精霊さんが脆さを知る話
小さな草は生えたけど、それっきりで他の木が生えて来ることはありません。
リイムの実は小さくって可愛いのがついてますけど、食べられそうにありません。
木の下は風はよけられないけど、少しの雨なら大丈夫そうですけどね。
彩萌は情操教育を諦めたあと、聖女がやったことが全然分かんないから魔法書を読んだけど何やったか分かんなかった。
木を植えた、ぐらいしか分かんなくてやることなくなっちゃった。
雨とか風がよけられるように建物を建てたいけど、彩萌には土で家を建てる方法が分かんないし、魔法書にも書いてないからどうしたら良いのか分かんない。
教科書にも書いてないね、学校の授業で遭難した時の対処法を勉強するべきですよ……。
カラーゴーストさんたちは疲れしらずのようで、彩萌を遊びに誘いますけど彩萌体力ないんだよ。
夜はきません、ずっと太陽があるから。
でもずっと星も月もあります、何故かよく見えます。
だから彩萌がどれくらい起きてるのか分かんないです。
みんなうるさいし、眠れないし、そもそも木の下根っことかで硬いし。
しーちゃんは気にしてないと言うか、そもそもこういう感じの所に住んでたのか快適そう。
トイレとか、しょうがないから穴掘ってしたよ。
綺麗にしたいから水浴びもしたよ、でも綺麗になった気がしないのは彩萌が現代っ子だからだね。
まあそこらへんはカラーゴーストさんたちはピンとは来ないけど、知識としてはあったのか一人にしてくれましたよ。
お菓子しか食べてないし、なんか他の物食べたい。
健康的な食事がしたいです、和食が食べたいです。お家のベッドで寝たいです。
虫歯になるわー……、虫歯になったらどうしよう。
お母さんどうしてるかな、お姉ちゃんまた漫画の設定考えてるのかな、お父さん腰痛大丈夫かな。
話しかけられても困るよ、雨が降ったら困るよ、彩萌は疲れているんです。
ぽつぽつ、地面が濡れます。またグラーノさんを泣かせたんですか……。
彩萌がなぐさめに行かないといけないのかな、だってディーテさんとかふぇっくんとかテスさんとかユースくんがいちおうなぐさめるけど泣きやませられない時あるんだもん。
彩萌的に、つらいから必死だけどみんなは雨が降っても大丈夫だもんね。
テスさんは口下手っぽい、ディーテさんはちょっと失言してるのかも。
ふぇっくんはたぶんなぐさめるふりをしてるだけでどうも思ってない。
ユースくんはちょっと気が弱いし、おっとりしてるからちょっと何言ってるか分かり辛い。
フレアマリーさんは悪気はないんだと思う、でもなんか横暴だしいじめっ子気質だ。
自分が一番偉いから何しても良いって思ってるのかも。
むーちゃんは無邪気で残酷だ、自分が気に入らないものを徹底的に消そうとしてるみたい。
楽しいことは好きだけど、うるさいものは嫌いなんだってさ。
だからかふぇっくんとグラーノさんを毛嫌いしてる。
グラーノさんは、泣き虫であがり症だよね。
あー……どうしよう、彩萌がなぐさめに行かなきゃぐらーのさんなきやまないよ。
あめ、つよくなったきがする。
でもあやめ、なんか……うごきたくない。
さむいってかんじないけど、あめにあたるといたいしふくがひっつくからやなんだ。
でもぐらーのさんかわいそうだし、なぐさめにいってあげたいな。
「あやめ、だいぢょうぶ? どっかいたいの?」
いたいのかなー、わかんない。
でもあやめ、だいじょうぶだよ。
だってほら、がんばらないとやまぶきくんにあえないんですよ。
それにきっとおうちにはもう、かえれないんですよ。
あやめはせいじょになったらしいけど、まほうはつかえないからなにもできないけど、がんばればやまぶきくんにはあえるとおもうから。
だから、だいじょうぶなんだよ。そうなんだよ。
それにほら、あやめはおとなのれでぃだからじりつしたりっぱなおとなだから……。
だいじょうぶなんだ。
「あやめ、かおいろわるいよ……」
せいじょがなにをやるひとかわかんないけど、いまはぐらーのさんをなきやませなきゃ。
あめがずっとふってたら、みずびたしになっちゃうからね。
あやめは、およぐのにがてなんですよ。
およげないわけじゃないけど。
