モノクロームリアクター
べるさんにのんびりゆっくり、悠然に街中を歩かれた。
視線が痛い、誰か警察みたいなの呼んでー。
って思ったけど、誰がどう見てもべるさんは魔法で、術自体に誘拐的な目的がある様に見えないから誰もそんなことしないとべるさんに言われた。
ただ子供がぐずってて、抱っこされて歩いてるみたいにしか見えないだろうって。
でもこの魔法自我があるんですけどー!?
まあ、べるさん的に誘拐じゃなくてエミリちゃん追ってるんだろうけどさ。
歩いてないで、走ってくれないかな?
それか彩萌を下ろしてくれないかな?
しーちゃんはべるさんの触角かじってるし、痛くないのかな?
魔法だから痛いって感じない?
便利ですね……。
「あら~? えーっと……そうそう! アヤメちゃ~ん?」
公園なのか、広場なのか彩萌には分かんないけどそんなところを歩いていると癒される声がしました。
オリーネ先生ですよ! 元気だったんですね!
べるさんがオリーネ先生の方へとむけば、なんか袋とかいっぱい持ったオリーネ先生が居た。
なんかきらきらした袋とか、中身がきらきらしてる。
「こんにちは~、アヤメちゃんは元気だったかな~?」
「元気でした~、オリーネ先生は大丈夫でしたか?」
「元気いっぱいですー」とオリーネ先生はにっこり笑って言ってくれました。
癒される、……でもまだジェリさんにはなっていないんですね?
「綺麗な女性だな」とべるさんは呟いてました。
そうでしょ、オリーネ先生は凄い美人でしょ。
彩萌なんか目じゃないくらい美人でしょ、だからさ、下ろしてよ。
彩萌なんかにかまってたらオリーネ先生にあぷろーちできないですよ、だから下ろしてくださいお願いします。
というか、この抱っこのしかた腕が疲れるでしょ?
お姫様抱っこでしょ、これ。普通の抱っこでも腕って疲れるでしょ?
そんなことを考えていれば、普通に抱っこされてオリーネ先生が見えなくなりました。
このやろー……、下ろす気は無いってことか。
「挨拶もせず失礼した、私の名前はベルゼビュート。貴女のお名前を窺っても?」
なにこれ、彩萌の時と全然態度が違う。
というか彩萌を抱っこしながらオリーネ先生にアプローチしないでください。
そもそも本当にオリーネ先生にアプローチしないでください。
オリーネ先生は彩萌のものなんですよ!
「私? えーっと私はオリーネって呼ばれてるみたい?」
「オリーネ……可愛らしい名前だ。なんだかいつもより人が多いのだが、何か催しものでもやっているのか……オリーネは知っているか?」
「うーん、私も散歩に来て気付いたんですけどね~。フリーマーケットをやってるみたいなの~」
「お菓子屋のお兄さんに貰っちゃったぁ」とオリーネ先生は嬉しそうに袋を見せてくれます。買ったんじゃなくて貰ったんだ……。流石です。
たしかに……抱っこされてて恥ずかしいなって思ってて周り見てなかったけど、人多いかも。
というか、マジでオリーネ先生をアプローチしてるんですかっ!?
やめてー! 彩萌のオリーネ先生を変な目で見るんじゃない!
彩萌の癒しなんだからぁ!
そう考えていれば、背中をポンポンとべるさんに叩かれる。
それは……どういう意味ですか?
うるさいって意味ですか?
「いっぱい貰っちゃったけど食べきれなさそうだしアヤメちゃんに貰って欲しいな?」
「いただきます!」
「ではオリーネ、私達は他に用があるので失礼する」
「あら~? 私に手伝えることがあるならお手伝いさせてほしいな、家に帰っても何もないし……暇なの」
えっ、本当? オリーネ先生手伝ってくれるの?
全然心強くないけど、しーちゃんは必死でべるさんの触角を引き千切ろうとしてるから寂しかったんですよ! 実質べるさんと二人きりみたいな雰囲気が嫌だったんですよ!
「ベルゼビュートさんそんな露骨に嫌な顔しないで~。なんだかよく分からないけど、生徒を守る義務がある……みたいなー?」
「いやいやオリーネ何を言っている。私は貴女がついて来てくれると聞いて――……っ少しは楽になると思っていたところだ」
あれ、この二人……気が合ってない!?
べるさん嘘をつくのが苦しいなら、嘘をつかなくても良いんじゃないですかね?
そっか……ロリコンと元教師だからか、気が合わないんだね。
お菓子はべるさんが受け取ったみたいだけど、彩萌が直接受け取りたかった。
こんなべるさんに抱っこされるよりも、オリーネ先生に抱っこされたい。
頭なでなでされたい、そんなことを考えていればべるさんに頭押さえつけられた。
これが嫉妬なんですね、彩萌でも分かるよ。
彩萌的に自称ハエの王様よりも山吹君に嫉妬されたいよ……。
男の嫉妬は見苦しいって誰かが言ってた、王様は悠然としていないといけないんじゃなかったの?
