんて聞かないのです、ひかぬこびぬかえりみぬなのです」
「アヤメちゃん、それ意味違うっすよ」
「対等の立場に立ちたいというのか、……まあ、良いだろう、お嬢さん此方を向いてくれますか?」
「イズマが敬語を使った……! 世界が終っちゃうよぉおおおお! ヒャッフゥ!」
お姉さんはどうやら変人の様です、もしかしたらイズマさんにストレスを感じすぎておかしくなっちゃってるのかもしれません。
とってもかわいそうな人です……、幸が薄いのかもしれません。
でも彩萌はちゃんと言った事は守るのですよ。
イズマさんは常識があったみたいなんです。俺様だけど。
彩萌は勇気を出して振り返ってみたのです、そしたらベッドに偉そうに座る悪役っぽいお兄さんと真顔のお姉さんが居ました。今までの話も真顔でしてたのかな、なんて考えたらちょっと引きました。お姉さん怖い。
イズマさんは目を細めて彩萌を見ました。
彩萌は知っています、それ流し目って言うんですよね!
「アヤメちゃんはプリティーガールっすね、耳とか可愛い感じにしないっすか?」
お姉さんは綺麗でも無く美しいでも無く可愛いでも無く、かっこよかったです。
イケメンってやつです……、真顔の所為かも知れません、笑えば美しい感じに違いないです。彩萌はお姉さんを怪訝な目で見ていると、私に指を指したんです。
それはしてはいけない事なんですよ。
「アヤメちゃんは、どうぶつだぁあああああああ!」
この人やっぱりかわいそうな人なのかもしれません……。
全身真っ黒ですもんね……、ワンポイント入れた方が良いです。
イズマさんだってお洒落な感じですよ。
そんな事を考えていると、彩萌の視界が悪くなっちゃいました。色が無くなっちゃったのです! 彩萌がワタワタしていると、お姉さんは私を抱き上げます。
彩萌の脇の下に手を入れて抱き上げた所為で、足がぶらーんで尻尾もぶらーんってしちゃってます。……彩萌は今、変な事を考えて変な事を見ちゃったことは記憶から消したいと思います。
「じゃん、アヤメちゃんにどうぶつさんの属性を付加したっす! キュートっすよ!」
「……彩萌、は、彩萌は今、彩萌……、うぅっ、うあぁぁぁぁん!」
「えぇっ!? 泣いちゃう!? アヤメちゃん泣いちゃうの!?」
「視覚による暴力だな、幻想を否定していたというのに、これは酷い!」
「いや、笑って言わないでほしいんすけど! ど、どうしよう!?」
「チビの姉が来そうだぞ、土産でも貰って帰るか」
「いやっ、勝手に本持ち出しちゃダメっすよ! 泥棒っすよ!?」
「別にかまわんだろう、複製したら返せばいい」
「た、確かにそうかもしれないっすね……」
イズマさんとお姉さんは本を泥棒して帰ってしまいました。彩萌の耳はそのままです。
完全にあの二人は忘れていたに違いありません。
目の前の金に目がくらんじゃってました。でもイズマさんはもしかしたら忘れて無かったのかもしれません……、いじめっ子ですからね。
彩萌はしょうげき的な現実に涙が止まりません、泣いているとお姉ちゃんが来てくれました。
「――彩萌? どう……、どうしたそのあたまぁあああああ!?」
彩萌の耳が動物みたいな耳になっちゃって、お姉ちゃんは凄いびっくりしてました。
そのあと彩萌は病院につれて行かれちゃったんです。
お医者さんはとてもびっくりしてました、でもいじょうは無かったです。
しばらく様子を見ましょうって言われちゃってお家に返されちゃいました。
彩萌はこのしょうげき的な現実が怖いです、本なんてしばらく読みたくないです……。
彩萌の体はどうなってしまうのでしょう? どうしたら元に戻れるのですか?
色が無い世界は怖いんです……。小っちゃい音が大きく聞こえるんです。
彩萌は幻想を体験してしまったのです……。
――アヤメちゃんの魔法日記、四頁