なくのだってつらいんだよ、つかれちゃうよね。うん。
あやめもちょっと……、つかれちゃったよ。
ふらふらするようなきがするけど、ねぶそくなのかな。
ちゃんとねないとだめだね、うん。
あーあめでじめんがべちゃべちゃのせいでころんじゃったじゃん。
「もーなきやんでよ……おねがいだから」
ふくがよごれちゃったじゃん。
もう、なんかどうでもいいよ。ねむくなっちゃった。もう、ねようかな。
めをつぶれば、くらいです。
なんかへんなはなしだけど、くらくってあんしんしました。
――……あー? うー? なんか、ふかふかだよ。
目を開けば、本棚が見えました。
彩萌が起き上がってぼーっとしてれば、ドアの外から声がかけられるんです。
「彩萌ご飯出来てるよー、早く起きないと遅刻しちゃうからねー」
「……あ、今いくー!」
ベッドから降りて、ドアを開けて階段を下りるの。
居間に行けば、お父さんとお姉ちゃんが朝ごはん食べてるの。
ごはん食べて、着替えて顔とか洗って一人で学校行くの。
学校行ったら勉強して友達と話して、本をよんで、本を借りて家に帰るの。
一人で帰ってきたら、宿題して本読んでお姉ちゃんとかと話してご飯食べてお風呂入って日記書いて寝るの。
……違うよね、だって学校行くときは山吹君といつも一緒だし、帰る時も一緒だし。
学校で本はあまり読まないよね、だって山吹君と話す時間がへっちゃうから。
でもそっか、彩萌が幻想世界行かないで現実世界にいたらこうなってたんだね。
それはすごく、寂しい話だなぁ……。
彩萌の日常には、山吹君が必要不可欠なんだね。
山吹君がいてこそ、彩萌の日常だったんだね。
「あやめ、がんばらないとだめだぁ……」
目を開けば、まっ白な天井が見えました。
……あれ? 天井? なにこれ、彩萌夢続行中だったりするの?
まっ白い、なんか石っぽい天井です。
起きようとして、誰かに手をにぎられているのに気付いてそっちの方向へと顔を向ければ真剣な顔のむーちゃんが見えた。
なんか、ちょっとだけ怖い。
何も言わないところとか、真剣な顔とか。
「人間って……、動かないほうが良いかも」
「――ごめんなさい、彩萌には何を言っているのかよく分からないんですけど」
「まっ白な顔とか、何も言わないとことか、動かないとことか、ぼく良いと思う」
真剣な顔から、なぜかむーちゃんは残念そうな顔になりました。
えっ、彩萌が起きたから残念なの? ……なんか、酷いよ?
「死んだら生き物はみんなそうなるの?」
「えっ、彩萌はちょっとよく分かんないです……」
「――……殺してみても良い?」
……えっ、なにそれ本気なの?
えっ、えっ彩萌なんで殺されないといけないんですか?
むーちゃんが怖い、本気で怖い。
出来たばっかりの時に見た、捕食者の眼ってやつをしてますよ!
にぎられた手が痛いですっ、しーちゃんと遊び(戦い)をしてるだけはありますねっ!?
「大丈夫だよ、だって神様言ってたもん。べつに聖女様を殺しても良いよって肉体が大事なんだって、幻想世界に彩萌ちゃんの体があれば良いって言ってたもん。亡骸でも良いんだってさ」
なにそれ、ひどい。
そんなに動かなくってまっ白で何も言わないのが良いならお人形さんで良いじゃないですかあ!
彩萌である必要ないじゃないですかあ!
にこにこと、何時もの無邪気な笑顔を浮かべてむーちゃんは言います。
「じゃあ最初の人形は彩萌ちゃんが良いなー」
「彩萌は嫌だ――――っ! 生き物は人形じゃないんですっ!」
彩萌の叫びがひびけば、ドアが開かれます。
そこに居たのはディーテさんで、彩萌を見て嬉しそうな顔をしたんですよ。
「あっ、彩萌ちゃんやっと起きたの!? もー、突然動かなくなってお兄さん吃驚したよー! 彩萌ちゃん一回死んでたよ? フレアが治してルニャが強化してくれなかったら心臓止まったままだったんだよー?」
マジですか、もしかしてむーちゃんが残念そうな顔したのは彩萌を治しちゃったから……?
何もしなければ死んだままだったのにやっちまったなー、的な感じだったからなの!?
そんな感じの後悔してたの!?
彩萌は人間不信……いや、精霊不信になってしまいそうです!