「それで、用ってなーに? アヤメちゃん教えてくれる~?」
「えっとぉ、エミリちゃんって言う子を探してるんです。ちょっといろいろ問題があって大変なんです」
「……勝手に喋るんじゃない」
そんなことを言われても、彩萌は困る。
でもオリーネ先生はべるさんの事は気にしてません。
むしろ無視しているような気がします。
「新しいお友達なのね~? なら、探してあげなくちゃね! きっと困ってるもの」
「オリーネ先生はべるさんと違って役に立ちますねっ!」
「少し……嘘吐きでも良いんだぞ」
えっ? どうせべるさん頭の中覗けるんでしょ?
ならお世辞は必要ないですよね。彩萌べるさんのことあんまり好きじゃないし。
べるさんは不機嫌そうに、むすって顔してて黙りこんでました。
しばらく彩萌たちはいろんな場所をうろうろしてました。
エミリちゃーんと呼んでみたり、エミリちゃーんと呼んでみたり飴を舐めてみたり。
暗くなってきて、広場に戻れば人はほぼ居なくなっていました。
「居ないわね~……、早く見つけてあげないと本当に真っ暗になっちゃう」
「……べるさん、夜はあれじゃないですか? ……あの、べるさんはエミリちゃんの分身なんでしょ? 居場所分かんないの?」
「居場所? ……そんなの分かるに決まってるだろう」
えっ、……分かるの?
分かるのに、今まで黙ってたの?
エミリちゃん苦しんでいるんですよね? ……この野郎。
もう許せないですよ、流石の彩萌も許せないですよ!
「しーちゃんうぇいぶですっ! しーちゃんうぇいぶして!」
頭にきょうれつな放水をしてくれましたよ、彩萌は落ちたけど。
でもオリーネ先生がキャッチしてくれたから怪我は無かったです。濡れちゃったけど。
信じられないです、何考えてるんですか!
「久々に、外を回れて喜んでいる様に感じてな」
「……まあ、喜んでいるのは良いですけど。薬を飲まないと痛いじゃないですか、その後にいっぱい散歩してもらいませんか?」
「そうね~お薬を飲んだ後でも出来ることなら、薬を飲んでからでも良かったはずよね~?」
ただ、居場所把握できることを忘れてただけじゃないの?
目を合わせない時点で、怪しさまっくすですよ。
「えへへー、あやめ~ちーちゃんもどこいるかわかるよ!」
お前もかああああ。
まあしーちゃんは聞かれたりしないと考えないタイプみたいだからしょうがないけど……。
「エミリ・リデルはずっと私達を監視していたぞ……」
「えっ、じゃあ近くに居るの!?」
辺りを見回せば、白い姿が暗い中でしゃがみこんでいるのが見えました。
エミリちゃんはこちらをじっと見てました。
「あの子がそうなの? 複雑に絡んでるのね」
オリーネ先生は、彩萌にお菓子の袋を全部渡してエミリちゃんに近付いたのです。
ちょっと凶暴だよって言ったけど、オリーネ先生は大丈夫だって言ってた。
何が大丈夫なんだろう? でも先生だからな……何か考えがあるのかな?
というか防衛魔法の方は、大丈夫?
「貴女がエミリ・リデルちゃん? 綺麗な色をしてるのね」
オリーネ先生が結構近付けば、エミリちゃんは後ずさり。
動きがにぶいから、もしかしたらもう体が痛いのかも。
「私ね……属性付加について勉強してたのよ、灰色の魔法についていっぱい勉強したわ」
オリーネ先生ってどこまで記憶ないんだろ?
先生やってた時の記憶とかが無いのかな、それともあいまいな感じで覚えてたのかな?
よく分かんないけど、話し掛けてます。
「こう見えても、すーっごい先生だったみたいなの。私が書いた本がね、イズマさんの家にあったわ」
まじかー、オリーネ先生凄い。
……そう考えると、やっぱりオリーネ先生の大事な物は知識と記憶なんだね。
「私はね、魔力が全然なくて弱いの。でも私、最近知ったわ」
オリーネ先生はエミリちゃんの手を取ります。
鋭い牙で噛まれても、気にせずにオリーネ先生は笑います。
凄いねオリーネ先生、教師のかがみの様な人なのかもしれない。
「どんなに魔力を持って無くても、対価を支払えばどんなにたくさん魔力を持っている人なんかよりもすごーい魔法が使えるって」
「……えっ、オリーネ先生まさか自分をぎせっ」
足を踏み出せば、彩萌はいつもの様に落ちました。
最後まで言わせてほしいなって彩萌は思いました。
べるさんが驚いて穴の中を覗き込むのが見えました、オリーネ先生のお菓子持ってっちゃったよぉ!
「いやぁ――――――ッ!」
しーちゃんが穴に飛び込めば、穴は閉じてしまいました。
真っ暗な空間を、彩萌はまた長いこと落ちて行くのでした。
オリーネ先生とエミリちゃんは大丈夫かな!?
というかまさか、エミリちゃんを助けてオリーネ先生はジェリさんになるのかなあ!?
真っ暗闇が怖いよお。
――アヤメちゃんの魔法日記、三十二頁