むーちゃんは小さく舌打ちをうつと、彩萌の手を離してくれました。
「生き物って脆いんだね、お兄さん吃驚しちゃったよ……。なんか、ごめんね? 神様に聞いたら生き物はちゃんと休憩が取れる場所が必要って言ってたから彩萌ちゃんが持ってた本とかいろいろ読んで勉強したんですよ! みんなで家っぽいの作ってベッドとかいろいろ作ったんですよ! すごいでしょ? お兄さんを尊敬しても良いんですよ!」
「でも……神様は彩萌を殺しても良いって言ったんでしょ?」
「えっ? うん、言ったよ?」
彩萌が暗い感じで聞けば、だからどうした、的な顔をされた。
なんか彩萌がそれを気にしているのがおかしいのかと思うくらい、不思議そうな顔してます。
「それがどうしたの? だって神様はなけなしの良心が蟻んこ程度に痛むから基本は殺さない方針でやってねって言ってたよ? 蟻んこに噛まれると結構痛いんだって」
「たしかに……結構痛いです」
「それにーお兄さん的に彩萌ちゃんが動かなくなったら悲しいなー、お友達でしょー?」
そうか……、むーちゃんはちょっと変な趣味に目覚めちゃったから変な感じだけど。
ディーテさん的に彩萌はお友達だから、死なないようにお手伝いしてくれたり助けてくれたりしてくれるんだ……。なんか、彩萌は感動した!
「でもね、彩萌ちゃんが死んじゃった時の為にお兄さん達棺桶ってやつを作っておいたからねっ! いつでも死んで良いからね!」
なんか、感動した彩萌の心が一気に沈んだ。
準備万端だね……ディーテさん。
でもね、彩萌的にね、まだ死にたくないからそれは使いたくないよ。
「……彩萌ちゃん、死んだらぼくにちょうだいね」
あぁ、未来のむーちゃんもそれ言ってたね……。そう言うことだったのか。
ディーテさんは、気分が沈んでいる彩萌の手を引っ張って部屋から連れ出したんですよ。
なんか家って言うか、すごいでかい教会とかなんか、お城みたいだった。
これ家じゃ……、あぁそう言えば彩萌のランドセルの中に学校で借りてきた本があったね。
その本たしか、童話的な感じだったね……。
窓の外をちらって見れば、すごい大きな木があって美味しそうな実を付けてたよ。
それになんか草とか花とかもいっぱい生えてて、海も見えた。
小さい木も生えてて、不思議な気分。
大きいのはたぶんリイムの木だね、……彩萌どんだけ寝てたのかな。
それでなんかすごーい大きな部屋……、聖堂? に連れて来られたんですよ。
「見てみてー、すごいでしょ? 立派でしょ?」
「えへへ……彩萌ちゃん起きたんだねぇ、このきらきらしたのボクが作ったんだよぉ」
超豪華で、綺麗だなって思うけどこれって彩萌の棺桶なんだよなって思うと喜べない、不思議。
そこに居たユースくんは棺桶の外側についたきらきらした宝石みたいな色んな石を触りながら、彩萌を見て笑顔を見せてくれました。
「ふたは……無いんですか?」
「まだ無いよ、だって彩萌ちゃんの顔が見えなくなったら寂しいから特別品だよー」
「蓋はねぇ、ボクがきらきらして透明なの作るからー出来上がったら見てね……」
「それにね彩萌ちゃん! このふわふわしたクッションとかはしーちゃんの毛で作ってあるんですよ!」
なんだか、彩萌の勘桶の話をしているのに彩萌は笑ってしまいました。
よく分かんないけど、涙も出ちゃった。
彩萌は嬉しいのかな、彩萌の棺桶の話をしてるのに。
ユースくんとかディーテさんに泣いてるから心配されちゃった。
後から聖堂に来たフレアマリーさんとかテスさんとかグラーノさんとかふぇっくんとかしーちゃんにも心配されちゃった。むーちゃんは来なかった。
なんか分かんないけど……まあ良いか、彩萌の勘桶があっても。
感性が違うだけでこれもディーテさんたちなりの、思いやりだよね……。
むーちゃんも変な趣味に目覚めちゃっただけで、彩萌のことが嫌いなわけじゃないよね?
いちおう、助けてくれたし。
彩萌は幻想世界に来て初めて本当に安心できたのかもしれません。
――アヤメちゃんの魔法日記、三十七頁




